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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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昼ノ夜ひかりはこどものころ虐待を受けていた。本人もあまり覚えていないらしく小学生の頃に道で捨てられていた彼女を俺が拾った。服はボロボロで髪もぼさぼさ、においも酷く、死んでいるのではと思ったが呼吸はしていた。困っている人がいるなら助けるべきだと思い、ずぶ濡れになりながらその子を家に連れて帰った。家族はみんな驚いていたが誰も追い返すなどいったことはせず、風呂や水、ご飯などを用意してくれた。

虚ろな目の少女はただなされるがままだった、人形のように。それから変化があったのは1週間後の昼頃。

「----。」

口が動いたのは分かったが何も聞こえなかった。一応ペンを持たせてみると

私は何をすればいいですか、と書かれていた。怒りを感じた。まだ小学生かどうかもわからないこどもがいうことではないだろう。俺だってたかが小学生だったがそれが間違っていることくらいはすぐにわかる。

「なんで泣かないんだよ!なんでそんなに落ち着いてるんだよ!」

叫ばずにはいられなかった。この子にいったい何の罪があるんだよ。どんな理由があっても許されることではないだろ。俺が叫ぶその声にその子は何の反応もしなかった。

見つかってからしばらくは親を探した。もし見つかったらぶん殴ってやると思っていたが名乗りでる親もなく、その子もまた親のことは何も言わなかったのでわからずじまいだった。


その間家族はその子を本当の家族のように歓迎した。最初の頃はご飯も食べようともせず、風呂も入ろうとせず、ただただ働こうとするから大変だった。母と父は自分たちと同じこどものように接した。俺たち3兄弟も最初こそ戸惑ったが、一緒に遊んでしまえば遠慮や距離感などはすぐに忘れてしまった。言葉も精神的状態から話せなかったらしく、片言ながらもだんだん話せていった。そんなある日、その子に一つ質問をしてみた。名前についてだ。名前がわからないとやはり不便だし、それが親につながる可能性も十分にあった。だけど訊くのはやはり怖かった。もし親がわかればこの子はまた親元にもどり虐待を受けるだろうし、いなくなったら寂しくなるという気持ちもあった。

「知らない。だから君がつけて」

それだけ言うと妹の部屋に遊びに行った。


もちろんわが家族の一員にする、というわけにもいかない。行政に行き施設に預け、親元を探しいなければ養子縁組候補児となる。当然養子縁組となればすぐにでも引き取るつもりだ。だがもし親と名乗る者がいればそちらに行くことになる。親を探すのに見つかってほしくないという感情が強かった。前に背中に大きな火傷の後を見たことがある。発見当初もあざがたくさんあった。そんな家庭なんかに戻したくはなかった。


行政に行く日、別れの会話をした。父母には感謝の言葉を、妹と兄貴にはまた遊ぼうと。俺には

「あの時は助けてくれてほんとにありがとうね。じゃなきゃ間違えなく死んでた。」

「いいよ、気にしないで。大したことはしてないよ。」

「もう少し胸を張りなよ。私の救世主なんだから。顔がよければ間違いなく惚れてたよ。」

「そんなやましい気持ちで助けたんじゃない。」

「ふふふ。そうだね。...私の名前考えてくれた?」

「ひかり。」

「え?」

「いろいろ考えたんだけど、やっぱりこれからは明るく幸せに生きてほしいから。一番わかりやすいように。それと、これから困っている人がいたらその人のひかりになってあげてほしいから。」

「...ほんとに、君って人は...。」

「気に食わないなら全然変えてもらってもいいぞ?」

「いいや、変えない。大切な人からもらったものだもん。変えないよ、絶対に。」

「恥ずかしいからやめてくれって。」

「ふふふ。...最高のプレゼントだよ。」

そんなことを言っていた。

ひかりはそれからみんなに向かって「じゃあね!!」と大きな声で言い、歩いていった。

彼女のその背中がとても頼もしくて、もう君たちがいなくても大丈夫と言っているようで、俺は泣いて願った。また会えますように。


後日談。

そのあとひかりは施設に行き親を探したが、親は現れずついホッとしてしまった。一刻もはやく養子として招きたかったがなかなか手続きが進まず、そしてもう17歳なのでと養子ではなく居候として我が家に来るらしい。施設に入ってからも頻繁に会っていたので寂しいという感じはあまりなかった。むしろ「こんなに会うのかよ。別れた際の俺の涙返せよ。」と思ってしまった。そういえばいつの間にか苗字が「昼ノ夜」になったがあれはどこからきたのだろうか。気が向いたら訊いてみるか。





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