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いや、何奴ってあいつら以外ないだろ。なんで1人でボケと突っ込みやってんだよ。というか隠れるならもっと頑張れよ。下手か。
「後ろの3人、ばれてるから。盗み聞きなんて趣味悪いぞ。」
キャー、逃ーげろー。そんな何とも楽しそうな声が響いた。
「なんだ、つまらないな。折角あいつらにお前の本音を聞かせるチャンスだったのに。」
「気付いてるのにこんな質問するあたり、鉋が一番質が悪いな。」
「親切心というやつさ。言っとくがいつまでもうやむやで答え出さないなんて真似、するんじゃねえぞ。」
さすがにそんなことはしない、と思う。「期待させるだけさせて」なんてものは俺が最も嫌うものだ。
「わかってる。俺だってもう子供じゃないんだ。自分のことくらいどうにかするさ。」
「そうか...。」
なんだか柄にもない事を言ってしまい、少し恥ずかしくなってきた。鉋も黙らないでよ。
「そ、それより鉋の方ははどうなんだよ。大学で彼女の1人でもできたのかよ。」
「ん?ああ、できたよ。この前の花火大会も一緒にいた。」
「痛ッ!?」
包丁を落としてしまった。幸い峰の部分が当たり、コーン、と高い音が響いただけだった。かなり痛いが。だがそんなこと一切気にせずに鉋は話を続ける。
「それとこれからは真剣な話だ。」
作業の手を止めて、静かにこっちを向く。怖いくらい真剣な顔で。
「なんだよ。真剣な話って。もしかしてその彼女さんと結婚するとか言うのか?」
自分言っておいて、絶対に違うだろうと確信していた。そんな話なら喜んで聞いたのに。
「昨日、彼女とは現地集合だったんだよ。彼女が8時までアルバイトで働いていたからな。そしてそのアルバイト先はかき氷屋、その受付として働いてたんだよ。丁度、お前が変な男に会った時間にも、受付として働いていた。」
「は...?」
「俺もおかしいと思って色々確認した。でも確かに8時の花火にはかき氷屋に彼女を迎えに行ったし、その前にも俺も含め何もの友人が、確かに彼女の店に訪れてる。」
「いや、そんなわけないだろ。だって確かにあれは男だった。それになにより、犯人は捕まった。その男は確かに花火大会のと同じ顔だった。おい、鉋。こんな冗談、さすがに趣味が悪いぞ...。」
しかし鉋は静かに首を左右に振った。そしてポケットの電話が鳴った。
写真だった。大学生くらいの数人がかき氷屋の前で笑ってる。とても仲睦まじく、楽しそうなのが写真越しにも伝わる。全5色、赤、青、黄、橙、紫に染めた綺麗なかき氷をみんなで食べていた。店の中にいる女性が彼女さんなのだろうか。鉋には不釣合いなほど美人さんだった。そして右下に日時は書かれていた。それは昨日の午後7時39分。
「...。」
何だかな~。ここまで来るとさすがにうざったい。もう犯人捕まったんだからそれでハッピーエンドでいいじゃん。長すぎるよこの一件。
「なんだかすまない。折角犯人らしき人も捕まり、ようやく一段落できそうだったのに...。」
申し訳なさそうにする鉋に軽くチョップをし
「それより早く夕飯にしよう。腹減ってしょうがない。」
などと強がった。それと同時に3人がドアから入って来た。お腹減りました、ねー、何作ったの~、などなど言いながら。ハッスルしすぎたのか3人とも目元が赤かった。鉋はハイハイ、と流すと俺を見て笑った。俺が傷つくと思っていたのだろうか、俺が笑ってる姿を見て安心したのだろう。
鉋、頼むからそんなすぐわかるような嘘なんか言うなら本当のことを話してくれ。
寝る前、1本の電話をかけた。応答はなかった。もう1人に電話をかけた。こちらもでなかった。俺の疑いはだんだんと確信に近づいていった。
朝起きるとそこにはいと美しき女性がいた。艶やかな髪、整った顔。寝息は穏やかで、呼吸するたびに俺の頬に吐息がかかる。俺は未だ覚めないこの夢がもう少しだけ続いてほしいと思った。いや、現実なんだけどさ。
「ん、うぅ...。」
女性は態勢を変えると、また気持ちよさそうな顔で寝息を立て始めた。さらに顔が近づいた。その分俺が遠ざかった。鼻を掴んでみると、少し慌てた様子を見せた。これはなかなか面白い。
「こんなことやってる場合じゃないか。」
とりあえずあかりを起こすか。こんなとこ誰かに見られたらたまったもんじゃない。後から思えば、今の言葉がフラグになったんだろうな。もうその後はお察しの通り。
篝(・_・)
俺(;^ω^)
あかり( ˘ω˘)スヤァ
「お母さーん。」
「弁解のチャンスを!!」
「いや、弁解も何も見たまんまでしょ。」
「いやいや違うんだ!朝起きたらなぜか隣にあかりが居たんだ。」
「いやいやいや、それはきついでしょ。あきらめなよ。」
まずいぞ、これは。本当に何も知らないがそれを立証できるものも何もない。
あかり( ˘ω˘)スヤァ
「それであかりはいい加減起きろよ!」
「あれ?私、なんでここで寝てるんですか?」
俺のほうが聞きたいよ。あかりはとろ~んとした目で昨日のことを考えてるらしい。だいぶ眠そうだ。だがそんなことより早く俺の無実を証明してくれ。
「そういえば、気持ちよかったです。夜一さんの..….」布団、と。恐らく最後のは声が小さくて篝に聞こえてないだろう。
「有罪。」
「ご慈悲を!どうか私めにご慈悲を!!」
「夜一さんの(布団)が暖かくて、(布団に)包まれるたらもう(眠気に)抗えなくて。(寝ては)ダメだってわかってはいたんですけど...。もう(布団の)虜になってしまって。我慢できなくて。」
「shut up!貴様、俺を謀るつもりか!?はったおすぞ!」
なんで肝心のとこ全部伏せてるんだよ。絶対誤解生むようにしてんだろ。
「張っ倒すなんて、やめてください。そんな乱暴しないでください。」
微妙に涙目なのは恐らく寝起きだからだろう。しかし篝にはそうは見えなかったらしい。弱い女の子を襲う獣と言ったところだろうか。
「兄さんも信じたい気持ちはあるけどまずは死ね。」
そんなラブコメみたいな朝だった。