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2つの件の犯人が捕まり、俺たちは恐怖から怯える必要はなくなった。
「それなのになんでそんな浮かない顔してるんだ?」
俺は捕まった錦を見送った後、訪花に頼み込んで海雪に会わせてもらった。病室の海雪は火傷の痕が深く残り、恐らく完全に消えることはないだろう。その他にも骨折や気管支にも影響がでているらしい。
「色々と考え事だよ。それより、本当にすまない。海雪をそんな体にしちまって。」
海雪は小さく、はぁ、とため息をつくと、軽く拳を俺に当てた。
「お前は俺と同じで被害者だ。だったら謝るのは違うだろ。それに、お前がやるべきことは他にあるだろ。お見舞いはいいからさっさと帰れ。俺もやることがあるんだから。」
そう言うと、手元のパソコンをカタカタと動かし始めた。時刻は朝の8時。俺もお腹がすいてきた。
「それじゃあまたな。元気になったら顔出せよ。あと、頼んだ。」
海雪は軽く手を振るだけだった。俺は苦笑いをし、その場を後にした。看護婦さんに海雪の怪我の詳細などなどを聞いた後病院も出て行った。
海雪は錦という男は知らないとのことだった。俺と同じで小学校の人は俺以外覚えてない、というか知らないらしい。「俺が興味を持ったのはお前だけだ。」なんて言われたときは自らの危機を感じた。二人きり、密室、ベット、まさか!?いやいやいや、ないないない。閑話休題。もし錦に面会ができるようになればさせてほしいと伝えた。やはり本人から色々と聞きたいことがある。あと、海雪は鈴木さんについて何も知らないようだった。海雪の中に少しも鈴木さんが残っていないというのは、少し寂しいような気持ちがした。俺はいつまでも覚えていようと思った。それでいつの日か花でも手向けに行こう。
家に帰るとすぐ、あかりが飛び込んできた。俺はあかりを支えきれず、後ろに倒れてしまった。
「どこ行ってたんですか!?バカなんですか!?アホなんですか!?どんなに心配したと思ってるんですか!!寝る前言ったこともう忘れたんですか!?なんで何も言わないんですか!?なんで1人で行くんですか!?」
ここまでだとは思ってなかった。せいぜい一喝して終わりだと思ってた俺が甘かった。首元を掴んで前後にゆっさゆっさ。頭がぐわぁんぐわぁんするぞ。ぎぼぢわるい...。
「そんなに私は...…頼りになりませんか?」
揺れが収まる。よし、そのままそのまま。
「落ち着「頼りになりませんかー!?」」
第2ラウンドスタート!!夜一選手、もう限界です!しかし全く話を聞いてくれないあかり選手、攻撃の手を緩めない!さあだんだんと夜一選手の、意識、が、消え...。
ぉ-ぃ。ぉ--ぃ。
「はっ!?」
やばいやばい。誰か女の人が川の向こうで手を振っていた。恐ろしや...。
「あ、起きた。」
場所は変わらず玄関。少しだけ気を失っていたらしい。頭上には篝が、少し離れたところに説教をしてるひかりとそれを受けてるあかり。何となく状況は分かった。気持ち悪さもほとんど消え、大きく深呼吸を1つ。
「もう大丈夫そうだね。それじゃあ後は頑張って。」
篝はそれだけ言うと背を向け、リビングへと帰っていった。俺も立ち上がり、説教中の2人の元へ行った。
「あー、今朝はいきなりいなくなってごめんな。ちゃんとそのこと含め、説明するから。とりあえず朝ごはんにしないか?」
不承不承ながらも2人とも朝ごはんにしてくれた。俺の目玉焼きが白身だけで、全然目玉焼きじゃなかったり、トーストが耳だけだったり、みんなお茶の中、俺だけロックアイスと何かいつもと違っていたが、男なら小さいことは気にするべからず。
そんなカオスな朝食後、今朝のことを一通り話した。しかし、シンガポールの件は話さなかった。篝も知らないのならわざわざ知る必要もないし、もう終わったことだ。
「じゃあもう怯えることはないのね。それなら花火大会の分まで遊んできなさいよ!ショッピングとか!」
母さん、それは言っちゃだめだ。
「おお、いいねいいね!あかりちゃん、篝ちゃん、一緒に行こ!もちろん、夜一の奢りだからね!」
当然、俺に拒否権はなかった。まさに絶対王制。革命でも起こすべきだろか。
くたくたになり家に帰って来た。もう日も没し、夕飯の支度をしなければ。今晩もまた母がいないらしく、夕飯を作ることになりそうだ。そういえば携帯に幸生からメールが来てたな。
「遊びたい!部活もしばらく休みだからみんなと遊びたい!」
そういえば夏休みに入って唯一幸生とは会ってないな。ん?いや、もちろん忘れたりなんかしてないよ。ちょっとこの頃忙しくて、連絡取る機会なかっただけだから、ねぇ?…...俺は一体誰に弁解してんだろう。
夕食は俺と鉋が担当になった。他の3人は2階で、今日買ってきた服のファッションショーをしてるらしい。ほんで本日のメニューはオムライス。Simple is best. というやつだ。やっぱり安全第一だよね。
「ねぇねぇ夜一君、つかぬ事をお伺いしますが、君には好きな人がいるのかな?」
「なんでそんなことを聞くんだよ。いないよ。」
「え~。うっそだ~。今だってほんとは2階に行って、みんなの可愛い姿見たいんでしょ?」
「料理に集中しなよ。不味いの作ったらあいつらにどやされるぞ。」
「じゃあじゃあ、あの3人なら誰が一番かわいいと思う?みんな可愛くて甲乙つけがたいだろうけど。」
しつこいな、こいつ。でも前に俺が海雪にこういう事してたから、なんだか強く言えないんだよな。いいじゃん、みんな違ってみんないい。十人十色、三者三葉、千差万別、蓼食う虫も好き好きと言うではないか。
「「「.....」」」
はっ!?
背後から何かの気配が!何奴!?