33
電話を置き、膝から落ちた。
「結局海雪の居場所聞けてねぇじゃん...。」
完全に目的を失っていた。まあ海雪がとりあえず無事、とは言えないが訪花とは連絡を取れたので良しとしよう。でもどうする。唯一の希望だった海雪と会えないとなると打つ手なし。小学校の友達もいないし、卒業アルバムとかもないし。訪花の連絡を待ってたらいつになるのかわからない。これは、詰んだのか?詰んだな。詰んだよ?
トントン。扉からそんな音が響く。
「あの、夜一さん。あの、えっと、大丈夫ですか?」
「もうだめだ。終わった。詰んだ。あははははははははは!!」
「ちょ!し、失礼しますよ!」
扉を勢いよく開け入ってくる。それから俺の前に腰を下ろした。
「そんなにショックを受けてたんですか。すみません。そうですよね、直接その現場にいたのは夜一さんだったんですから、一番怖かったのはのは夜一さんですよね。」
抱きしめられた。抱きしめられた?やばいやばい、ダメだって。この子は年頃の男の子の怖さをわかってないのか!?もしかして天然なのか!?何にしてもこれはいろいろとやばい。
「大丈夫ですよ。私もひかりさんも、みなさんいますから。決して1人じゃないです。もし、困ったときは一緒に悩みます。寂しいときは傍にいます。苦しいときは励まします。あまり力になれなくても、何もしないのは嫌なんです。」
ダメだこいつ全っ然わかってねぇ!すんごいいい感じのことは言ってるのはわかるが、全く頭に入ってこない。それにさっきから髪からいい香りが...…。あかん、理性崩壊するぞほんと!というかなんか抱きしめる力強まってる気がするんだが!
「あ、ありがとうなあかり。もう大丈夫だから。」
「それならよかったです!」
あっぶねえ、ギリギリで留まれた。あー、この笑顔はダメですわ。穢れを知らない真っ白な心って感じ。あかりのおかげで俺の心臓張り裂けそうだよ。
そして俺は誤魔化すように話題を変えた。小学生の頃のあの話について、一連の出来事を話した。終わるまでずっと、あかりは黙って俺の話を聞いてくれた。
「あかりは確か、その亡くなった女の子と友達だったんだよな?名前とかって覚えてるか?」
俺はあまり昔のあかりを知らない。学生の頃あかりの父親が捕まってから、辛い生活をしてきたということくらいだ。それでもあの女の子は友達だったと、そう言ったのは覚えている。
「名前...ですか。」
名前を知ったところで何も変えられない。今も、昔も。それでも、知りたい。
「あの子の、名前は」
「鈴木さん、です。」
「すみません。苗字しか知らないんです。私はあまり学校には行けなかったので。」
鈴木さんていうのか、あの子の名前は。
「それであの、その大柄の男の人が今日の夜一さんに脅迫じみたことをした人だと考えているのですか?」
「まあな。他にそんなことする人思い浮かばなくて。その男については、何も知らないよな。」
あかりは小さく頷いた。少し溜息を吐き出し時計を見る。だいぶ話し込んでしまい2時近くなったしまった。さすがにこれ以上は申し訳ない。俺はあかりを篝の部屋に案内し、ここで寝るよう頼んだ。篝も喜んでくれて何よりだ。俺も部屋に戻ると疲れてたせいか急に眠気に襲われ、目覚ましもかけずに布団に入った。
夢を見た。俺と鈴木さんと海雪と仲良く屋上でお昼を食べていた。何か他愛のない会話をし、大したことでもないのに笑ってた。みんなが幸せそうに見えた。俺がもう少し心を開いていれば、この夢も現実になったのだろうか。
朝5時、俺は山の中にいた。武装した多くの人が集まり1つの家を囲んでいた。そして武装集団が扉がこじ開け、窓を割り家に入り、催眠ガスか何かの煙が家から溢れる。しばらくした後、1人の男が引きずりだされた。おっさんだった。いや、正確には俺と同い年のはずだ。名前は錦春風。
「あの時と顔、変わってるんだな。」
「日本で整形したらしいよ。犯罪者の常套手段だよね。」
俺はどちらの顔も見たことが見たことがあった。フィリピンと、昨日の花火大会で。
その2時間ほど前。俺が臥せてから1時間ほど経ったころ、静かな空気を携帯が壊した。寝ぼけた状態で電話を確認すると、非通知だった。これは取らないのが正解なのか?だけどもし知り合いとかなら申し訳ないな。
「はい、どちらさ「訪花だよ~。えっと、とりあえず神倉君の家の前に車停めてあるから乗って。そしたらまた連絡くださいな。」…...。」
とりあえず着替えてから家の前に停まってる車にとりあえず乗った。俺、不用心だな。そしてさっき連絡先に入れた番号にかける。
「は~い、どちら様ですか?」
おい、俺の連絡先知らないのか。
「あ、神倉です。とりあえず車には乗ったが...。」
「ん、了解。行き先にはもう向かってるから、1時間半ほどで着くよ~。」
「はぁ。それはいいとして、もしかして今回の電話って...。」
「うん。犯人が見つかったからもうすぐで捕まえるところ。一応神倉君には連絡をと思って。ついでに名前は錦春風だってさ。」
恐ろしいまでの速さだな、まだ半日どころか6時間も経ったかどうかだぞ。犯人は日本人だったのか。
「わかった。じゃあ4時半頃にそっちに行けると思うけど、一応近くなったら連絡する。それと少し我儘聞いてもらっていいか?」
「どうぞ何なりとお申し付けくださいませ。」
なんだかこの人にはペースを崩されるなぁ。
「その錦って人の捕まった時の顔を見たくてな。」
「ふふっ、趣味の悪いお人で...。」