26
日に日に夏も本格的になり、8月まであと1ヶ月ほどになった。高校生はみなこの時期、夏休みの話題がよくのぼる。花火大会、部活の大会、旅行、キャンプなどなど。そんな中
「夏休み、皆さんでどこか行きましょう!」
あかりならこういう事を言うだろうとは予想していた。俺の偏見かもしれないが、女子はイベントを好む傾向にあると思う。この前言った通り、俺はそういうのがあまり好きではない。こんなクソ暑い中、外出なんて自殺行為だ。そんなわけで俺は辞退させてもらう。
「俺短期のバイトあって…」
「全部落ちたけどな。」
おい。
「宿題やらなくちゃいけないから…」
「あんなの配られた当日に終わるわ。」
なんだと?
「友達の部活応援行かなきゃ…」
「他に友達なんかいないだろ。」
「おい、海雪。さっきからなんなんだおめぇ。今日はやけに突っかかってきやがって。お?」
「この頃面倒事が多くてな。その発散だ、許せ。」
「ならもう少し反省の色を見せてほしいものだな。態度で示そうぜ、なぁ。」
俺の言葉をほとんど聞く気がないらしく、ずっと何らかの書類とにらめっこしている。
「というかそもそもそれは定期テストに受かったらの話だろ。赤点なら夏休み補習って話らしいがその辺り大丈夫なのか?」
俺はいつも平均とれればいいかみたいな感じで問題ないとして、あかりは見るからに平気として、海雪はどうでもいいとして、だ。
「ひかり、集合。」
「はい。」
何故か自信に満ちた顔。これは多分一周回ってアカンやつですわ。
「お前、テスト、大丈夫?」
「私、テスト、だいじょばない。」
なるほどなるほど。そうかそうか。
「今日帰ったら飯、風呂、寝る以外は勉強な。」
授業中たまに様子を見てるが、どうも頭に入ってるようには見えない。この前は色々と忙しかったからしょうがないとしても、ここ最近は平和そのものだ。これでテストが失敗してふてくされても困る。俺も心を鬼にしなければ。それでもなぜか、ひかりはそこまで嫌な顔はしなかった。
「そうなると夜一が私の勉強教えてくれるの?」
「まあ家にいる時は少なくともな。」
「ずっと?」
「いや、テスト期間だけだが。」
「じゃあテストの度教えてね!」
いやさ、わかってはいるよ。さすがにこの前の会話聞いてさ、なんでひかりがこんなにも嬉しそうにしてんだろうな、とは思わないけどさ。まあそれでちゃんと勉強してくれるなら構わないけどさ、
「なら俺も一緒に勉強教えてほしいっす!」
こういうのが出てくるんだよ。
「俺も勉強全然できなくて困っててさ。」
「ダウト。」
俺は知っている。幸生、貴様この前のテストでクラスで仲いい奴らの中で1位取ったって調子乗っていたよな?あの時お前らが盛り上がって俺の服にコーラかかったんだぞ。汚れ落とすのめんどくさかったんだぞ。
「そんな殺生な。後生です。お願いします。そんなイチャラブ空間、ぶっ潰したいんです。」
せめて本音は隠せよ、整形レベルでぶん殴るぞ。
「じゃあ皆さんで勉強会をしましょう!」
あかり、それ絶対やんないやつだから。ただ集まって駄弁るだけだから。
しかしここで俺の悪魔が目を覚ました。
「そうだな、それは実にいい案だ。そうなると広い場所が必要だな。そうは思わないか、海雪?」
ニタリ。我ながらゲスな顔をしていたと思う。するとみんなと少し離れた暗がりに連れ込まれた。
「...お前さてはさっきの書類見てただろ。」
勝った。
「んんんん?知らないなあぁ。なあぁぁんのことかなぁぁ。」
「はぁ、勘弁してくれよ。さっきのは謝るから。さすがにあれは見られたくない。4日後なら全然平気だから、それまでは勘弁してくれ。」
「ハハハ。わかったよ、さすがに俺も冗談が過ぎた。」
「ほんと心臓に悪いぜ...。」
ここで解説。
海雪がすごい家庭で育ったのはすでに説明済みかと思う。その海雪ももうすぐ18歳。結婚できる歳である。さっき見た書類にはその相手の候補が書かれている。どうやら2日同棲してみて相手を決めるらしい。つまりそこに乱入すればそれはもうニヤニヤが止まらないのです。暗がりから戻ってきた俺の第一声。
「てなわけでみんな、 明日学校終わったら海雪の家行くぞ。面白いもの見れるぞ。」
目を覚ますとすでに5限目が始まっていた。
「それは夜一兄さんが悪い。」
家に帰り、篝に「顔大丈夫?」と言われ鏡を見ると知らない人がそこに立っていた。ブッサイクだな。どうりでひかりが目を合わせないわけだ。
「人の嫌がる事をするからだよ。」
正論すぎて何も言えない。まるで母親に怒られてる気分。
「それよりひかりちゃんの勉強教えるんでしょ?早く行ってあげなよ。」
「はい。」
兄の面子丸潰れである。
「よし、じゃあ始めますか。」
「ん…。」
「じゃ、じゃあまずは数学からな。」
「ん…。」
なんでそんなに顔紅くするの。こっちも意識せざるを得なくなるからやめてよ。あれか、いざ勢いで言ってはみたけど、実際すごい恥ずかしいみたいなあれか。あかん。俺もなんだか熱くなってきた。