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最初鉋の話を聞いてなんで鉋が佐藤のことを知っているんだろうと思った。俺は一言も佐藤の名を口にしてなかったのに。
「鉋が佐藤君のことを知ったのはもちろん施設でだ。俺はわからなかったが篝は知らないと思う。俺たちがひかりと会う時はいつも奥に隠れていたからな。だけどそれ以外の時はいつもひかりについていた。そうだよな、ひかり。」
ひかりは名前を呼ばれビクン、と肩を震わせた。
「うん、そうだよ。佐藤君は小さい頃、施設の前に捨てられてたんだって。小さい頃から誰に対しても心を閉ざしていたんだよ。その時の佐藤君の気持ちはわかるし、私はみんなと会って変われたから、今度は私がその子の"ひかり"になれるようたくさん話しかけたり、遊びに誘ったよ。」
俺を見て微笑んだ。確かにそういう風になってほしいの名前を与えたのは俺だが、なんだかそういわれると恥ずかしいな。 もちろん嬉しい気持ちも大いにあるが。
「それで時間は掛かったけど、段々と心を開いてくれたんだよ。それからはみんなとも仲良くなって、高校でも楽しく暮らしてると思う。」
ひかりは一通り話し終わる少しだけ憂いた顔つきをする。俺は自分が嫌われる理由がわかった気がした。
「私がだんだん遠くに行ってしまいそうで怖かった、とか?」
「だろうな。1人絶望の中にいた自分を救ってくれたひかりに対し、好意や感謝などたくさんの思いを重ねていった。そのひかりが施設から出たことにより不安や寂しさがまた襲ってきた。そしてひかりが学校に来た。その時は飛び跳ねるほど嬉しかっただろう。でも隣にいるのが自分ではなく、目立たないクラスメイトだった。その後も仲睦まじい姿を見せられたり、同居までしているときた。希望を何度も持たされ、その度に絶望させられる。生き地獄だと思うよ。そんな感情が俺に怒りとしてぶつけられたのだろう。」
話が終わる頃にはイライラなどは消えていた。本当にかわいそうだと思った。立場が逆なら俺はとっくに危害を加えている。生きる希望が奪われそうになっているんだ。我慢できるわけがない。
それなのに佐藤は忠告しかせず、それ以上は何もしない。帰り道の時はすでに2度も忠告を受けたというのに。なぜだ?心の中で急に不安が広がる。
「何が起きてもお前のせいだからな。」
もしかしてあの言葉の意味を間違えて捉えていたのか?
「もしかしたらお前らが佐藤君のことを悪者と捉えてしまいそうだったから今回俺も話に加わった。。このことを知ればきっと考えを変えてくれると思ったんだよ。あの子はただ寂しいだけなんだ。」
扉の向こうからそう聞こえた。そして考えた挙句、1つの結論に辿り着いた。
「佐藤はひかりを諦めた、のか?つまり、生きる希望を捨てた…?…あいつまさか!」
帰り際佐藤が見せたあの表情。何の感情もない、全てをあきらめたような顔。やっとわかった。
「やめろよそんな事!」
俺は叫びながら部屋を飛び出した。俺の言葉に鉋も事情がわかったのか
「すぐバイク出すから乗れ!」
と言った。叫び声に驚いた篝が飛んできたが構ってる暇はない。「鉋はバイクで探してくれ!俺は心当たりありそうな所あたる!」そう言い2人家を飛び出した。俺はひかりがいたあの施設に走り出した。
走りながら俺は電話でひかりに事情を話した。ひかりは驚きつつも篝ととも佐藤を探すと言った。その後に海雪にも連絡をし、探すのに協力してもらった。
全力で走り10分ほどでそこに着いた。ついてすぐ受付に駆けつけて確認したが、まだ佐藤は帰ってきてないらしい。頼むから間に合ってくれ。お前は俺に危害を加えるよりも自分の死を選ぶのかよ。ふざけんなよ、せめて告白の一つでもしてみろよ。
俺は考えられる全ての場所に向け走り出した。
施設付近、学校、海、山、公園。俺の考えられる場所は全て回ったがわからなかった。あれからもう1時間は経つ。俺はひかりに電話した。
「ひかりか、どこかあてはないのか?それらしいところは回ったんだが全然いない。」
「わかんない。私もそれらしい場所、回ってるんだけど。」
ひかりも息を切らしている。かくいう俺も体力がなくなってきた。
「どこか2人の思い出の場所みたいな場所はないのか。2人でよく行く場所とか、初めて出会った場所とか。」
「初めて出会った場所…」
ひかりは何度も呟きながら考えている。俺は走りながらその答えを待った。
「あった!」
「どこだ!?」
「夜一が私を助けてくれた場所!」
「それってあの川の近くの道か?」
「そう。あそこが私が佐藤君に初めて会った場所。」
「わかった。ひかりもすぐに向かってくれ!俺もすぐ行く!」
電話を切ると俺は走った。俺とひかり、そしてひかりと佐藤との出会いに場所へ。