21
春も終わりに近づき、夏の暑さが日に日に感じられるようになった季節。
「運動会だよ!」
布団が剥がされる。
あー、うるせぇ。俺は今日休日なんだよ。
布団を掛ける。
「運動会だよ!!」
布団が剥がされる。
「今日もひかりはかわいいな。俺は本当に幸せだよ。」
頭を撫でる。へへへ、とひかりも幸せそうだ。
布団を掛ける。
「じゃあ私も一緒に寝る。」
アドレナリンが大量に分泌された。意識が覚醒し、眠気が消し飛ぶ。
「何を寝ぼけた事を言っている。早く準備したまえ。遅刻するぞ。」
「さすがにそこまで否定されると傷つくんですけど…。」
去年の体育祭には参加しなかった。6月はまだ蒸し暑く、そんな中なぜわざわざそんな事をする。そこに海雪からバイトの誘いが来たから家族に黙り、家を出た後、バイトに向かった。家に帰るとすでにバレていたらしく、ひどく怒られた。今年はひかりもいるし逃げられないのはなんとなくわかっていた。
そんな訳で家から引っ張りだされた。
「夜一は本気出せばそれなりにできるのに。勿体無いよ?」
そう言われても俺にはそのやる気がない。やる気がないならそれはできないと変わらないと思う。
「俺はいんだよ。そういやひかりは何の競技に出るんだ?」
ついでに俺は何に出るのか聞こうとしたが、多分怒られるからやめておこう。
「私は綱引き、玉入れ、色別対抗リレー。それと必須のダンスとクラス対抗リレーかな。」
たくさん出るんだな。じゃあ俺は必須のダンスとクラス対抗リレーか。
「あ、そうだ。」
ひかりの笑顔。何だろう、嫌な予感。
「そういえば夜一、種目決めの時寝てたよね?」
もういや、聞きたくない。それ以上言わないで。
「色別対抗リレー、男子いなかったから夜一になったから。クラス対抗リレーのアンカーも。」
「帰る。」
「寝てた夜一が悪いでしょ~。それにそんなことしたらクラスから居場所なくなるよ?」
これだから行事は嫌いなんだよ。
「これで俺らのクラスの負けは確定したわけだ。」
「全力で走ってくれたらみんな文句は言わないよ。」
負けるのはいい、全力さえ出せば。そういうことですか。なるほど、青春らしいな。
学校に着くと準備が着々と進んでいた。俺も嫌々クラスTシャツに着替え、椅子をグラウンドに運んだ。今日の天気はうざったいほど綺麗な青空だった。
グラウンドに着き、椅子で休んでいると海雪がやって来た。これは珍しい。
「珍しいな、海雪がこういう行事出るなんて。」
「あぁ…なんか俺が寝てる間に色々決められててな…。」
同士よ。
「おい。」
不意に聞こえたその声が、俺に向けられたものだとは思わなかった。
「お前、桜花さんと付き合ってんのか?」
こいつはたしか、うちのクラスでひかりに気がある奴だったっけか。前に言語失ってバーサークした。何であかりの名がこいつから出るんだ?
「別に付き合ってないが。」
「だったら昼ノ夜さんとは付き合ってんのか?」
こいつは何が言いたい。顔を見る限り冷やかしや下衆の勘ぐりの類ではなさそうだが。
「付き合ってないが、。」
「だったらこれ以上、昼ノ夜さんに近づくな。」
なんでお前にそんなこと言われなくちゃいけないんだよ。内心穏やかではなかったがなるべく穏便に。
「なるべく努力する。」
勿論しない。後で聞いたところ佐藤という名のその男は、機嫌の悪そうにその場を去っていった。
「なんなんだ、あいつ。」
「多分あいつはひかりが好きとかそんなんだろ。それで仲のいい俺を嫌ってるといったところか。」
俺は気にするのも面倒で始まるまでの間、寝ることにした。
俺が出るクラス対抗リレーは午前最後、ダンスが午後1番、そして最後に色別対抗リレーがある。その間は寝たいようと思ったが
「私の勇姿見ててね!」
と念押されてしまい、結局綱引きと玉入れも海雪とあかりと一緒に応援した。温度差はかなりあったが。ひかりの活躍は大きくチームに貢献し、ひかりが出ている競技は大体勝てていた。競技が終わる度にこちらにVサインをするのでなんとなく恥ずかしかった。
あかりは借り物競争に出るらしく「今日は篝さん来てますか?」と言われた。今日は出掛けると言ってたから来てないし、何の問題なく手を繋げるとかそんな考えが目に見えたので「非常に残念ながら今日は来ていないんだよ。」と言っておいた。お前の思い通りにはさせねえよ?あかりは少し残念そうな顔をした後「じゃあ夜一さんを連れていきます!」と宣言されてしまった。ここでトイレに逃げ込むことも考えたがさすがにそこまでクズではないので受けて立つことにした。ここで「好きな人」みたいなベタな展開にはならない事を願う。
競技が始まり、宣言通り俺のところへ来た。あかりは何の躊躇いもなく俺の手を握り、そのまま1着でゴール。今更だかどんな事が書いてあっても連れてくって借り物競争じゃないけどいいの?
「よかったな。一位になれて。」
心臓が強く脈打ち息が少し苦しい。これは決して手を繋いだとか周りからみたらカップルだなとか思ったりしたからではない。断じて違う。
「手紙の内容聞かないんですか?」
少し息の上がったあかりが尋ねてきた。いかにも聞いて欲しそうな顔をしていたので聞いてみると、紙を見せてきた。
「好きな人」
ラブコメかっての。