20
「友達をご飯に招きたいんだけどいい?」
「それは構わないけど…。海雪君?」
「いや、別の友達。あかりって子なんだけど。」
「あら!女の子なの!じゃあ赤飯炊いとくね!!」
母さんはメールでも元気でした。多分鉋のあれはここから遺伝してきたんだろうな。
「なんで赤飯なんですか?」
電車の隣に座るあかりが俺の携帯を覗き尋ねる。
「さあ。なんでだろうな。」
知らぬ存ぜぬの体。言ったらまた面倒ごとになるに違いない。
「私知ってる!赤飯を食べるのは結婚とかのお祝い事の時に食べるんだよ!」
あ〜あ、言っちゃった。こーれは誤解生むぞ。
「え、結婚ですか。やっぱり夜一さんもそう考えていたんですね!あ、夜一さんではなく、その、ア、アナタとお呼びしたほうが「却下」」
「…」
ムスッとされましても。
「あのなぁ、あれは冗談なの。母さんああいう冗談好きなんだよ、な?篝。」
なんだろう、このデジャブ感。行きの電車にでも似たような会話が……。
家に帰るときはすでに7時近くになり、すでにご飯の準備はほとんどできていた。
赤飯。
「あらまぁ、ほんとにお似合いのカップルねぇ。」
「えへへ、そうですか。嬉しいです、お母さん。」
あかりは想像より遥かに適応力が強かった。
「ちょっとあかり来なさい。」
とりあえず家族から一回引き離し話し合いをば。部屋に入れ鍵をかける。
「母さんの冗談に無理に付き合わなくていいから。」
「別に無理はしてません。ほんとにみなさん明るくてとてもたのしいですよ。それよりも女の子を部屋に連れ込み鍵をかけるほうが誤解を受けるかと…。」
はっ!しまった。
カサコソカサコソ。2人くらいの足音が部屋から遠ざかっていった。してやられた。
「あの、ご飯食べに行きませんか?私だいぶ腹ペコです。」
「せやな。行きますか…。」
その後は母さんと鉋と篝からの集中攻撃だった。その上あかりも誤解を招く言い方をしたりするもんだから、俺は途中から「ゴハンオイシイ!ゴハンオイシイ!」しか言わなくなった。壊れた人形か俺は。
疲れた顔をしたひかりがバイトから帰ってくると更に事はめんどくさくなり「なんでひかりさんが夜一さんの家にただいましてるんですか!?」とあかりが叫んだ。ただの居候だ、と言ったが「同級生が1つ屋根の下で同居なんてダメでしょ!間違いがあったらどうするんですか!」なんて怒られた。
ここでなぜか疲れて倒れていたひかりも対抗心が湧き、
「私は夜一に命を救われたの!たとえ間違いが起きても私は全てを受け止めるよ!」
「な、なんて覚悟。いいでしょう、その覚悟だけは認めますがその後の責任は取れるのですか?」
「取れるよ!2人兄妹を産んで家族4人、幸せな家庭を築くよ!」
本人おいて勝手に話し合い進めないでくれるかな。というか家族構成まで決まってんのかよ。怖いよ。
「まあ奥様、あれが俗に言う三角関係ですよ。」
「いやねぇ、これだから若い人たちは。」
母さんの煽りに乗せてくる鉋。ほんともう黙ってろ。こちとらもう腹一杯なんだよ。
なんて騒々しい晩餐も終わり、夜遅くなる前に俺はあかりを家に送っていった。本人希望で歩きたいといったので今は2人並びゆっくり歩いている。引っ越したあかりのアパートはここら辺の近くにあるらしい。歩いて10分くらい、みるからにボロいアパートがそこにあった。
「……これ、家賃いくら?」
無粋だがつい聞いてしまった。
「たしか2万いくかどうか…」
女子高生1人がこんなボロアパートに住むのは大変危険だと思うが、かといって「うちに住めよ」なんて大それたことは言えない。でもこれは流石に……。
「なんならいつでもうちに遊びに来いよ。みんなあんなのだから遠慮とかそういうの、気にしなくていいから。腹減った時にでも、なんか寂しくなった時とかも。」
だから俺が言えるのはこれくらいが精一杯。それでもあかりは微笑んでくれた。
「んで、どうだった?」
「は?」
「ばかやろう、あかりちゃんと一緒に帰って、どこまでいったんだって話だよ。」
「あかりの家まで行ってきたが…」
「ばっかやろう、おま、ばかやろう。手を握ったか?キスしたか?それともそれ以上か?A、B、Cどれだ?」
「お前と一緒にするな。」
玄関でそんな質問を鉋からされたが蹴り飛ばし、リビングに着いた。
「でも今あかりさんは寂しさを感じると思うよ。」
「楽しい事が終わった後って一気に寂しさが押し寄せてくるもんね。あかりちゃん、本当に楽しそうだったし。」
篝とひかりがコーヒーを持って話し合いをしていた。俺の分と渡されたコーヒーを飲みながら、1人寂しく過ごすあかりの姿を俺は考えた。俺にできる事は…。
「結婚しちゃえよ。18になったらすぐ。そしてこっちに嫁げばみんな幸せじゃねえか。」
「鉋、お前今日調子乗り過ぎ。さすがにキレたわ。」
「え、そんな…。せめて優しくして…?」
うるせぇよ。