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結局しばらく泣いた後、疲れて寝てしまったらしい。朝起きるとみんなから「変な顔。」と言われ鏡を見ると、まあ納得のいくものだった。学校には一応行ったが下駄箱には昨日みたく手紙が入っていたわけでもなく、いつもと変らないものだった。みんながしゃべり、笑ったり、ふざけたり。その中に俺はいない。いつも通りの日常のはずなのになぜだがそれが不快に思えて、6限と7限の間の休みで無許可で早退した。
日が傾き、時計を見ると3時15分くらいを指していた。あと5分ほどで最後の授業が始まる頃に下駄箱に着いた。そこには一人、俺と同じく帰る支度が整った女子がいた。お仲間発見。
「早退するんですか?」
「あなたもそうなのですか?」
「まあね。なんなら一緒に帰ります?」
「...じゃあ、帰ります。」
「この時間、俺好きなんですよ。一日がやっと終わったって思えて。」
「私は少し寂しい気持ちになります。日が沈んでいって暗くなって、何か大切なものがなくなってしまいそうで。」
「ならせめてあなたの手を握ってあげますよ。人の温もりってこういう時にとても暖かくて安心できますよ。」
「ほんとだ。暖かいです。本当に...。」
なんて甘酸っぱい会話をしてみたいものですな。今の会話はすべてフィクションです。シナリオ、イラスト、声すべて俺。第一俺にはそんな勇気がない。普通に無視して愛しの我が家へ帰るのだ。たとえ何があってもな。では、いざ参らん。
俺の決意は足を一歩動かすより早く砕けた。
一つ、彼女の姿がとても美しかったから。
二つ、彼女が手紙を持っていたから。
三つ、その手紙は白くラブレターには決して見えなく、小さく「神倉さんへ」と書いてあったから。
四つ、彼女の顔が美しくも、なぜかそれより強く恐怖を感じたから。
黒髪をして、身長は俺より少し小さめ。平均的といったところ。顔はかわいいというよりも大人びた美しさといったものだ。髪については詳しくはないがロングで特にまとめておらず、個人的にストライク。というかそれすら超えてアウト。ストライク3つ分、まあ妥当だろう。でも俺はなぜ一瞬怖いなんか感じたのだろうか。うーむ...。
そんなことを考えていると彼女がこちらに気付いた。邪魔だと感じたのだろうか。少し移動して遠目で俺のロッカーを見ている。俺のクラスに神倉は一人しかいませんよ。多分間違えてないですよ。というか靴取り出しにくいんですけど。...今教室戻っても授業参加できるよね?
まあさすがに俺もその程度で大人しく教室に帰るほどちっちゃい男では気はない。おとなしく捕まることにした。おとなしくなんかない?長ったらしい?失礼な、慎重だと言ってほしい。軽率な行動はしないんです。では深呼吸。よし、腹はくくった。さあ、どんとこい。
来ませんでした、はい。そのまま普通に帰って来れました。やったね。
全然よくねえよ。そりゃあ胸張って堂々早退してる、なんかそわそわしてる顔の人に声をかけたくない気持ちも痛いほどよくわかる。わかるんだが頑張ってほしかった。勇気を出してほしかった。次はもうちょっとだけがんばってみような。
あれ?なんか俺の立ち位置がよくわかんなくなってきたよ?