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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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体は鈴木、心は桜花、勿論葛藤はありました。......いえ、葛藤ほどのものでもないですね。桜花が何を言っても鈴木はその全てを拒絶してました。そしていつしか鈴木の心は完全に閉ざされました。その結果、桜花は鈴木として生きていくと決めました。そして目標もありました。鈴木の心に最も強く残っている『彼』に会えば何か変わるかもしれない、と。

けれどいなくなった妹を探しつつ、彼を探しつつ、施設に入れられたら碌に動けなくなるので、警察などからも逃げるというのは一概の女子には厳しいです。その為には一度完全に世の中から消えてしまった方が都合が良かったのです。もしあなたが私を探していたのなら申し訳ないことをしました。ごめんなさい。


前にあなたが『初めて会った時のは早退かなんかか?』と言ってましたのを覚えてますかね。私は体調不良なんて返しましたけど勿論そんなわけないです。あなたと初めて出会う前日、初めて手紙を出したあの日、あなたは気づかなかったですけど、私はあなたの存在をずっと前から知ってました。けれどそれは名前から知っただけでなんて声を掛けるべきか分からなかったんです。でも、あの時クラスリーダーみたいな人に絡まれて何か言われている時、あなたの姿が見えました。その時、とても小さな声でしたが「もう一度だけ...話したい。」と鈴木の声が聞こえました。そしたら、鈴木の声がいつぶりかと考える暇もなく走ってました。そしてあなたより早く下駄箱に着き、あなたが決して無視出来ないようあの日と同じ手紙を出しました。最低なのは百も承知です。でも嫌われても構わなかったです。桜花が嫌われるなら。そしてその翌日、授業終了後だといつあなたが来るか分からないので、授業が終わる一つ前の休憩で手紙を出そうとしました。あの時は驚きました、まさかその時間丁度にあなたが来るのですから。でも掛ける言葉も見つからずただあなたを見つめて何も出来ませんでした。これがあの日の全てです。


あ、そうです。多分ずっと気になられていたであろうことがありました。鈴木の下の名前です。あかりです。鈴木あかり。はい、同じ名前です。ほとんどが反対の2人の数少ない共通点です。学校ではクラスの人も先生もあなたも含め、自分のことを『あかり』と呼ばせました。この名前で呼ばれればどちらか片方という事はないですからね。まぁただの自己満足なんですけど。......でもあなただけには絶対に『あかり』と呼ばれたかったんです。たとえ無意味だとしても。だから「鈴木さんの下の名前までは知らない。」と言ったのも嘘です。


榛さんに何度か「見たことあるような...」と言われましたが勿論面識はあります。鈴木があの日、屋上から落ちて救急で運ばれた際、1番お世話になりましたから。勿論お医者さんに助けてはもらいましたが、あの人の「頑張って!」や「絶対諦めちゃだめよ!」といった励ましがなかったら今私はここにいないと思います。あの人は心根から人を助けたいんだと思います。けれど桜花がそれを話していいか(つい)に分からなかったので、情けなくも「知らない。」と言ってしまいました。


『過去を忘れるな。しかし縛られるな。いつかそれは思い出話になるから』かつて私があなたに病院で言ったことです。この言葉は佐藤か自分に言い聞かせていた言葉でした。あの男に酷い扱いを受けている時はいつも。だからあなたがあの時言った言葉は必ず鈴木に伝えると決めました。


そして最後の嘘ですね。

あなたの告白に「これ以上辛い思いはしたくない。」と嘘をつき「本当は恋をしてるかどうか分からないから。中途半端な気持ちで答えたくない。」と嘘に嘘を重ねました。はい、あれも本当の事じゃないです。もう謝りようがないですよね。手術が終わったら私にできる全てをします。それでもきっと足りないですけど。だからここではせめて本当のことを言います。


あなたの事を心から尊敬してます。他人のためにあそこまで動けて、利益など建前で本音はただ困ってる人を助けようとする。あなたは認めないと思いますが少なくても私にはそう見えます。そんなあなたと少しの間だけでしたが一緒にいれてよかったです。だからどうか私の事など気に留めず、これからを生きてください。......桜花さんにはたくさんの迷惑をかけてしまいましたから、この手紙がたとえあなたに届かなくても私は消えるとします。この体は桜花さんにこそ相応しいですからね。......ありがとうございました。

さようなら。

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