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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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「ちょ「うるさい。何?俺が必死にあかりちゃんから事情訊いてる時にこっちはお楽しみですかそうなんですか。」

「ちょ「うるさい。何も聞きたくない。知りたくなかったこんな事。あかりちゃん本命とか言ってひかりを俺から奪ってあまつさえみょんちゃんと体の関係を持つとか。」

「ちょ「うるさい。折角あかりちゃんから振られた本当の理由聞けたのに。もういい。」

「それはほんとに大事なやつだから!」

大きな声を上げ何とか幸生を制す。流石に幸生もこれ以上はもういいか、と言った感じでため息を入れまた話始めた。

「『夜一さんが誰にでも手を出す淫行野郎でことある事に体を触ってきてキザなセリフが臭くて次いでに息も臭くてドヤ顔がキモくてブサイクなのに自分がイケメンと信じて疑わないところが人として終わってますよね、控えめに言って救いようのないカス野郎ですね』だってさ。」

「誤解とはいえ本当に申し訳ないと思ってる。」


それで今俺はあかりの目の前にいる。周りには2人以外誰もいない。最近2人でいることも少ないからか緊張もするが、それ以外の要因の方が大きい。あかりは俺から目を逸らしたまま、俺もまたあかりを直視できないでいる。

『あかりちゃんは直接夜一に伝えたいってさ。』

善は急げ、と幸生に蹴飛ばされあの後そのままここへ来た。どうやら俺がここに来る事は事前に幸生が伝えてたらしい。というかどうしよう気まずい。俺から何か話をした方がいいのだろうか。なんて情けなくオロオロしていると「もし、ですよ」とあかりが口を開く。その視線はどこか遠くを見つめてるようだった。

「刃物で自分の腕を刺した女の子が目の前にいるとします。夜一さんならどうしますか?」

何かの比喩だろうか、それとも実体験なのだろうか。もし実体験なら恐らくそれはひかりのことだろうが今までひかりの腕にそんな傷は見たことがない。とりあえず俺は「助ける、かな。」と答えた。

「残念ですがそこでは夜一さんに手足はありません。できるとしたら声をかけることだけ。夜一さんなら何て声をかけますか。」

手足がない?どういうことだ。

「...それは一刻を争うほど緊迫した状況?」

「いえ、少なくても今すぐ死んでしまうとかではないです。」

わからないながらも状況を考えてみる。目の前にいるのに助けられない状況。いや、状況ならあの鈴木さんと似た状況だ。あの時あの人にもしかしたら何か言葉をかけれたら助けられたのかもしれない。

「...名前を教えてほしい、かな。」

「名前、ですか?」

「鈴木さん、てわかるよな。少しの間とはいえ一緒に過ごしたのに俺は彼女の名前を知らないんだ。その後も結局知る機会はあったかもしれないのに知るのが怖かったんだ。後悔はいつまで経っても消えない。だからもしその子が死んでしまったら、今度は俺は覚えていたいと思う。『彼女』とか『あの子』とかじゃ可哀想だから。」

都合のいい話だ。確かに死んでしまったあの子を知るのは怖かった。でもそれは俺が殺してしまったという罪悪感に耐えられなかったからだ。目を逸らしてたんだ。

俺の言葉をどう受け止めたのかはあかりの表情からはわからない。しばらく何かを考え込んだ後、目を閉じ、息を整え、意を決したように話し始める。

「私は生い立ち上、人を好きになる以前にろくに人と関わったことがありません。だからこの気持ちが好意なのか恋なのかもわかりません。それで中途半端なまま夜一さんに気持ちを伝えたくなかったんです。淡い期待を持たせるのは相手を傷つけますから。でも結果として夜一さんを傷つけました。ごめんなさい。」

と深々と頭を下げた。その気持ちはわかるしそもそも怒ってない。確かに傷ついたかもしれないが今はひたすら安堵している。強ばった体から力が一気に抜け壁に凭れる、よかった、少なくても嫌われてはなかった。このままズルズルしてお互い気まずいまま終わってしまうかもなんて考えてしまった。


その後は俺の検査の時間まで気まずくて出来なかった話を沢山した。幸せだなぁ、いつまでもこんな時間が続けばいいのに、とつい考えてしまう。けれど始まりがあれば終わりだってある。

「いつかその気持ちの答えが出るといいな。」

最後にそう言って部屋から出た。あかりは優しく笑って手を振って送ってくれた。


「...本当に、ごめんなさい。」


それからまた数日後、遂にその日はやってきた。

「ドナーの提供者がありました。神倉さんさえよければ明日にでも手術を行います。」

答えに迷う必要などない。前と違って今は『生きたい』と強く思える。

「よろしくお願いします。」

けれど心は思いの外不安が募っていた。おかしいな、何度となく死線を超えてきたのに。...いや、そんなの簡単だな。今迄は何となく生きてきたけど、今は心から生きたいと思ってる。明日を失うかもしれないことに怯えている。まぁそっちのほうがいいのかもな。


「てなわけで明日手術してくるわ。」

「そんな『明日友達と遊び行くわ。』みたいなノリで...。分かってるの?あんまり勝率が高くないんだよ?...それに」

そこでみょんの言葉が切れてしまった。表情から見るに冗談とかではないらしい。俺がみょんの言葉を待っていると、言った方がいいと判断したのか、「落ち着いて聞いてね。」と一呼吸置いて言った。

「あかりちゃんの手術も明日らしいんだ。」


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