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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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暫く話をした後、あかりに別れを告げるとその流れで解散となった。俺とみょんも部屋に戻ろうエレベーターを待つ。けれど俺は幸生に呼び止められたので、来たエレベーターにはみょんだけ乗った。「立ち話もなんだから」と小さな休憩所に移動し腰を降ろす。

「お前のオススメは?」

幸生の指差す先には自動販売機があった。俺は自分が好きな飲み物を勧めておいた。幸生は「夜一らしいな。」とイマイチよく分からない事を言ってその飲み物を2本買い、その1本を俺に寄越した。

「今度払うわ。」

「?...あぁ、気にすんな。病人から金取るわけないだろ。」

「いや、でも」

「じゃあ退院したら駅のとこのラーメン奢りな。」

これ以上は流石に良くないな。謙遜もあまりに過ぎると逆に失礼だ。ここは素直に奢られよう。パキパキ音をさせながら蓋を開ける。

「で、どうしたのか。2人じゃないと気まずい話とかか?」

「ちょっと気になってな。お前があかりちゃんに振られたって事。だってそうだろ、あんなに好き好きオーラ出しておいて。寧ろお前の方が俺にはクールに見えたけどな。何て振られたんだ?」

俺は手短にその経緯を話した。いかにも青春男な幸生は少なくても俺よりずっと乙女心を分かってる。そのような経験も豊富なのだろう。幸生はキャラにも合わず...いや、きっと幸生は元々こういう性格なのだろう。真剣な顔で俺の話を聞いてくれた。いつものおふざけとのギャップに少し俺が乙女心を分からされてしまった。

「嘘だな。」

「嘘、か。」

何となく言わんとしてることは分かる。少なくてもあかりの『余計な悲しみは増やしたくない。』と言うのは多分違う。そもそも余計な悲しみを増やしたくない、というのは片方が死んでしまった際、とても悲しむ。それに耐えられないという意味だろうが、それはもう片方が健康な状態の話だ。両方寿命がほとんどないならあまり関係ないと思う。

「あかりちゃんが夜一の事をどう思っているのか、だが、間違いなく嫌われてはいない。俺が保証する。」

「ヤッター」

「というか普通に好きだと思うんだよなー。でもそしたらまた『じゃあ何でフラれたか』って質問に回帰する。堂々巡りだな。」

「結局答えはあかりのみぞ知るって話だな。」

「...しゃあない。俺が明日その理由とやらを訊いてみてやるよ。お前から直接訊くのはちと気まずいだろ。」

アカン。イケメンがおる。

「ラーメンに餃子追加だからな。...どうした?」

「...眩しい。」

話はどうやらそれだけだったようでその後はずっと恋愛関連の話をした。やれどうやったらモテるだの、経験がないやつほど偏った知識で相手に色々求めるだのいかにも高校生がしそうな話だった。何故俺にそんな話を延々したのかはとりあえず気にしない。けれどそんなひと時もとても楽しかった。思えば幸生とこうして2人だけで長い間話したのは初めてだったかもしれない。けれどこれからはきっと増えていくだろう。


そして翌日、昨日言った通り幸生はあかりから告白の真相を聞き出そうと1人早めにあかりの元へ向かった。俺は幸生の帰りをそわそわしながら待った。

「どしたの夜一君?便秘?」

「ちゃうわボケ。」

「あはは......」

今日のみょんはあまり体調が優れないのか笑いに力がこもってなかった。俺にはみょんの体調を治す事など出来ないので、せめてみょんの横に座りその頭を撫でた。

「みょんの母親は最後会った時『せいぜい社会の荒波に呑まれろ』って言ってたけど、賢いみょんなら何となく意味分かるよな?」

「......わからない。私今体調優れないから。」

あれは婉曲だがあの母親なりの励ましだろう。決して『もうすぐ死ぬ』『長くない』などとは言わなかった。寧ろ『生きて』と考えてしまうのは俺の過大解釈だろうか。

「...なんかムカつく事考えてるって顔。」

「体調悪いなら変な事考えずに寝てろ。」

「...僕さ、何かに抱きついてないと寝れない性分でさ。枕は今洗濯かなんかでないし。......病人のお願い。」

何が抱きついてないと寝れないだよ。この前見た時何か布団蹴飛ばして腹出して寝てたくせに。

「仕方ないな。」

俺は自分の掛け布団を適当に丸めてみょんの布団に押し込んだ。

「...こういうとこだよ夜一君。つむちゃんには京都の電車で体を預ける事を許したというのに。...あ、でも布団から夜一君の匂いがする。」

「どうせ妹さんを上手く誘導して訊いたんだろうけど誤解だから。結果論だとそうかもしれないけど。え?というか俺の布団臭うの?やだ返して。」

「すぅーーーーーー!!」

「ちょっと!なんかほんとに恥ずかしいから!!」

みょんが布団に篭ってしまったので剥がそうとするもビクともしない。しょうがないので緩い箇所を探して布団に潜る。この時点で冷静になるべきだった。しかしこの時の俺は止まらず、みょんに(またが)り必死に奪おうとする。けれどお互い病人。直ぐにバテて激しい息遣いをする。

「はぁはぁ、えへへ。楽しいね。」

「全く、無理するなって言われてるのに。」

冬とはいえ暖房の効いた室内。そこで布団に(くる)まりながら2人で暴れれば自然と汗も出てくる。そしてそこに幸生が来れば何となくオチがわかる。

「キィエエエエエエエエ!!」

知ってた。


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