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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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「あかりちゃんが目を覚ましたら夜一君は何て言うの?」

お互いに体調が優れている時にそんな事を言われた。

「振られて気まずくなって今に至るわけだからな。」

そんな事を腕組みしながら言う海雪。

「『君に振られても僕の気持ちは変わらないよ。』みたいなのはどうでしょう?」

リンゴを綺麗に剥きながら訪花はそう提案して来た。

「んー、目覚めにそれはいかがなものか...。とりあえず『おはよう』みたいな?」

この言葉に全員何とも言えない表情。かくいう俺も首を斜めに傾ける。なんだろう、なんていうのか、なんだろう。こういう時過度に喜んだり、優しく接したりするよりもいつも通りの方がいいとは思う。そのほうが向こうも焦ったり当惑しないで済む。

「あ、僕分かった。これはあれだ。イケメンに限るってやつだ。朝目覚めたら横でイケメンがめっちゃ近くで囁くシチュだ。」

後半はよくわからんがとてもしっくり来る言葉だった。ボンボン共はよくわかっていない感じだったが。ただもしそうなら問題は...。

「夜一君がイケメンか否か、か。」

「そんなクソみたいな無駄な問い掛け答える意味あるか?まぁ残り時間をどう過ごすかはお前ら次第だが。」

あまり考え無しに言った言葉だったのだろうが、重い空気を作ってしまったと気づいたらしい。そこに()かさず訪花の小さな「それはダメなやつです。」と声がする。気まずくなるかもと一瞬過ぎったがみょんの笑いがそんなものを一蹴した。

「いいじゃん。しょうもない話をして笑い合う事に大した意味なんかいらないよ。楽しい。それ以上に何がいるの?」

この言葉に誰一人として反論なんて述べられなかった。海雪も珍しく『降参』と言わんばかりに首を振る。ほんとに一皮剥けたと言うか、元から強い人ではあったけれど。

話の結論から言うと俺が「おはよう」と言い、あかりがときめいたら俺はイケメンらしい。アホくさ。


「何て言ってさ。どういう決め方だよって話だよな。」と今日も今日とてあかりに話し掛け続ける。倒れた翌日に見た時よりもずっと表情はリラックスしているがその目が開く事はなかった。時計を確認しそろそろ部屋を出ようと足を扉に向ける。

「じゃあ、また明日。」ともう一度あかりの顔を見て言う。するとあかりの目がーーー

「......なんて、ドラマとかだとなるんだけどな。」

あかりの目は依然閉じられたままで、それを確認すると今度こそ部屋を出た。扉が閉まる音がやけに響く。

部屋に戻る途中榛さんを呼び止め、少し話をした。内容はあまり大した事はなかったので直ぐに終わり、俺の後ろを通っていった。そして俺もまた部屋に戻ろうと1歩を踏み出す。

「私はっ!!」

遂に幻聴まで聞こえ始めたのかな?違うか、榛さんの声がそう聞こえちゃったのかな。何て思いつつも心は反対にそうであれと強く願った。

「文化祭の時も言いましたがっ!!」

壁伝いで、今にでも倒れそうに震えながらも、彼女は叫んだ。

「夜一さんはかっこいいと思います!!」

「っ...ありがとうな。」

そう言うのが精一杯だった。何かが溢れてきてしまいそうで。あかりはにこりと笑うとその場にペタンと崩れ、俺とすぐ近くに居た榛さんはあかりに駆け寄った。

「ずっと聞こえてました。夜一さんの声。私、その声に答えたくて、そしたら...また会えました。」

「何度だって会えるさ。俺が必ず見つけ出すだすから。どこにいても、どんな事があっても。絶対に。」

そして2人して笑った。


目を醒めたと言っても絶対安静は至極当然。すぐに部屋に戻され、また様々な機器をつけられていた。俺もこれ以上はここにいられないので部屋へ戻った。そして部屋に戻ると早速その事をみょんや携帯でみんなに伝えた。殆どみんな我が身の様に喜び今にでも会いにいこうとする勢いだった。それを何とか抑えると、いい時間にもなったので俺は寝ることにした。

翌日、用事で来れなかった海雪と訪花以外はみんな来てくれた。その事に本当に心が温まった。けれど直接ICUに入る事は家族以外は禁止されている。その為みんな窓越しで会話するくらいしかできなかったが、それでも十分すぎるものだった。「ひかりは妹だから入れるんじゃないのか?」と訊いたが、「証明出来るものがないんだよね。」と少し悲しそうな顔をした。ならばもしかしたらあかりが何か証明できるものを持ってるかも、と思ったが前にあかりが「自分には妹がいた証拠がない」と言っていたのを思い出した。

「逆に考えればいい。家族でないならなればいいと。」

ん?

「結婚だよ!結婚!それで全てまるっと収まるだろ。」

でたよ小学生思考。幸生は頭いいはずなんだけど常識があんまりないんだよな。そもそも俺はまだ結婚できる歳じゃないし、そんな簡単に結婚なんて無責任にも程がある。そんなに焦って幸せを掴もうとすれば転んでしまう。

俺が呆れてため息をついてる間、ニヤッとみょんが笑う。

「ダメだよ佐藤君。夜一君は前あかりちゃんに振られたばかりなんだから。」

気まずそうなひかりと篝、驚いた顔の水無月さん、まさにドSみょん、憐れむな幸生、泣くな俺。

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