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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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「ねぇ、僕はあの空気にいつまで耐えなくちゃいけないの?というか第三者の僕に一体何を話せっての?そういうの無責任て言うんだよ?どうでもいい話をいつまでもしたところでそこに進展はないんだよ?」

みょんの最もすぎる言葉がグサグサと胸に刺さる。やばい、何だか泣きそうになってきた。

「うっ...」

「...今1番泣きたいのは誰かわかる?」

みょんかな。

「あかりちゃんでしょ。聞いた話によるとあかりちゃんが頼れる人は君くらいしかいないでしょ。」

確かにそうだな。海雪は力もあるし頭も切れるが俺を介して友達と言う程度。ひかりは妹であるわけだから少し頼りづらいというのがあるかもしれない。他の人もあくまで知り合い程度。あかりは今誰にも相談出来てないのかもしれない。

「俺は...あかりとまた話をしたい。関係は少し変わっちゃったけど、いや、青春を8ヶ月も一緒に過ごしたんだ。寧ろ少しくらい変わってもらわないと困るよな。」

「そだね。」

「よしっ!軽く喝を入れたいから背中叩いてくれないか?」

そう言って背を向けると「いやいや」とみょんが俺をさらに反転させ結局また面と向かわせる。気の所為かもしれないがどこか怒っているようにも見える。そして勢いよく俺の胸倉を掴む。

「昨日どれだけ僕が気まずい思いをしたか、君にわかる?想像は出来ても勿論全てはわからないだろうね。てなわけでそんな気持ちも乗させてもらうよ。」


「あかり~。みょんに虐められた。助けて、って外なんか眺めてどうかしたのか?」


違う。忘れていた訳では無い。でももしかしたら少しだけ目を逸らしてしまったかもしれない。だからこれは突然なんかではない。そう、目の前で何の前触れもなくあかりが倒れたとしても。

「あかり!!」

「もしもし、今あかりちゃんが倒れて!」

みょんは俺が指示するよりも早く連絡を入れてくれた。俺はあかりが床に着くギリギリで何とか受け止めることができた。しかし何度もあかりの名前を叫ぶけれど、あかりはただ苦しそうに息をするので精一杯だった。俺は無力にも何もできず、そしてすぐ担架と榛さんを含む数人が駆けつけてどこかへ連れて行った。追いかけることはできなかった。


その後あかりはこの部屋に戻ることはなかった。部屋がとても広く感じてしまった。俺は結局その日は何も考えたくなく、布団の中で眠りが来るのを待ち続けた。

翌日になると榛さんが早々に訪れてきて漸くあかりが今ICUにいることを知った。そしてそこへ行くことを許された。とは言ってもそれは窓越しで、遠く息をするのが見えるだけで、もしかしたらもう二度と触れ合うことはできなのかもしれない、なんて考えてしまった。あかりは目を閉じ寝ていたがそこには前のような穏やかな顔はなかった。

「そう、だよな。いつこうなったって何ら不思議はない。あかりがここに来てから覚悟してきた事だ。もしかしたら次の瞬間に俺やみょんだってどうなるかわからない。」

「......君は強がりがあまり上手じゃないね。覚悟はしていたとしても、痛いものは痛いんだよ。......辛いものは辛いんだ。」

みょんの顔は見えなかったが、俺の強がりは呆気なく見破られた。俺は必死に堪えようとしたが、涙を止めることはできず、ガラスに手を掛け、俯き、唇を強く噛んだ。

たとえ振られようとも一片とも諦めるなんて考えはなかった。きっと時間が、時間さえあれば何度でもアタックした。でもそれだけがもうない。......だったらどうすればいい。ウダウダ悩むのはもう十分だ。その時間こそ最も無駄だ。やれることをするだけ、無駄だろうが無意味だろうが。

「榛さん。」

「悪いけど、現状神倉君を中には入れられないよ。」

「...届くと思いますか?」

「何がかな?」

「俺がここからでも語りかけ続ければ、俺の気持ちや想いは、あかりの心に届くと思いますか?」

最後の涙を拭うとそう言った。別に特別な答えなんて望んでいない。これはただの宣言のようなもの。

「届かせてみせてよ。」

「...はい。絶対に。」


それからは時間が空けばあかりに話し掛け続けた。みょんも時間があれば一緒に来てくれた。いや、みょんだけじゃなく見舞いに来てくれる全員が声を掛けてくれた。あかりには変化は見られなかったが俺は愚直なまでにあかりに話し掛け続けた。

やがてクリスマスや正月を迎え、世間では祭り騒ぎの様な喧噪に包まれていた。けれどここでは一つ一つの言葉がとても意味のあるものだった。流れる時間はゆっくりとも早くとも感じられた。俺の言葉は未だ届かずにいた。


「最早自分の心臓だけでは全身に血を巡らせることは厳しいでしょう。だからドナーが見つかるまで機械であなたの心臓のサポートを行います。」

そう言われたのが少し前。そして今俺の周りには前までなかった機械がくっついている。こうなるといよいよ実感というものをさせられる。自分の体がもう自分の力だけでは生きていけないと。そしてそれはみょんにも言えることで抗癌剤を絶対に使いたくないと言い張るも、体はやはりきついもので時折とても苦しそうにしている。けれどそんな時でもみょんは笑顔を消さなかった。


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