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久し懐かし家に戻る頃には既に夕飯時になっていた。「ただいま」と扉を開けるとなんかよく分からないが美味しそうな匂いがした。「おかえり」と母さん、父さん、篝と今日は勢揃いしていた。俺はあまり熱烈な歓迎は好まないので、この位の温かさが丁度いい。俺とひかりも少しだけその手伝いをするとすぐにご飯にした。
ラーメンを食べたがとても美味しく、しばらく病院食を食べていたせいかよりそう感じる。いや、前も言ったけど病院食も今の時代美味しいけどね。食事中は他愛のない話を繰り広げたがそれはとても心地の良いものだった。
......本当に、そう思った。
心地よい時間はあっという間に過ぎ、みんな眠りに就き始めた。先程、父さんに明日には帰ると伝えたら「そうか。」といやに冷たいなとも感じたが、「またすぐ帰ってくればいい。」と言われてつい頬が緩んでしまった。ほんと、なんというか。
「...起きてる?」
「寝る。」
「私も寝る。」
「おう、お休み。」
......。
「何で俺の布団入ってくるの?」
「...嫌?」
「強いて言うなら折角温まってきた空気が逃げちゃった。」
「私が温めてあげるから。」
「人肌は思いの外蒸し蒸ししてるから。」
......。
「なぜ上に乗っかる。」
「私を見て。」
「いや、俺部屋真っ暗にして寝るタイプだから。」
「でも何となく感じてるよね?」
「眠気なら。」
......。
「...心配かけてすまなかった。もうこんな無茶しないから。」
「一度だってしてほしくなんてなかった。...でも私には何にもできないから。手助けも止めることも。...情けないよ。」
情けないというのは俺の方だ。ごめん、と繰り返し謝ったけれど俺はひかりに許されることはなかった。服を何かが濡らしていく。この静かな部屋ではどんな小さな咽び泣く声さえも聞こえてしまう。俺はその声が止むまで寝ることができなかった。
夜が明け朝ごはんを食べ、ゆっくり支度をして俺は病院にもど「ちょっと待って!!」...。
「...どったの?」
「あ、あのさ、私今朝起きたら夜一のベットだったんだけど。」
まぁそりゃあ昨晩俺の布団入って来たからな。そこで寝ちゃったんだろうな。
「それって...それってつまり「でも兄さんあかりさんとも夜を過ごしたことあるよ。」」
思わぬ刺客。そういえばそんなこともありましたねぇ全部誤解だけど。何か朝起きたらあかりが隣で寝てて、爆弾ワードをマシンガンのように連射して、篝の地雷踏み抜いてテキサスクローバーホールドだったもんな。冤罪なのに。
「ん?でもそれって夜一が告白するずっと前だよね。それなのにその時にはそういう関係って時系列というか、おかしくない?」
おかしいね。
「今の時代、そういう恋愛もあるらしいよ。」
時代と来たか。
「...え、じゃあ何、夜一はあかりちゃんと媾合して『いいじゃん』て思って告白したの?」
「こうごう?...まぁ大体そんな感じ?」
兄の命運を『そんな感じ?』で決めちゃダメだろ。というか前提が違うんだよ前提が。
「違う。全部違うから。いいか、俺は童貞だ。それで全て解決だ。」
俺は一体何を言わされているんだ。
「じゃあ証明してよ。」
「え」
悪魔の証明。簡単に言えば『ない』ものの証明。それはとても難しいものが多く、『ある』ものの証明よりもずっと困難。だが俺はそれを証明し無実を証明して見せる。...見せられるんだけどそれを証明しようとするとちょっと言いにくいことも言わなくちゃいけないからやめておきます。
結局篝の「まぁ兄さんにそんな度胸ないと思うけどね。」という言葉で全てが終わった。
その後は先ほどの続きでゆっくりと支度をした後、病院に戻った。病室にはいつもと変わらないよう接してくれるみょんと笑顔がぎこちないあかりがいた。軽く言葉を交わしてベットに座ったが何とも気まずい。その上この前水無月さんから遊園地で聞いたあかりの楽し気に両親と過ごしてたことも訊かないとなのでほんと気まずい。...ええい、当たって砕けろ!
「あー、その、なんだ。昨日水無月さん達と会ったんだけど、なんか変な事言っててさ、「小さい頃笑顔で両親といるあかりを見た」なんか言っててさ。...そんなわけないよな?」
「そんな訳ないじゃないですか。きっと水無月さんの勘違いかと思います。」
「だよねー。あはは...」
そう、それでいいんだ。変な考えはよそう。
「...」
「...」
「...」
き、気まずい。会話がもたない。というかそもそも俺はそんなコミュニケーション能力がある訳じゃないんだ。よし、ここは変にベラベラ喋るみょんにたくそう。他力本願。届け!この想い!
バチコーンと効果音をセルフでつけて放ったウインクはなんとか無事みょんに届いた。だがみょんは首を横に振る。頼むから、と俺は何度もバチコンする。けれどみょんはその分首を振りやがて「ちょっと来て。」と面を貸された。




