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またもパァンと音が響く。銃弾は俺の足首を掠め檻の金属にぶつかり、甲高い音を響かせる。構えてるのを見ていれば、まだ躱すことはできる。
「今回はこの檻があったから良かったものの、あと少しずれてたら妹さん死んでたぞ?これが最後だ、それを俺に渡せ。」
「夜一さんはとても優しい人です。いつだって一番友達が傷つかない方法で答えを模索しています。勉強も運動もできて頭も冴えるのに、それをおくびに出すことないところが好きです。けど人の気持ちを察して、他人より自分が傷つくことを選ぶ姿は...見てて悲しいです。」
「ほんの少し一緒に居たって、表面的な事しか分からないと思うけどな。」
すると今度はみょんが「違う!」と声を上げる。何なんだよ本当に。俺なんか間違ったことしてるのか?知り合いが殺されそうになって、だからその加害者を殺そうとして何が悪いのか。
「例え過ごした時間が僅かでも、相手を知りたいと思えば自ずと相手をわかるようになるんだ。勿論相手の事を知るのは怖いけど、それを越えればきっとそれは他人なんか冷たい関係なんかじゃない。君と海雪君だってそんな冷たいものじゃないだろ!」
...よくわからないな。結局何が言いたいのだろうか、要点を手短に、わかりやすく。
「......ようするに?」
「だから!!海雪君をあなたの友達と認めて、お互いの本音ぶつけ合えってことだよ!!殺すなんて簡単な方法真っ先に取らないで、苦しんで悩んで出した答えを最後まで貫いてよ!!それが神倉夜一でしょ!?」
......。我ながら難儀な性格だと感じる。感情的で流されやすく、しかもそれがちょっと行き過ぎると自分でも止められなくなる。冷めやすく熱しやすい金属のよう。
心の中で自分の声がする。『殺せ』『斬れ』『殺すな』『赦せ』『正せ』。百家争鳴議論百出。本当の自分の声がどこにあるのか、自分でさえ分からない。『それは全部自分だろ』と言うのならじゃあ俺はどれを選べばいい。......沢山意見はあっても結局選択肢は殺すか和解するかの2択だな。感情に任せるか、理性を重んじるか。
その時ポケットに入った電話が揺れた。公衆電話なのか、誰からかはわからないがとりあえず取ってみた。
「はい。」
「あ、桜花です。桜花あかりです。さっき佐藤さんが来て少しだけ話を聞きました。何となく予想はしてましたがまた危ない事をしていると。」
もう呆れられたのか、指して驚く様子はなかった。だけどそこを敢えて訊いてみた。
「俺にやめて欲しいか?」
「いえ。」
......。
「そもそも私に夜一さんを止める資格なんてないですから。でも一言言わせて貰えるなら、何だか今の夜一さん、違う気がします。」
「......なぁ、あかり。いつもの俺ってあかりから見てどんな奴なんだ?みょん曰く感情的で苦労人らしいんだが。」
あかりは少し唸ってから「そうですねー...」と始める。別に何か励ましや労いのの言葉が欲しい訳では無い。
「うん、やっぱりそうですね。私にとって夜一さんはいつだって不器用なりにも他人を思いやれる...ヒーローですよ。」
「ヒーロー...」
嘗て俺に同じことを言った鈴木さんの顔が過ぎる。昔の俺はそれに憧れていた。だけど終ぞなるこ事は叶わないと思っていた。...けれど俺はあかりにとってヒーローになれたのか?なれているのか?
「でも、ヒーローは悪役を倒す事が本分じゃありません。誰かを守って、救って、導く事が出来る人が本物だと思います。暗闇を照らす光のように。私は...夜一さんにもそうであって欲しいです。」
ポロロン、と無機質な音がなり電話が打ち切られる。俺は静かに携帯をポケットに戻す。
.......ほんとに人間というのは単純だと思う。好きな人の言葉1つでこんなにも変わっしまう。
自分の中の狂騒は消えた。静寂の中、たくさんの『俺』の言葉は1つだった。
『今を守るために戦いたい』
「誰からだ?」
「あかりから。」
「『やめてください。』って懇願でもしてきたか?」
「いいや。そんなんじゃない。」
「へぇ、じゃあなんて?」
「んー...お前をぶっ飛ばす理由をくれたってとこ。」
「へぇ...」
そう。ぶっ飛ばす理由。殺さずに目を覚まさせる理由。
「妹さん。」
パァン。キィィン。
「もう、大丈夫そうですね。」
「あぁ、もう大丈夫。みょんも迷惑かけたな。」
妹さんから受け取った刀を鞘に戻す。結局今回も刀で戦うのか。でもきっとこれが最後だろうな。
「謝るのは寧ろこっちだよ。私の私情で夜一君を巻き込んじゃったんだから。本当に、何て言葉を並べても足りないよ。」
「確かにそれもあるかも知れないけど、俺にも琥珀の親をぶっ飛ばしたいって気持ちもあったからな。それと、榛さんはやっぱり命令されてって感じだった。」
パァンと4発目の銃弾を斬る。海雪はずっと無表情でいる。斯く言う俺も無表情で佇む。小さく息を吐き、言う。
「すまん、海雪。待たせたな。やるか。」




