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「でもなんで本当になんで妹さんまでここに入れられてるの?関係なくない?」
初めの疑問をここで問いかけてみる。てっきりみょんだけお持ち帰りする予定だったのに。
「そこの女をここから逃がそうとしたから牢にぶち込んだんだ。」
そうなのか。確かにそんな事すれば今の海雪なら間違いなくそういう事しそうだな。流石にそんなことは妹さんの方が分かってるとは思うけど。
「......でもそっかー、やっと妹さんも兄離れできたかー。最初会ったときなんかすごかったもんな。「お兄ちゃーん」て叫びながら海雪に抱き着いて。マジかよって思ったな。ぶっちゃけキモかった。」
「神倉さんそんな事思ってたんてすか......」
「まあね、でもだからこそ嬉しく思うよ。いつまでも宿木にはいられないからね。いつかは困難に打ち勝って克服しないと。...大丈夫、一歩目を踏み出せれば案外二歩目も自然と出るものだよ。そうすればもう自分の足で歩ける。どこにだって行ける。時々止まったり、振り返ったりしてもいいと思う。「今はこんなんでも」「こんな自分でも」なんて自分を少しでも認められたら、きっと未来は明るいはずだから。いつだって大切なものは強い意思だ。意思は勇気に、勇気は行動に、そして行動は運命だって変えられる大きな力になる。」
「海雪、俺は3つお前に言いたいことがある。1つ、訪花に何一つ事情説明しないで勝手に別れてるんな。2
つ、今お前のいる状況をもう1回鑑みてみろ。3つ、自分が望んでもない事を嫌々やってんじゃねぇ。」
お互いの視線がぶつかる。互いに持つ物は敵意のみ。
「夜一。」
ん?
「悪いがチェックメイトだ。」
言うが早いか、次の瞬間パァンと乾いた音がした。海雪ではない、恐らく予め海雪が潜ませて置いた誰かだろう。この静かな部屋の中、銃を扱う音が僅かに聞こえていたので何となく予想は出来ていた。音よりもずっと速く迫るそれを俺はギリギリで躱す事もできた。けれど今躱せば妹さんやみょんに当たる可能性が高い。...みょんはともかく妹さんまで危険に晒しての攻撃に俺は怒りを覚えた。「俺が躱したら妹さんに当たる。だからこいつは躱さない」って事かよ舐めやがってクソが。
けれどその弾丸は『誰』に当たらず『何か』に当たった。
「......チェックメイトにはまだ早いだろ。」
舐めるなよ海雪。あいつの前で銃の勝負して勝てるわけないだろ。嘗て接近戦で7人を銃で相手取った化け物だぞ。....でもこの微かな音だけで銃弾を相殺できるとかわけわからん。「援護は任せて」なんて伝えられたけど絶対お前が戦ったほうが強いと思うんだが。これには流石の海雪からも焦りがよく見えた。
「......お前の仲間ちょっと強すぎないか?どんな化け物呼んできたんだよ。折角狙撃呼んで一発で楽にしてやろうと思ったのに。というかそもそもどうして会えたんだよ。連絡先だって知らないだろうし。あの段ボールの中の武器だって普通に手に入るわけないだろ。」
「今の時代は便利になったよな。ネットで検索すれば古い友人に会う事だって、おもちゃの入手だって簡単にできてしまう。流石に表層だとここまでの事は出来ないけどな。」
深層webとは簡単にまとめると普通には検索できないヤバイサイトがたくさんあるところ。薬、武器、個人情報流出、人身売買などなど気軽には決して入ってはいけない世界。そこのとあるリストに2人が居たってわけよ。流石は裏の世界で活躍する人たち、表の世界で暗躍する人だけあって名前はよく知れてる。
「そんなわけでこんな血の焦げる臭いも耳を劈く音もしない、平和ボケしたような国で気取ってる連中が束になったとしても勝てる見込みはないと思うぞ。降参するなら早いほうが「なぜ貴様がそんな得意面してるんだ?」」
先ほどの銃弾の軌道から現れたのはこれは懐かしい顔だった。確か名前を......
「あぁ...えっと、お前どっか旅行行ってるんじゃなかったっけか?」
「大帝だよ。旅行じゃなくて修業だよ。頭ん中脳みそじゃなくてクソでもつまってんじゃないか?良い機会だしもう死ねよ。雑魚がいきがんな。」
このブスは相手と話す時に罵倒しなきゃそのくせぇ口から言葉が出ねぇかよ。というかこいつ銃使いなのか。ならこっちの勝ちだな。
......そういえば施設で初めて会った頃からあいつは友達というのをとても求めていたな。もしあの頃の気持ちが残ってて、友達大好きなあいつがその友達を目の前で馬鹿にされていたらすっごいブチ切れそうだな。......って思ってるそばから既に背後からものっそい殺気が迫ってくる......。やばい、静かな足音だけがさらに怖い。前の2人も何だか表情険しいしこれは予想的中ですねわかります。
肩に手を置かれたので俺はそちらを向く。あの頃とあまり変わらない顔立ちで、身長もあまり変わらない。俺も成長したからあまり変わらないってわけでもないのか。兎も角再び会えて本当によかった。
「久しぶり。春夏秋冬。」
春夏秋冬は笑顔で笑うと大きく頷いた。そして仕草で伝える。
『私』『あの女』『殺る』
「ですよね......。じゃあそっちはお願いします。俺は大帝に乱暴なことはしたくない。」
「おいそういうのやめろ。急に優しくなんてすんな。......調子おかしくなるだろ。」
「これ以上ブスになったら流石に居た堪れない。」
「は?」
「あ?」
「「...チッ」」




