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少し時間を遡って。
「......と、そんな感じの中学校生活を送って来たんだよ。まぁ、ある程度は前に話したけどな。」
中学校の話を全て語り終えるとみょんは何とも言えない顔をしていた。そしてみょんには珍しくわかりやすい繕った笑顔をした。
「それはすごい経験をしたんだね。まるでどこかの漫画の主人公じゃないか。まぁ僕はあまりそういったジャンルは好き好まないが。昨今はそういうのが飽和しすぎちゃってどれも一色単に「みょん」」
話を無理に逸らさないでくれ。
「俺がみょんに訊きたいのは」
「訊きたいのは?」
「......琥珀色の目をした心優しい女の子を知らないか、ということだ。」
「......」
「俺は彼女の名前を知らない。一緒に居た時間だってほんの数か月程度だった。でもそんなの関係ない。琥珀と逢わなかったら俺はきっと死んでたと思う。俺は琥珀の優しさに救われた。感謝と尊敬とかじゃ全然足りないくらいに大切な存在だった。」
琥珀なら絶対にそんな事を望まないだろう。これはただの俺の自己満足だ。あの時琥珀を目の前で失った時に救えなかった、どこに向けたのかもわからない贖罪だ。
「俺は琥珀と逢わなかったら死んでただろうが、琥珀があんな目にあわなければいけなかったのなら、俺は琥珀と逢わなくてもよかった。琥珀は俺なんかよりもずっと生きるべき人だった。でもそれはどんなに願ってももう叶わない。だから俺は琥珀に害をなした連中の事を絶対に許さない。あの施設はもうない。琥珀を拉致したグループは最後の遠征の紛争で壊滅させた。あと残るは見捨てた両親だけだ。それをできずに死ぬ気はない。」
俯いていた顔を上げる。やや苛立った視線をみょんにぶつける。わかってる、みょんだって琥珀は大切に思ってた。
「琥珀は高貴な家庭で優秀な兄と姉がいたそうだったな。みょんには確か兄と妹がいたと言ったな?今はいないのか?前に海雪に告白されたという話があったな。あいつは利益がないとまずそういう事をしない。つまりみょんの家庭はそれに値する家庭ってことだよな?みょんの彼について話していた時、みょんは当時から激しく両親の事を嫌っていたそうだな、何故だ?3次関数の話が出た時、5歳の頃が最も幸せで、6歳の頃にどん底に落ちたと示唆したな、何があったんだ?」
黙っているみょんに対し言葉をぶつける。みょんはただこちらを静かに見るだけ。そして俺の質問が終わるとゆっくりと口を開く。自虐的な笑みを浮かべ。
「情けない話でしょ。いくら幼かったとはいえ、たった1人の妹を助けたいと声をあげる事すらできなかったんだよ。あの時の僕が子供のようにしたいことがそのまま口から吐き出せるようだったら良かったのに。もしあの時に、って何度も後悔してるよ。」
その言葉はみょんの妹が琥珀だったことを認めたということでいいのだろう。みょんの目から止めどなく涙が溢れていく。みょんは琥珀が大好きだったのだろう。だから琥珀拉致された時に探しに行きたかったはず。でも琥珀の両親はそれを許すことはなく、またそれを感じていたみょんも口に出すことができなかった。「賢さは時に幸福を逃す」とは少し違うかもしれないが、みょんは多大な後悔を残した。......みょんは俺の話を聞いてどう思ったもだろう。琥珀がもう死んでしまったと悲しんだのだろうか。はたまた琥珀を助けられなかった俺に怒りを覚えているのだろうか。布団に潜ってしまったみょんにその疑問は訊けなかった。
あかりには流石にみょん本人に許可なしに話すのは悪い気がしたので別の話題を振った。
「そういや結局あかりが修学旅行に来れなかった理由は何だったんだ?」
「そうですね。もう隠す必要もないので言いますと、急遽病院に来るよう言われてしまって。」
「急遽って、そんな具合良くないのか!?し、死ぬのか!?もう逝くのか!?」
こうしちゃいられねぇ!!今すぐあかりしたい事やりたいこと全部やろう。まずは...
「お、落ち着いてください!病院に呼ばれたのはあくまで入院手続きの話で呼ばれたんです。ほら私殆どお金持ってないので保険とかそういう事で早急に話がしたいと言われて......」
あー、そうなの?正直そう言った話は基本親にやってもらってるからよくわかんないんだよね。あかりはしっかりした子だな。とりあえず体調がそこまで悪くないと聞いて一安心。......でもそういやあかりは体のどこが悪いのだろう。見た感じはよくわからないけど。でも俺も服の上からだとわからないか。かといって「どこが悪いの?」って訊くのは何となくマナー違反というか、良くない事だと思うし。俺とみょんは一応合意があったからいいけど。とりあえずは目立って見えるほど悪い感じではないと捉えておくか。
「ぁ、あの......。そんなまじまじ見られるとちょっと恥ずかしいです......。」
「え......あ!いや!!別にそんな卑猥な事とか考えてないよ!!あかりの体の事とか、服の下ってどうなってんのかなとか考えてただけだよ!大丈夫!!一応合意の上でしかそういうのはしないから!安心して!!」
バカかな?一体何をどうして安心できるだろうか。もうストレートに変態だよ。純度100%。この一室が俺のせいで空気をどんどん悪くしてるよ。
「.....よくわかんないですけど安心していいんですよね?私、ちょっと今日疲れちゃったのでもう寝ますね。おやすみなさい。」
「あっはい。お疲れっす。」




