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一体どんな顔して会えばいいのでしょうか……。
「多分2人ともまだ寝てるから、何か顔合わせずらいって思うならそっと入って荷物置いてそっと出ちゃえばいいよ。少なくても私の前で変な事はさせないよう治療しておいたから。」
そんな顔をしてしまっていたのでしょうか。ダメですね、久しぶりの再会だというのに辛気臭い顔をしていたら。
「あの、そう言えば夜一さんが入院されている理由って何なんですか?」
「それは一応本人から訊いてみて。あの子にも一応プライベートってものは存在するから。それにしても……どっかであなたに会った気がするのよね。気のせいなのかしら。」
コンコンとノックをしてみますがやはりまだ寝ていられるのか、反応はありませんでした。小さな声で「失礼します」と言って入ると2人とも寝てました。と言いますか、2人で寝てました。
「えっと……ここの病院の患者は褥を共にするんですか?」
「……ごめんね、ちょっと外で待っててくれる?」
それから何やら鈍い音と悲鳴が聞こえました。懐かしい夜一さんの声でした。少しの間離れていただけなのにとても今は胸が暖かいです。それと少しだけ隣に寝ていた女性に複雑な気持ちがあります。あの方は一体誰なのでしょう。もしや夜一さんの彼女さんなのでしょうか、気になりますね。
「だからですね姉御」と中から声が聞こえます。
「みょんが昨日遂に自分を許して体を預けて来たんすよ。それで自分も漢としてほっとけなくて。」
「恥ずかしい話だけどね。それで一晩慰めてもらって、泣き疲れちゃってそのまま寝ちゃったんだよ。」
「少子高齢化のこのご時世、別にそういう事を否定する気は甚だない。私はそういうのに理解はある方だ。けどな、状況が悪い。だからあと一発、な?」
またも悲鳴が聞こえました。
状況が悪いって一体何があったのだろうか。こんな朝っぱらに面会なんか誰も来ないだろうし、榛様は御理解頂けてるのであれば何が問題なのか……。もしかして……。
急く気持ちが思考を置き去りにして足を動かす。煩いくらいの鼓動は時計の針よりずっと早く、 呼吸さえ無駄に思える。瞬間にして世界が燦然たる色に染まり行く。扉を開き彼女を見た時と言えば玲瓏の如く煌きと音色がきっと消えることなく刻み続けるだろう。
「その、ごめんなさい。私何も夜一さんに言わなくて……ずっと迷っtわぷっ!?」
「……また会えた。今はそれだけでいい。」
ぎゅっとあかりを抱きしめた。前のように叩かれる事はなくあかりもそっと手を回してくれた。まるでお互いの温もりを感じるように。
「で!なんで急に連絡も寄越さず蒸発したんだ!?こっちがどんだけ心配したと思ってるんだよ!俺以外にもひかりに篝、幸生に水無月さん!!みんな心配しまくったぞ!!」
「きゅ、急にどうしたんですか!さっき凄いいい雰囲気だったじゃないですか!」
「いいか、1つ良い日本語を教えてやる。それはそれ、これはこれ。」
とりあえず部屋に入れて鍵を閉める。事情を話すまであかりをここから出すつもりは無い。
……でもここは病院で、この部屋は俺やみょんのようなやつが居る部屋だ。つまりあかりもそういう事なのだろう。また逢えたことを嬉しく思う反面、こんな形では逢いたくなかった。複雑だな。……あ、そうだ。忘れそうになってた。
自分の引き出しからあれを取り出す。一応偶に埃などが積もっていたら払っていたので綺麗な状態である。ま、勝手に姿消して渡せなかったのだから文句は言われる筋合いはないと思うけれど。
「あー、その何だ。あかりは京都行けなかったからその土産みたいなもんだ。」
何となく目線を逸らしながらややぶっきら棒にそれを渡す。
「これは、アルバムですか?」
「イマイチ京都感ない自覚はあるけど、きっとあかりにはお菓子とかキーホルダーとかよりもこういう方が喜ぶんじゃないかなってアドバイス受けて。」
そう言ってあかりの手に持つアルバムを開く。すると浮かない表情をしていたあかりから「あっ...」と声が漏れた。
「ひかりがさ、向こうでたくさん写真撮っててさそれをもらったんだ。行けなかった分せめて写真だけでもって思って。でもあかりが妬み嫉みを感じるんだったら捨てちゃってもいいから。」
あかりは大きく首を振ると「嬉しいです。宝物にします...」と言ってくれた。そう言ってくれるとこっちも嬉しい。ひかりに感謝だな。俺だけならきっと八つ橋盛り合わせとか買いそうだったから。それを提案した時のひかりの顔ときたらもう、ね。
「やっぱり流石は姉妹だな。」
「.......え......」
「あ、ヤベ。」
 




