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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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されどみょんに買われたその喧嘩は長くは続かず、突如現れた(しろぎぬ)の怪物の圧倒的殲滅力により無力化された。泣き叫ぶもその声は届くことはなく虚しく響くだけ。目の前で果てる少女に手を伸ばすがその獰猛な獣はそれを許さずベットに俺を放り投げた。

「黙って寝てろや!医療ミスで殺すぞ!!」

それはミスではなく故意なのでは......。


日が変わりまた朝になった。とは言っても特に何か代わり映えも特にはせずに刻々と時間は過ぎていった。残りの寿命が分かったからと言って生き急ぐ必要は俺はあまりないと思う。とりあえずは俺はもう一度あかりに会えさえすればそれで満足はすると思う。確かに他に何かしたい事がないのかと言われればないことはないが、絶対にやりたいというわけではないし。何一つ思い残すことなく向こうに行くのはきっと無理だろうし。


みょんの2つ目の質問は案外大したことはなく、「夜一君はどんな人が好みなの?」といかにも若人らしい質問だった。俺はこれも正直に「とりあえずみょんみたいなのは無理。」と言うと少し固まった後、お互い臨戦態勢になった。けれど廊下から響く足音に気付くと二人とも無言で頷き合い布団に入り息を殺した。さもなくば殺される。


「とっとと終わらせよう。残りの二つをどうぞ。」

「つれないなぁ。こっちが何訊こうか考えてそっちがびくびくしながら生活するのが楽しいのに。」

そういうとこだよ。

「でも......そうだね。少しだけ向こう向いててくれる?」

「はぁ」とよくわからないが俺は指された窓の方を見る。今日は空もよく晴れていて日が沈んだ後は星と月が綺麗に輝いている。パタンと音がした。きっと扉が閉まった音だろう。みょんが部屋にいる感じはなさそうだからどっか出かけたのか?俺を残して?さっきの指示と何か関係があるのだろうか?なんだろう、もしかしてプレセント的な何かか?

扉が開く。

「ごめん、これ、もしよかったら......。」

振り向くと綺麗にラッピングされた箱が。

「えっと、もしかして俺に?」

「うん。とりあえず開けてみて......?」

俺は高まる鼓動を抑えつつ、丁寧にラッピングを剥がし箱を開けた。すると次の瞬間中から勢いよく顔が出てきた。俗に言うびっくり箱。ちょっとだけロマンティックな気持ちになっていた俺はものの見事に引っ掛かった。それを見てみょんは大爆笑。

「......うーん、すごいありえそう。」

なんてことを考えつつ未だ開かない扉に目線だけ送る。するとぼやけたガラス越しに2人の影が見えた。そして小さな声が少しだけ聞こえた。

「これからしばらく中で2人だけにさせて欲しいんだ。恥ずかしいから誰にも見られたくないから。あとできるだけ他の人にも近づけないで欲しいかも。声が漏れちゃうかもしれないから。」

2人きり?恥ずかしい?声?何だ?みょんのやつ、一発芸でも始めんのか?2人きりだし、みょんにとっては恥ずかしいものかもしれないし、俺が笑いを抑えきれないから声が漏れると。合点はいくな。理由は分からんが。まぁそれなら一向にかまわないのだが、もしも仮に男女の色々をおっぱじめようものならそれは是認できないな。

「ごめん、待たせたね。でもまだ振り向いちゃだめだよ。」

「一体俺はこれから何をさせられるんですか?」

足音が段々と近づいてくる。その音は静かな部屋の中では鮮明に聞こえてくる。余裕ぶっこいてるけれど自分の心臓の鼓動がみょんにまで聞こえているのではないかと内心冷静ではない。

「ねぇ、夜一君はさ。」

耳元で話しかけるなやくすぐったい。しかし動揺するな、狼狽えるな。ここで余裕を見せてこそ漢があがるってもんよ。この前ひかりが持ってきた少女漫画でもかっこよくて、最後に結ばれるのは大体余裕のある男だろ。つまり俺がここでcoolに決められればいずれみょんを落とせる。......落としてどうする。

「......もし僕が、本当は死ぬのが、すごい怖いって言ったら、どう思う?」

背中に触れられていた手は震えていた。声も所々切れ切れでいつもの元気が感じられない。

「『女々しいな』とか、『お前にもそんな感情あったのか』とか言って、笑う?」

空っぽな笑い声が聞こえる。今後ろでみょんはどんな顔をしているのか、当然見えない。けれど声、背中に触れる温かさ、吐息。それらが十二分にみょんの感情を俺に伝えさせる。一緒にいた時間は長いとは言えないのにどうして。

「それとも、優しい言葉を掛けてくれたり、抱きしめてくれたりする?相手の事を考えて、例え嘘でも、優しい手段をとる?」

みょんは頭がいいからきっと俺が格好つけてもすぐにばれるだろう。でも優しい手段をとったってかまわないじゃないか。大切だと思える相手には傷ついて欲しくないし、いつだって笑って欲しいものだ。……特に俺みたいに友達の少ない人にとっては。

「情けない話、俺も凄い怖いんだ。いつこの鼓動が止まるやもしれない恐怖が、いつでも心のどこかに在る。でも、だからこそ夢をみる。絶望しながら生きるのはもう十分だ。それなら俺は……希望を持って死にたい。」

ダメだな俺。これじゃあなんの励ましにもならないじゃないか。寧ろより悪化させてる気がする。

「まぁなんだ、何かして欲しい事があれば極力は協力してやるよ。」

「そっか……じゃあ……」

背中にトンと当たる音がした。今まで必死に堪えていたものが溢れるように俺の背を濡らす。小さな(すす)り泣くが聞こえる。

「今夜だけ、こうさせて……」

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