表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
13/168

13

午後1時の空の下。ぼんやりと飛行機雲を眺めていた。

「のぉ、海雪さんや。」

「なんだ。随分と歳をとったな。」

「やかましい。あかりさんはどちらへ?」

「さあ、トイレにでも行ってんじゃないか。」

飯取りに行ってんだよ。さっきそう言ってただろ。てきとうに流してるな、こいつ。

閑話休題。

「昨日のあかりさんのぎこちない笑顔、どう思いました?」

「殺してもどうにもならないとはわかってはいるけれど、でも殺したくてたまらないみたいなのが見て取れたな。」

「そうだよな~。」

昨日男に言い放ったときのあかりの顔は俺たちから見てそう見えた。ようやく母親の仇を取れるのだ。やはり殺したい感情の方が勝ってしまうのか。それでぎこちない笑顔、か。あんまりかわいいものとは言えなかったな。そして男があかりを刺そうとした時、あかりの決意は固まった。あかりは嗤っていた。その笑みに男も固まったのだろう。一応最初からあかりも警戒していたが、あの笑顔を見てやばいと思った。海雪からは男の背中で見えなかったかもしれないが、あれはもうブルっちゃうほどだよ。やっぱり女の子には武器より花だよ。なんてね。

「ごめんなさい、お弁当、バッグの底に埋まってて。」

それでもやはりふつうに笑うとふつうに可愛いんだよな。そういえば今日もひかりには教室で待機させている。「むぅ~…」と頬を膨らませ、足をトントン鳴らしていた。

今日もひかりを参加させなかったのは、昨日話せなかったことを訊くために集まるからだ。あまり微笑ましいものになるとは思えない。

「じゃあさっそく本題に入る。」

海雪の言葉に多少気が滅入る。

「おれは3日前お前のことを調べさせてもらった。」

「え?」

突然にそんなことを言われれば確かに驚くわな。

「お前の祖母が住んでるのは東北らしいな。それに両親は駆け落ちらしく祖父母からは嫌われてたらしいな。そして祖母曰くあかりの顔なんて1度として見たことがない、と。」

ほんとに海雪の情報収集力はどうなっていることやら。いやまあ知ってますけど。しかしあかりの表情から図星なのは明白だった。海雪はさらに追い打ちをかける。

「なぜ施設に入らなかった?さすがに小学生一人じゃ生活できないだろ。それになぜ俺たちに嘘をついた?一体何を隠している?」

俺は何も言わず、ただあかりを見つめていた。そしてぼそりと小さな声で言った。

「まあ、あの男も何も言わなかったからいいかな。」

もうあの男呼ばわりなのか。やはり父親なんて呼びたくないんだな。

「ほんとは私、妹がいたんです。1つか2つ年下の。一度しか見たことはないけどあまり似てなかったな。お互い別の部屋に監禁されていてたまに泣き叫ぶ声が聞こえたり。それで一度、すごい大きな泣き声が聞こえたときに、もしかしたら私よりひどい扱い受けてるのかな?もしそれなら助けてあげたいなって思って、そこから妹のことを考えるようになったんです。私ら姉妹は自分のことをあまり知られてなかったから具体的な年齢なんて知りませんでした。でも私が小学生とされてたとき、妹はまだ家にいたと思います。母を殺して私のところに来たってことは、妹も殺されたんだって思いました。でも家に妹の死体はありませんでした。となると妹は外で殺されたのかなと思い必死に探しました。ひどい雨でずぶ濡れになりながらも必死に探しました。しかしどんなに探しても見つかりませんでした。何度も諦めようと思いましたがでも、探すのをやめられませんでした。施設に送られれば捜すのは困難でしょう。せめて妹には安らかに眠って欲しかったです。それからは妹を捜す一心で色んなところにいきました。廃墟や森の中、廃工場など。ご飯などはゴミ箱からあさったり、森の中の動植物だったり。……ほんとはあの男が死ぬ前に妹がどこにいるか、訊きだすつもりだったんですけど。」

そんな生活をしていてよく死ななかったな、というのが本音だった。流石に小学生1人で生きて行くなんてふつうは無理だぞ。それだけの事を経験すれば父親を殺したくなるのは当然かもな。

「事件が落ち着き、家を使えるようになると妹とを捜しつつ、お金をひたすらに貯めました。このご時世、さすがに一文無しは死んでしまいます。ひたすらにバイトをして、高校に入るつもりでした。あなたに会うために。」

うんうん。は?最後がよくわからん。微笑みながらこちらを見た。俺はこいつと会ったことなんか会ったっけか?

俺が困惑していると、クスッと笑い話を続けた。

「私が小学生のころ、1人だけ友達がいました。その子は学校で虐められていて、私もあまり学校に行けなかったものですから、その子はほとんど1人でした。いつも自分の席で難しい本を読んでいました。読書をする事で孤独なのを紛らわしていました。」

……。

「ある日クラスにいた男の子があまりに見兼ねたのかその女の子を助けてくれたそうです。それからはその子は1人ではなくなりました。お昼などもその子と一緒に食べるようになり初めて学校でも居場所を見つけられた、と喜んでました。」

……やめろ。

「ですがそれを気に食わなかったのか周りの人の虐めはどんどんエスカレートしていきました。標的が男の子になると聞いたとき、酷く自分を責めたそうです。自分があの男の子にさえ関わらなければ、私が友達なんかを求めたからと。そして耐えかねた女の子は自殺してしまったそうです。」

「やめろ!!俺があいつを殺したんだ!!俺のくだらない正義感のせいであいつに淡い期待をさせて、そして一気にどん底に突き落としたせいで!!人を助ける自分がかっこよく思えてただけなんだよ。俺はただ自惚れてただけなんだよ…。」

激昂する俺を見て、あかりは静かに首を振った。

「それでも、彼女は君のことをヒーローと呼んでいました。真っ暗な世界の中、仄かに照らしてくれる星のようだって。たとえ傷ついても、決して消えないその笑顔に何度救われたかって。」

俺は、そんなやつじゃない。そんな強い奴じゃない。自分でも笑っちゃうくらい、泣き虫で弱虫。

「そして、もしも困ったことになったら夜一君に助けを求めなって。必ず力になってくれるから、と。それが今回私が夜一君に助けを求めた理由です。あの子が信じたあなたを私にも信じさせてください。」


午後は早退した。とてもじゃないが授業はまともに聞けないと思った。家に帰り布団に潜った。思い出したくないが、いい加減に過去と向き合わなければならない。俺が俺という人間を嫌いになったあの頃を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ