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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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俺達にはあまり時間がない。だからもしこの生活を書き綴るのならば、なかなかにハイテンポな物語になるだろう。もうギャグとかコメディなんて言ってる時間はないのだ。伏線?知ったことか。綺麗な結末?現実にそんなの求めるな。何だか締め切りの迫ったクソ漫画みたいな雰囲気だが俺に迫ってきているのは締め切りではない。言うならばそう、deadline。......おんなじじゃねぇか。

「……中学校の頃の友人の事なんだがな。」

「また!また女の話か!?夜一君はどんだけ見境ないんだよ!最早君のその野獣性は天性のものらしいね!!どこぞのハーレム主人公だよ全く。嗚呼……僕の貞操も最早時間の問題か。そろそろ君のスキル『ラッキースケベ』辺りが発動するだろう。でもまだ時間を掛けて攻略されただけマシか。短時間で落とされて捨てられるモブよかマシか……。」

確かに女性の話だけれども。確かに俺の周りには女性が何人かいるけれども。俺はそんな野蛮な人間では断じてない。はず。


「あ。」とみょんが何かを思い出したように声を上げた。「何?」とまたどうでもいい事だろうと思いつつ訊いてみた。すると宙を見ていたみょんはこっちに向き無言で俺を見つめた。「どったの?」と尋ねた。どうせみょんはこんな風に真剣な顔して俺を揶揄(からか)おうとしてるんだろう、と思い込みつつ、本当に真剣な話だったのならどうしたのだろうと思ってしまう。文字通り固唾を呑んで次の言葉を待つ。


「ここに新たな人が来るらしい。」

「その人の名前は。」


「桜花あかり」


俺は気づくと駆け出していた。

廊下に出た俺は周りを見る。けれど探す彼女の姿は無く、病院内を走り回った。やがて榛さんに捕まると説教を其方退そっちのけで逆にあかりの事をまるで詰問するように問い質した。その姿に榛さんも怒ることもせず落ち着くよう言われた。

「とりあえずね、そのあかりちゃんは今はここにいないの。神倉君達と同じ病室っていうのが決まっただけで。でも近日中にはこっちに来るらしいから、もうちょっとだけ待っててあげて。」

そこで漸く冷静になれた俺は息を整え頭を下げた。

「確か夏の頃に神倉君がここに来た時も一緒にいたよね。えっと、ひかりちゃんからも聞いたよ。『大切な人がいなくなっちゃって夜一も滅入っちゃってる』って。その大切な人が来て焦るのは分かるけど、優しく迎えてあげるのも大切だと思うよ。」

「すみません......。俺、なんか、どうしちゃったのかな。自分でもよくわかんないんですけど、あかりの名前を聞いたらいてもたってもいられなくなっちゃって。」

ほんとどうしたのだろう。前まではあかりに対してここまでの気持ち持っていなかったのに。

「好きなんだね。その子の事。」

好き、か。......好き。俗に言う恋ってやつか。その人の前では胸がどきどきしたり、ふとその人の事を考えたりしてしまったり。何度も考えたことはあるが結局その答えはわからなかった。でも......そっか、うん。そうだな。前から分かってた。ずっと気付いてた。ただ大切な物を作りたくないなんて言葉で包もうとしてたんだ。そんなこと、できるはずもないのに。

会えなかった時間が気持ちを膨らませ、くだらない感情を吹き飛ばしてくれた。それはまるで風船が空高く飛んでいくように。

「なんだ、俺あかりの事大好きだな。」

こんな簡単な事に気付かないなんて、俺は割とバカなのかも知れない。

病室に戻るとみょんは何とも言えない顔で「お帰り」と言ってくれた。けれど俺の顔を見るとすぐ「少しかっこよくなったね」と笑ってくれた。「惚れんなよ?」と冗談で言うと「笑えない冗談はやめて」と言われた。へこんだ。


「いや、話すっごい逸れちゃったけど戻そう。俺の中学校の友達についてだった。」

確かに俺があかりに対する本当の気持ちに気付いて「好き」って言う、なだそうそうな展開だったけれども、これはまたあかりに再会したときに取っておくとしよう。それより前にみょんに残った最後の事柄を終わらせておきたい。事の次第によればもう一度体を張らなければいけないかもな。

「俺の友達について訊きたい事があってだな。あれはそう、俺がまだ......あの、聞いてる?」

「......何かさ、ただ質問してただ答えるってのも花がないというか、つまらなくない?ストーリー的に。絵面的に。僕たちは青春真っただ中の人生の頂点だよ。言うならば三次関数。僕の場合はy=ax³+bx²+cx+20(0≦x<18)(0≦y≦100)。xは年齢。yは幸福度(%表示)。頂点は、そうだな......(5,90)(6,0)……あ、だめだ。絶対そんなの無理だ。」

急に数学喋んな。でもそうだろうな。その数値通りなら今17歳くらいのみょんの幸福度は990%。限界を超えてどこまでも。しかもみょんの好きだった人が死んだ時さえ凄まじい勢いで幸せを感じてることになる。それはサイコパス。……でも切片20だったりx<18って所々笑えないとこ含まれてるんだな。

「来年が……余命なのか?」

「人の話聞いてた?質問して答えては質疑応答。そうだねー、トランプとかで決めよう。」


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