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「あはは、全く君のせいで全く嫌なものを思い出しちゃったよ。......ほんと人間て怖いよね。普通高校生の恋愛感情であそこまでするかな?」
俺が口を開き言葉を言うより早く、みょんは話し始めた。
「さて結果発表だね。ドゥルルルルルルルルルルルルル...はぁはぁはぁ...ドゥルルルルデデン!!」
いるのかこの流れ。
「......残念。結果は否。まだ足りない。」
何かを諦めるように、静かに笑った。
「待っ「ありがとう、さようなら。」」
そう言って僕は小さな一歩を踏み出した。
この病院はそれなりの高さがあるからきっと僕は死ねるだろう。こんな青空ならばすぐに君に会えると思うんだ。君に向かって僕の体はどんどん加速する。9.8。彼女らの愛が流した血の量だとしたら、この加速度が僕の愛なのかな。......ほんと人間は怖いよ。大切な人のためなら死ぬことだって恐れない。だから僕は最後の一歩を踏み出せた。勇気、ではないけれど覚悟のいる一歩だった。それは君に会えるけれど、それ以外の全てを終わらせるものだったから。君のいない世界なんて生きる意味なんてないと思ってた。けれど心のどこかでその意味を探していた。
今やっとそれを諦める理由ができて、『生きている意味なんかやっぱりないや。』って思えて、死ぬことができるというのに......。目の前の人はそうはさせてくれないらしい......。
「っざけんなよお前!!俺がまだ全部解説終わってないのに勝手にドラム回し始めて『否』じゃねえよ!というか俺が嫌われてる原因もまだ教えてもらってないし!とりあえずその理由教えてもらうぞ!」
「ああ、実はね」
「はい残念時間切れでーす!!罰としてみょんには『生きて』その理由を教えてもらうからな。」
「...欲深いなぁ。」
「欲は願いなんだから幾ら持ったっていんだよ。……お、何とか間に合ったか。」
下を見ると大きな布地を持った3人が急いで出てきて受け止める準備をしてくれた。もしかしたらこんなことになるかもと予想して声を掛けておいて良かった。けれどこの下は運悪くか、若しくはみょんの狙いか、病院の電気設備の為ひかりたちは真下には来れない。それにあれではみょんだけを支えることが関の山だろう。だから言った通りみょんを最優先で助けてやってくれ。俺はみょんの背中を押し落下点をずらす。そしてそれに合わせて下の3人もみょんの下に位置を取る。最後にみょんは見たことのない顔を見れた。やっと本当の顔を見れたような、そんな気がした。中学生で習う作用反作用の影響でみょんとは反対の方向へ落ちる俺はそのまま林の中へ突っ込んだ。
夜一のお願いで無事みょんちゃんを助けた私達は直ぐに夜一の落ちた方へと走った。みょんちゃんは何か言いたそうだったけど今はそれより夜一の方が急を要する。
夜一はさほど深くない場所にいた。仰向けになって忙しく息をしているのを見てとりあえず一安心。近寄っていくと至る所に擦り傷や切り傷、流血が見られたが、どれも死ぬ程ではなさそう。既に水無月さんが建物内に入り病院の人を呼んできてくれているので私は簡単な応急処置だけした。
「いい加減その無茶もやめて欲しいんだけどな。ま、言ってもどうせ聞かないんだろうけど。どうだった?飛び降り自殺の感想は?」
「死ぬ程痛い。五接地転回法は5階くらいが限度なんだよ。この病院何階だよ、林が無かったら間違いなく梨汁ならぬ血飛沫ブシャーだぞ。……まぁ、みょんがとりあえず無事で良かった。」
夜一が傍に来たみょんちゃんを見て安堵する。それに対しみょんちゃんはただ「ありがとう……」と言った。
「ちゃんと罰は受けてもらうからな。」
それから夜一は治療の為担架で運ばれて言った。
怪我と言っても擦り傷、切り傷、打撲等といった程度なので1、2時間で病室に戻ってこれた。何故あそこから落ちたのか、と榛さんに訊かれた時は正直に答えた。全部は言わなかったが『みょんが自殺しようとしたから』と伝えた。榛さんは「そう……」と言ってそれ以上は何も言わなかった。
何となく病室の扉を開けるのが躊躇われた。最初の言葉は何と言えばいいのだろう。「ただいま」とか?それで「おかえり」とか?……夫婦かな?
「それで夜一君が屋上に来て……」
おっ、耳澄ますと若干声が聞こえる。話してるのはひかりかな。
「屋上の鍵を閉めて逃げ場をなくしたんだよ。それで僕は小屋の上に隠れてたんだけど勿論バレたんだ。夜一君はそのまま嫌がる僕に迫ってきて。怖かったなぁ。すごい我儘なんだよ。『満足してない。』みたいなこと言って。まぁそれから色々あって落ちちゃったという訳で……あ。」
「け、ケダモノ!」
話し相手は篝だった。どうやら妹の純情を弄んだらしい。恩を仇で返すとは舐めた事を。
「篝、ちょっと部屋から出ていなさい。それとな、ここは病院だ。例え誰が死んでもそれはしょうがない事なんだ。いいな?」
「ダメだよ兄さん!兄さんくらいの年齢なら性欲が昂るのはしょうがないよ!それを家族に知られて恥ずかしいのも分かるけど、私も……その……理解出来るよう……頑張るから……」
そんな真っ赤な顔して涙目で言われても。なんのプレイだよ。というかそもそも前提が間違ってるんだよ。……でこの状況を元凶はどう見てんだ?
「真っ白な物を汚すこの背徳感。堪らないね。あー、もっと汚したいなぁ……。」
「お前お前お前お前ぇ!!」
「まぁまぁ、とりあえずこの話は置いておいて先程の続きを語ろうじゃないか。」
「続きなんてもうどうでもいい!てめぇをぶっ潰してこの物語は終わりじゃあ!」




