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とは言っても実際俺にも『what』の部分は自信が無い。勿論考えはある。そこは安心してもらって構わないのだが、正直信じ難い事なんです。そこをどうか頭に入れて貰えれば幸いです。
「どうしたの?急に自信でもなくなったの?」
「ば、ばかやろう!んなわけねぇだろ!これは、あれだ。その……なんだ?」
「知らないよ……」
図星。
「兎に角、ここで重要なのはあの5人の傷とみょんの当時の制服だ。」
「頭部の打撃痕と血だらけの制服?」
そう、ここに気づけば直ぐに結論に辿り着ける。でもその結論はあまりにも現実離れしている。ぶっ飛んでいる。
残酷な真実を言うようにゆっくりと話した。
「大事なのは『前頭部』の傷と『全身』血まみれという事だ。」
「……ん?んん~?.......あっ、うっ!!」
思い出せたのか、まるでトラウマが蘇ったように苦悶の顔を浮かべる。という事はどうやら俺の考えは合っていたようだ。全く人間はどこまでも怖いものだ。
「……前頭部に怪我ってことは当然前から攻撃されたってこと。でも、それが5人全員なんてありえない。自らみょんに殴られるってことはないだろうし。そうなると考えられるのは、考えにくいけど、5人全員自らの頭をバットで打ちつけた。」
未だ苦しそうに藻掻くみょんに俺は淡々と話を続ける。
「みょんに付いた全身の血もおかしい。襲う側だととしたら後ろに血が付くなんてほぼ無理だろう。振り返らずに相手の頭のみを殴るなんて芸当できないだろ?そして最後にみょんに糸くずのような物が付いてた。断定はできないけど、あれは多分荒縄かなんかじゃないのか?」
「うぅぅぅ……」
そうだ。あの日は僕の大嫌いな雪がたくさん降っていたんだ。
「めんどくさいなぁ。」
この前、ある人から告白された。けれどそれは断った。何故なら相手は別に僕のことなど全く見ていないからだ。何となく直感でそう思った。勿論その人に興味がないのもあったが。その後からだ。何かその人の事を好きだったらしい5人組に絡まれるようになった。何が気に食わないかと訊くと「未だにあんたのことをあの方は好きだってことよ」と言われた。ひどい話だよ全く。そんなの知ったことか。そう思いまともに相手にしなかった。
そして今日遂に呼び出しがかかった。裏道を指定する当たりどうせ僕をボコボコにする気だろう。けれど僕は敢えてその誘いに乗った。勿論無防備じゃない。呼び出された場所に近づくと周りを見渡して人がいない事を確認し、携帯で110番を押す。襲われる直前くらいに来てくれるといいな。けれど警察が電話に出る前に僕の意識は消えた。
「つまんないことすんなよ。」
その言葉だけ聞こえて。
目を覚ますと荒縄に縛られていた。胴体を巻くように。これでは逃げるにも直ぐに捕まるだろう。生憎運動は出来ないんだ。そして僕が目を覚ましたのを確認した1人が近づいてくる。てっきり殴られたり蹴られたりされるかと思ったが、ただ正座をさせられた。土下座でもしろと?そしてやがて全員の目がこちらに向いた。これから酷い目に合うのだろう。警察も呼べてないから発見されるのはいつになることやら。しかも1人金属バット持ってるし。これは本格的に死ぬかな。……でもまだ死にたくはないんだ。
「いいの?私をボコボコにしたら確かに気は晴れるかも知れないけど、全員もれなくあの人には嫌われるよ。一時の感情で流されて今後を全てを失うつもり?」
こういう場合はメリットだけよりデメリットも提示した方が確か効果的だったような…。もう少し色んなことを勉強しておくべきだった。
「わってるよそのくらい。お前あたしらの事馬鹿だと思ってんだろ。」
「同じ高校ならさほど頭の良さ変わらないと思うよ。」
君達のは馬鹿とかそういうのとは根本的に違う。俗に言う狂気の沙汰とかそっちに近いと思うな。しかし参ったな。このまま時間を稼いで遅刻となり、教師が親に連絡して探してもらう、なんてのはまず無理だろうし。けれどそのくらいしか今できることは無い。
「おい、やるなら早くやろうぜ。」
……今日はとことんついてないなぁ。仕方ない、もしうまく生きてたらまたいつもの場所に行こう。死んじゃったら……まぁまた、すぐ会えるか。僕達にはあまり時間はないんだから。
5人が僕を取り巻く。僕は諦めて目を閉じその時を待つ。そして間もなく耳を塞ぎたくなるような、残って消えない嫌な音が響く。僕の服を赤く染めていく。
「……おい、何をしてる。なんで自らの頭を打ちつけてるんだ!?」
目の前の女は嗤いながらバットで頭を打ち続けていた。血を吹き出しながら、けれどその手は決して休ませることなく。
「おい、止めろ!!他の奴もなぜ止めないんだ!!僕を悪役にしたいのならもっとマシな方法を取れよ!!」
そこで最初に打ちつけていた人が倒れた。流れてきた血が僕のスカートを染めていく。そして落ちたバットを拾い2人目が同じように自分の頭を打ち始めた。
「やめてくれよ!!頼むから!!」
「確かにあんたを悪役にするだけならもっとマシな方法があったかもな。でもこれが最もわかりやすいだろう。私らが流した血の分だけあんたは悪役になる。そしてまた流した血は私らがあの方に対する愛だ!」
そしてまた頭を打ち始めた。
怖かった。わからなかった。知りたくなかった。
壊れた人形のように嗤い続け頭を打ち続けた。
それから3人目、4人目、5人目と倒れていった。最後の人が倒れた時にはすっかり心が壊れていた。いつの間にか外れていた縄を近くにあったゴミ箱に捨て、僕はその場を去った。




