122
結局あれからご飯を食べたら眠たくなり気付いたら爆睡してしまっていた。とはいえ流石に朝までずっと寝ていた訳ではなく4時に目が覚めた。あ?4時は朝だ?何を言うか、ちゃんと気象庁も3時から6時は明け方といい、6時から9時までを朝と定義づけてるのだぞ。
「目も冴えちゃったし俺も散歩してみようかな。」
何か......今のセリフ爺臭いな。
朝晩の冷え込みは次第に増し、扉を開けると冷気が襲ってきた。けれど部屋に戻り1枚羽織ると案外「寒いなぁ」と思う程度だった。廊下を歩き、ロビーを抜け、中庭へと歩を進める。見慣れたと思っていた景色も何だがいつもと違って見えた。「よっこらせ」と言いベンチに腰掛けてる姿は本当に歳を取ったと感じさせられる。
「それにしてもいいのかな......」
みょんがそこだけ記憶を失ってるという事は、その時の事を忘れたいと本能で動いた結果。それをまた思い出そうなんて飛んで火に入る夏の虫みたいな感じだと思うけれど。まぁまだあの日の出来事を解明出来る保証なんてないけれど。情報がまだ足りない。
色んなことを考えているあたりで慣れない時間に起きたせいか、つい転寝を3時間ほどしてしまった。朝の検診とやらで俺がいない事に気づいた榛さんが凄い形相で探してくれたらしい。部屋で散々叱られている間、みょんはそれを肴のようにしてとても楽しそうにご飯を食べていた。
今日は週末という事でひかりから「午前中姫姜ちゃんと佐藤君とでそっち尋ねるからよろしく!」と連絡があった。
「じゃあ私はまた散歩でもしてこようかな。」
後ろから携帯を覗いていたみょんがそう言う。
「どうせならみょんも話に混ざればいいだろ。俺なんかと付き合うような奴らだからみょんの事だって気にしないさ。自意識過剰なんじゃないか?」
「......」
一瞬真顔だったが直ぐにみょんはその言葉に対しアメリカ人みたいな(いや知らんけど)オーバーなリアクションを取った。
「全く分かってないなぁ。問題はそっちの心持ちじゃなくてこっちの罪悪感なんだよ。どうやっても『あぁ、無理して笑ってるな。』とか『必死に話題作ろうとしてるな。』とか勝手に思っちゃうんだよ。そしてそれに耐えかねる強さもない。」
「じゃあ何で俺と仲良くしてるんだよ。」
最もな質問だったと思う。そこから上手く話を繋げられると思った。でも簡単に突き放された。
「は?仲良くなんかないだろ。たかだか数日一緒に居ただけでつけ上がるな。私は君が嫌いだ。そして君の存在が私は大嫌いだ。」
そう言い放つと静かに部屋から出ていった。
「と言った具合に見事に嫌われたと。いいじゃん、テメェの不幸でご飯3杯はいけるぜ。メシウマ!」
「私佐藤君のそういうとこ嫌い。」
「私もです。」
「俺も。」
「俺も。」
やっぱり人との人間関係を築くのは難しい。前々から何となく嫌われてるような気はしてたが気のせいだろうと思ってた。でも確かに『自意識過剰なんじゃいか』はいくら何でもないだろうと後になって気付いた。そしてそれに気づきもしないさらに話を掘り下げようとしたんだから怒られてもしゃあないのかな。にしても最後の罵倒はなかなか効いたな。
「やっぱり謝ったほうがいいんじゃない?本人が気にしていることを「自意識過剰」って言われるのって嫌な人にとってはやっぱり嫌だと思う。夜一が悪意がないのは勿論知ってるけど、少なくてもそれはずっと夜一と一緒にいた私だからわかる事だから。」
「そうですよ。長い時間を共に過ごしたからこそ得られるものってあると思います。それは想いの強さとかではどうやったって手に入らないものですから。」
何だか水無月さんのそのセリフには重さを感じた。...共に過ごした時間の長さが重要というのなら、その時間があまりない俺らは一体何でそれを補えばいいのか。そもそも補って解決するものなのだろうか。......なんてこんなこと考えてる時点でどうせ碌な結果じゃない。不器用は不器用なりに頑張ってみますか。
『君は今何をしたい?』
嘗て水無月さんに言われたことを思い出した。
「ちょっとみんなに聞きたいことがある。」
「去年の12月24日、みょんの血塗れの登校の日、何か変わったこととかなかったか?」
去年の事だからひかりは知らないだろう。俺は勿論学校に通ってはいたが俺の知る情報なんてたかが知れてる。水無月さんもあまり学校にはなじめてなかったかもだけど、こういうのは幸生の得意分野なはず。その幸生は過去を振り返るように髪を遊ばせ始めた。
「流石に一年近く前のことだぞ?何かあったっけな。あ、雪だ。雪が降ってたんだ。」
...雪?
「そうそう、雪がたくさん降って学校へのルートが大幅に変わったんだ。そのせいで遅刻しそうになって走って滑って転んで女子押し倒しちゃって殴られて保健室行ったんだ。」
後半は別に知ったこっちゃない。
「じゃあもう1つ。被害者達のことについて知りたい。特に恋愛関係とかで。」
この質問にはやや以外だったが水無月さんが答えた。
「イってる。」
「何だって?」
「頭イってる。」
「もうちょっとこう、具体的に。」
「私、あの何人かと同じクラスでよく私の席の近くで集まって話し合いみたいなのしてたんです。あんまり詳しい事は覚えてないけど、とりあえず狂気的なまでに同じ男の人を好きだったんです。なんか馬鹿みたいに誓約書みたいなのも書いてたし、厳しい取り決めまで。あそこまで行くとちょっとおっかないです。」
水無月さんがそこまで言うのなら一般的にもかなりやばい連中だったのだろう。




