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『本当にこのままでいいんですか?』
『……』
『あの日の言葉は本当だったはずです。』
『……』
『私はそう信じてますから。』
『……』
あかりは今、どこで何をしているのだろう。修学旅行の班決め前では俺たちと回るみたいな事を話していて、前日になって行けないとなった。何かあるならその間になるが、流石にずっとあかりを見ていた訳じゃないからその理由が分からない。けれど本人が言えないという点で真っ先に思いつくのは、性分上きっと俺たちに迷惑を掛けたくないみたいな所だろう。でも実際問題それが具体的に何を指すのかさっぱり分からない。家を出てったという事はそれなりの覚悟をしてたはず。でもそしたら今後の宿はどうなる?毎日ホテルなんてないだろうし、それともたしか東北に住む祖父母のとこに行ったのか?いやでも親戚に助けを求めるのは今更すぎるな。じゃあ住み込みバイトとか?でもそれなら連絡くらいはすると思うしな。
「何をそんな真剣に悩んでるんですか?」
今日の御見舞はどうやら水無月さんらしい。ひかりにはバイトがあるし、幸生だって部活があるからあまり来られないだろうし、そうなると自ずと水無月さんに来てもらう他ない。今後は大分迷惑かけてしまうな。
「……実は診断結果が良くなくて明日まで保たない命なんだ。」
「えっ……?うそ……でしょ?」
おうよ。
「嘘ならどれほど救われることか。水無月さん、短いあい「急いでひかりちゃん読んでくる!あと佐藤君と鎧塚君と!」……あ、行っちゃった。」
……。
「ごめんなさい!嘘です!俺はピンピンしてるから!大丈夫だからー!!」
「ざけた事しやがって、ぶちのめすぞ(小声)。病院でそういう冗談はやめてください。洒落にならないので。あと神倉君の言葉はもう金輪際信じないので。」
なんてディスりながらも課題のプリントを叩きつけられ「プリント持ってくるの面倒なんで早く戻ってきてくれません?」と婉曲に心配してくれてるあたり優しいな。しかも隣に立ってわざわざ教えてくれるなんて優しすぎて……逆に怪しい。
「で、昨日貴重な時間を割いてまで来たひかりちゃんの前でイチャついていた神倉君。そのお相手はどちらに?」
勿論謝意を見せるため土下座までした。地位もプライドも投げ捨てて。
「そんなの私にはただ体勢を少し変えただけにしか見えない。それにクラス内ヒエラルキー最下層のあなたがはなからないようなプライド捨てたって私は何も感じない。」
辛い以外のコメントがない。
それから時間が経ち、5時にはだいぶ暗くなってきたので水無月さんを病院入口まで送った。その間みょんの姿は見えなかったがまた例の散歩だろうか。そう考えて何となく中庭を歩いているとその本人はベンチに座り眠り臥せっていた。起こそうとも思ったが俺は着ていた上着をみょんの肩に掛けると隣に失礼させてもらった。
「ここから一体何が見えるんだか。」
それからみょんが起きたのは完全に日没してだった。
「それで診断結果はどうだったんだい?」
こういうのは普通訊くのを躊躇うべき話題だと思うんだが彼女はそういうのはないらしい。別に俺はそういうのは気にしない性格だから構わないけれど。「ほい。」と診断結果が書いた紙を渡す。みょんは何か楽しそうにそれを眺めて「ふむ、あなたはあと2ヶ月程の寿命でしょう。」と宣言した。医者ですら言葉を濁すというのに……。紙を返してもらうと今度はみょんが診断結果の紙を寄越した。
「見たいならどうぞ。私だけ見るのは何か狡い気がするし。」
まるでそれは『是非見て欲しい』と言わんばかりの顔だった。みょんの顔を見るとニコッと笑った。
「……いいや、見ない。」
「そっか。」
「その代わりと言っては何だが。」
「ん、ああ。身長は平均くらい、体重は軽すぎず重すぎず、スリーサイズは上からボン!キュッ!ボン!といった感じだよ!誕生日は1月1日から12月31日の間に生まれたんだ。」
「お前俺の事嫌いだろ。」
「想像とは人間が神から与え給うた力だよ。」
なんかこのままだとどんどん話を逸らされる気がする
。
「その代わりにあの噂について知りたい。」
俺の言葉にキョトンとし、暫く考える仕草をした後、ゆっくりと話し始めた。
「それは出来ないんだよ。何故かその時の記憶だけ抜け落ちちゃってるんだ。」
「別に嘘をついてる訳じゃない。言葉通りに何も覚えていないんだ。一年ほど前、普通に学校に登校していて、次の記憶は警察の人達が私に質問をしていたんだ。」
「考えられるとしたらその時に相当ショックな事があったとかだろうな。」
俺も両親のことは忘れてたし、鉋のこともずっと生きてると思ってた。人間は潜在的に嫌なことからは目を避けるものだ。
「……信じてくれるの?」
「嘘なのか?」
「いや、ほんとのことなんだけど。」
察するに今ままで誰にも信じて貰えなかったんだろうな。状況からみたらこいつが加害者になるし、その他大勢は大抵被害者につくものだし。でも真相がわかんない以上誰が被害者で誰が加害者なんて俺にはわからないけれども。




