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さよなら、うそつき  作者: わたぬき たぬき
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幸生が何をしたいのかよく分からなかった。だってシナリオ通りならここで俺が去り、幸生がひかりに告白するはずだった。ひかりが俺を止めるなら分かるが、なぜ幸生が?

結局答えは分からなかったが幸生のその本気の目に俺はそこに残ることにした。そしてそれを確認した幸生はひかりの方に向き直した。そして言った。

「ひかり、俺はお前が好きだ。前に振られたのは百も承知だ。それでも俺はお前以外考えられなかった。初めて会ったときより、前に告白した時よりずっとずっと好きになってる。それはきっとこれからも。だから改めて言わせてくれ。俺と付き合ってほしい。」

そして頭を下げる。その姿は、なんていうのだろう、かっこいいとは違うけれど胸を打つものがあった。人が本気の本気で何かをやろうとすると見てると心が動かされるものなんだなと思った。

......たとえ、たとえその結果が報われるものでないとしても。

ひかりの顔はただ悲しそうで今にでも泣き出しそうだった。それに気付いた幸生はただ静かに笑ってひかりのもとへ歩み寄る、

「わたしっ、そのっ、ごめんなさい。」

そんなひかりに幸生はそっとハンカチを渡す。

「俺はただ自分の気持ちをひかりに知って欲しかっただけだよ。だからどうか悲しまないで。ひかりには笑っていてほしい。」


暫くしてひかりの鼻を啜る音もなくなってきたあたりで幸生が口を開く。

「もしかしてひかりにはもう好きな人がいたり?」

ギクッ。その言葉に俺は、多分ひかりも鼓動が早まる。そしてさらに幸生の言及は続く。

「良かったらその人を教えてくれないか。ま、一応振られた立場として訊く権利はあると思うけれど。」

そして一瞬こちら側を見た。その時なぜ俺がここにいて欲しいと言われた理由がわかった気がした。

ひかりは暫く俯いていたけれどやがて決意が出来たのか、顔を上げる。その目は確固たる意志を持ち、俺を映していた。それを止めるのは俺にはできなかった。そして大きく深呼吸をすると1歩、1歩と俺のところへ向かってくる。目の前に着いた時は既に顔は見たことないくらい真っ赤で自然とこちらも赤くなっていく。口を何度も開いては閉じを繰り返し、握った手には力が籠っていた。

「あ、あのね...。その、真剣な話だから、ちゃんと聞いて答えて欲しいの。」

「そのくらい目を見れば分かる。長い付き合いなんだから。」

俺はせめてちゃんと応えようと思った。そしてゆっくりとその唇が開かれる。

「夜一は...いつも人のこと考えて、明るく振舞って、でも傷つきやすくて。そんな夜一と出逢えて、私は色んなものを貰ったんだ。安らぎ、自由、喜び、尊さ、楽しさ、庇護欲、寂しさ、憧れ、切なさ...今私の心を染めているこの気持ちだって...。夜一と出逢ってこの世界を生きていたいと思えた。夜一と一緒に。......私、昼ノ夜ひかりは、神倉夜一の事を、愛しています......」

ずっとそれを知っていたはずなのに、心から何かがとめどなく溢れてくる。けど答えに迷いはなかった。

「俺は、恋愛として人を好きになったことがなくて。だから正直愛とか恋とかはイマイチ分からない。...でも今は、ある女の子に何かよく分からない感情を持ってる。だからこの感情が何か分かるまでは......ひかりの気持ちには応えられない。大切な事だから、軽率に返事をしたくない。」

そして頭を下げる。自分の気持ちを全て込めて。だからひかりが今どんな顔をしているのかも見れない。でも、何となく分かる。長い付き合いなのだから。

「その子は...勿論私じゃ、ないんだよね......」

胸に何かが深く突き刺さる。けれど告白されたのなら最後まで自分の気持ちを伝える責任がある。

「......うん。すまない。」

本当に申し訳ない。

「なんで謝るの。夜一は何にも悪いことなんてしてないでしょ?」

「それでもひかりを悲しませた。ひかりを泣かせてしまった......」

「悲しんでなんかいないよ。でもそうだね...ちょっとだけ1人になりたいかも。」

ひかりは背中を向け空を見上げていた。子供の時から何か辛い事があるとそうしていた。その姿を見ても何もしてやれない自分が無力で情けない。

「体を冷やさないようにな。」

それだけ言うと元来た道を歩いた。


何も言わず俺と一緒に着いてきた幸生に質問をぶつけた。

「お前、自分を犠牲みたいにしてひかりに告白させるきっかけ作ったのか?」

幸生が俺にも残ってほしいと言い、ひかりに好きな人がいるか訊いた時、わざわざ目配せした理由なんてそのくらいしか思いつかなかった。だけどそれは何となく気に入らなかった。ひかりに告白させる為に自分の気持ちをさも代償みたいにするなんて。

けれど幸生は「ハハっ」と笑い「俺がそんな良い奴なわけないだろ。好きな人がその好きな人に振られて僅かでも『よかった』なんて思ったんだぞ。」と軽く言った。重い顔をしながら。

「それより夜一、男子の風呂の時間そろそろ終わるがいいのか?」

...あっ。



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