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「とりあえずみんな来たから泳ぐか。」
海雪のその言葉に俺も賛同し一足先にプールに入る。さっきから素っ気ない態度ではあったが内心かなり動揺している。なんというか見てるこっちまで気恥ずかしい気持ちになるのでそれを誤魔化す為にプールに体を入れる。が、
「プールと言ったら夏の代名詞ですけど、この時期の温水プールというのも気持ちいいですね。」
後ろには膝をつき手で水を遊ばせるあかりがいた。これではまるで誤魔化せない。「ん、あぁ、うん......」とお茶を濁したような返事をしていると「んっ...んっ、んしょ...」と何だか変な声が聞こえる。わかってる。あの腰の布を取ってるだけ。だから何も動揺することなんてない。
「あ、あの夜一さん//あの、ちょっとこっち来てもらっていいですか//。」
嫌な予感がしつつも無視なんて俺には出来るわけもなく振り返る。
「どうしてそうなった......」
多分解こうとして失敗したのはわかる。それで収集がつかなくなったのでしょう。けれどもなぜ半分脱げた状態でいるのか。そしてそれを俺に解くのを手伝えと申すのですか?こんなん勘違いしても全くしょうがないでしょ?
折角入った水から出てあかりのところに寄る。
「箱入り娘かお前は。」
「あはは、確かにそうですね。」
おっとこれはまたも地雷を踏み抜きましたね夜一君。そうだよ、あかりは幼少期学校以外は監禁生活送ってたじゃんか。何なの、アホなの?アホだよね?アホだな。……あの痕のひかりと同じ家に育ったのなら……あかりもなのか。
一瞬黙ってあかりの体を見る。
「そう言えば、ひかりちゃんの背中、酷い火傷の痕がありました。あれを人に見せるのはすごい勇気が必要だったでしょうね。」
「いつまでも気にしてるわけにもいかないってさ。ほんと俺もあの強さを見習いたいものだな。」
「私も同じです。私も未だに妹の事を忘れずにいます。ひかりちゃんのあの痕もしかしたら、なんて考えてしまいます。この頃は本当に妹なんかいたのかなって、夢だったんじゃないかって思い始めてしまってます。前に戸籍を確認した事もあったんですけど、そこに妹の名前はありませんでした。」
それは...辛いだろうな。簡単な気持ちで同情なんかして欲しくないかもしれないけど、ついそう思ってしまう。だからせめて
「俺はあかりに何かしてあげられるほど大層な人じゃないけど、ずっと側にいるから。少しでも支えになれるように、どんな小さな悲鳴も聞き逃さないように。」
「それは......告白、ですか?」
やめろその上目遣い。思わず「あっはい。」って言ってまうところやったやん。
でも......ほんと、ここでかっこよく決められるようになりたいものだな。でもそれはできないし、それができない理由だって......。そう、だから今は思った事を素直に言うだけ。
「全然この布解けないんですけどー!?」
ですけどぉー...
ですけどぉー...
Is this chiken? No. This is クソ.
それから何とかその布を取った(時々あかりの太ももに手が触れたりして『んっ//』とか言った時はヤバかったけど)。その後はみんなで泳いだり、バレーボールをしたり、時期外れのスイカ割りなんかもした。とても楽しくて気がつけばだいぶお昼を過ぎてたので、着替えて庭に出てBBQをした。どこで買ってんだんだか全く見たことのない高級そうな肉を喰らいながら、浴びるように茶を飲んだ。まさに肉食系男子。
「野菜も食べなよ。」
「あっはい......。」
Is he nikusyoku-kei? No. he is アホ.
その後も銭湯入って卓球して大型モニターでゲームして。最早アミューズメントパークと言って差し支えないほど。けれど流石に遊びすぎてしまったのか、何だか、眠気が、急に......。
どのくらいの時間が経ったのだろう。目を覚ますと月明かり照らす部屋の中にいた。けれど部屋の中には本を片手に楽しそうに笑う海雪がいた。
「全く、睡眠薬飲んでるのに暫くピンピンしてるから驚いたぞ。薬の効果切れんのもめっちゃ早いし。半日は寝るのにものの1時間くらいで起きるとか、これもオセとかの改造のおかげか?それなら一番弟子のloserとやらは30分くらいで動けるのかもな。」
やーっと本題に入れるのか。こいつが友達の頼みなんかでプールを貸したりするわけが無い。そんなの何年もこいつと付き合いがあれば嫌でもわかる。
「篝から聞いたのか?」
多分そうだろうなと思いつつも質問する。
「おう。あの子はほんと健気だな。『兄貴を助ける為に』っていう体があれば何でも話してくれるよ。ブラコンってやつか?」
ハハハッと楽しそうに笑う。とはいえこんなことでわざわざ怒らない。俺だってもう子供じゃない。溜息を1つ吐き、早速本題を話すように伝える。すると海雪は至極真面目な顔でこう言った。
「他の人には聞かれたくなくてな、2人きりで話したかった。......いきなりで戸惑うだろうが単刀直入に言う。結婚してくれ。」




