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「長かった、長すぎた。これでもだいぶ掻い摘んで話したけど多分全部語ってたら小説1本くらい書けちゃいますな。はいじゃあ良い子のみんなは寝る時間だよー。」
語り終えた時には時刻は既に1時ごろを指しており正直俺も眠い。明日も学校なんだからいい加減寝ないと。だからみんなそんな何か言いたげな目線はやめて欲しいんだよね。何を言いたいのかは何となくわかるけどさ。
それから少し強引にみんなを部屋から追い出し布団を被った。そしたらまあ案の定、またも夢の中に勝手に入ってきますよ。
「ずっと俺が生きてるみたいにさせておいて文句のひとつも言わせないとかふざけんな。」
懐かしいこの冷たい対応。あれからもう4年も経つのか。ほんとに分からないもんなんだな。自分で自分が怖くなる。
「一体何をどう間違えたらあんなジジイと俺が重なるんだよ。」
翁の冷たい時のバージョンとそっくりなんだよな。あんまり翁が冷たくなることはなかったけど。鉋も翁みたいに笑えば良かったのに。思い返せば遺影も証明写真かよって感じだったし。振り返って見れば鉋はもういないってすぐ分かったんだけど、無意識のうちに振り返りたくなかったんだろうな。
「将迷惑なやつだよな。みんなどんだけお前に気を遣ってたか。しっかり謝っとけよ。」
ほんとにそうだな。ずっと俺の演技に付き合ってくれてたようなもんだもんな。暫くは頭が上がらないや。
「そういやお前泣かなくていいのか?豆腐で硝子なチキンのハートがお前の自虐ネタだろ?」
これが自分の本心と思うと尚のこと悲しい。夢では嘘はつけないからね。
「ま、不幸中の幸い俺は鉋とそこまで仲良くなかったからな。悲しくないとは言わないけどってレベル。中学の頃のみんなの事も、今でもめちゃくちゃ悲しい事だけど、でも後悔はないかな。」
「はっ、生意気な。」
「鉋。」
「あ?」
「今迄ごめんな。」
「だからとっくに俺はいねぇっての。バカが。」
翌朝、いつもより早く起きれた俺は部屋を出て、かつて鉋が住んでいた部屋の扉を開ける。部屋の中には鉋がいた頃と同じように少し汚い。けれどこの部屋はなんだかぽっかり穴が空いたようだった。もういないと気づいてしまったからだろうか。
そんな静寂の中足音が聞こえた。振り返ると実に不機嫌そうな妹の姿があった。
「まだ隠してる事、早く話して。」
そう言うとまるでボクサーのように拳を構え小さくジャンプし始める。真面目な顔で「シュッシュ」言っているところが妹ながら可愛らしい。
「確信持ってる辺りに心当たりがあるんだろうな。どこまで知ってる?」
「あんまり知らない。......でも良くないのは知ってる。」
そう言うと俺の胸を、心臓を軽く叩く。オセに蹴られ、伸紘に撃たれ、loserに刺されそうになり、事あるごとに痛くなる、俺の脆すぎる心臓。
大きなため息をし、髪をボサボサした後、ジトっとした目で篝を見る。
「......どこでそれを知ったんだ?あんまり吹聴した覚えはないんだが。」
「海雪さんに、シンガポール連れて行ってもらった時に色々と話し合ったの。でも勝手な言い分だけど海雪さんを責めないでほしい。じゃなきゃ文化祭の時、わたし一人じゃどうにも出来なかったと思うから。」
確かにあの時助けてもらったんだからそう易々と責められるものでもないよな。あいつもそんなたくさんの人に言い触らすようなことはしないだろうが。
とりあえずこれ以上は誰にも言わせないよう篝にお願いして結局いつも通りの時間に朝食を取り、学校に出向いた。
「ねぇねぇお兄さん。ちょっとだけ、いい?」
学校に着くと純粋に気持ち悪い顔で幸生がそんな事を言ってきた。言うまでもなく無視したが休み時間には留まらず授業中、最後にはトイレにまで視線を感じたあたりで俺の心が折れた。
「何だよ一体?あと1歩で犯罪者だぞ?」
「女子高生の水着、欲しくありません?」
「警備員さんこいつです。」
「この前先の事を海雪の旦那に相談したら『何なら俺の家にある屋内プール使うか?』って言ってくださいやして。今度の休み何かいかがです?あの仲のいいメンツで行きましょうや。」
そんなの行くわけがないしあいつらにも行かせる気は甚だない。勿論てめぇもな。そして何より絶対ひかりには行かせるつもりはない。理由は勿論背中の火傷だ。あれを人前に晒すのは何よりも嫌なことだろう。けれど1人だけプールに行けないなんてなれば、ひかりはきっと笑顔で見送ってその後1人悲しむ。そのくらい容易に想像できる。だから悪いが遊びには参加できないし、それをひかりに伝えもさせない。
それをどう言おうか考えていた時もう1人が揃った。
「別に金取るなんて言ってないんだから来いよ。どうせ暇だろ?それにお前夏休みの時、幸生をプールに連れていくみたいな話してたんだからちゃんと責任持てよ。」
なんてあからさまに来るように幸生に加担。これ絶対なんか良からぬ事考えてるだろ。まぁ例えどんな事を言われても俺の意思は固い。ひかりを守るという大義名分がある限り。
「絶対に行かない。」