転生したのは。
異世界転生。転生事情も色々ありますよね。
ここは、魔王と勇者のいる世界のダンジョンの中。そこには伝説の魔剣が封印されてて、
あたしはその魔剣に転生した。
何故死んだのか、どうして転生したのか、そんなことはもう覚えてない。時間もわからないから転生してからどれくらいたったのかもわからない。
でも、伝説の魔剣に転生したことは覚えている。違うかな?
たぶん、わかってるっていうほうが正しい。
伝説の魔剣は、ある魔王を倒すために絶対に必要な武器なの。だから、その魔王は魔剣を封印した。それだけじゃ安心できなくて、部下の魔女に見張らせた。それでも足りなくて、台座は壊したら呪われるなんて噂も流した。
そこまで徹底して守られてる魔剣に、あたしは転生したの。
転生したときは前世のこととか覚えてたんだと思うんだけど、頭に情報が一気に流れ込んできて、気がついたら前世のことは半分以上思い出せなくなってた。
代わりに、魔剣の力とか、魔剣が封印されるに至った経緯とか、そんなことばっかり思い出せるようになってたってわけよ。
まあ、それも過去の話なんだけどね。
いつだったかなぁ。見張りの魔女が冒険者にやられちゃったんだよね。
当然、その冒険者は魔剣の封印を解き、魔剣を手に入れようとした。
でもそれは叶わない。
異世界転生ものが好きだった友達に進められて、あたしはその手の小説をいくつも読んだ。そのことは覚えてたんだけど、魔剣に転生っていうのはなかった。つまり、何の役にも立たなかった。
でも、あたしは考えた。そして、一つの結論を導き出したのよ。
どうせなら、美青年に使ってもらいたい。
ってことで、魔女を倒した男は不細工男だったので拒否ったのよ。
魔剣には座標固定とかいう能力があったから、それを使って抜かれないようにしたわけ。男のほうもかなり粘ってたんだけど、まあこっちは能力発動させてただけだし、男が諦めるしかなかったってわけ。
でも、問題はその後だった。
座標固定の能力には使用制限があったみたいで、男との戦いで使い切っちゃった。
魔女が倒されたから、魔剣を手に入れようとする冒険者が毎日のようにやって来るようになっちゃって。なんとか全身に力を入れて頑張るんだけど、休む暇もなく来るから大変。
しかも、来るのは不細工男ばっかり。
冒険者が来ないときは来ないときで魔物が近寄って来ようとするから、魔よけの効果を発揮してなくちゃいけないから、休めないし。
魔剣って言ってもね、睡眠は必要なんだよ。魔よけの力使うのにも体力使うし、冒険者に抜かれないようにするのも体力使うし。
そしたらある日、美少年が来たの!
ちょっと若すぎるけど、成長を側で見守るのもいいかもって思って、力を抜いて待ってたんだけど。
魔剣が抜けずに帰っちゃったの。
それからもたまに美少年が現れるんだけど、みんな魔剣を抜けずに帰っていくの。もしかして、あたしが力を入れなくても抜けないのかと思ったけど、おじさん相手に力抜いてたら簡単に抜かれそうになって、あの時は焦ったなぁ。
あと変わったところで、念動力を使って抜こうとする冒険者がいた。まあ、気がついた時点で魔よけの力あを使えば防げるからいいんだけど。見えないところからやってるから、顔見れなくて残念。まあ、陰からやるのなんて根暗な人だと思うけど。
もう、一生ここにいてもいいかな。なんて思い始めてはいるけど、美青年を諦めたわけじゃない。
でも今日はもう寝ようかな。久しぶりに回想してたら疲れちゃった。
ここ最近は冒険者も来ないし、寝てても、大丈夫、だと思う……。
「抜くよ?」
ふと掴まれた感覚がして、あたしは目を覚ました。
掴んでいるのは、少女だった。
もうこの子でいいかな。不細工男よりよっぽどマシだ。
「えいっ!」
少女が勢いよく魔剣を引き抜く。魔剣は何の抵抗もなく抜けた。
あまりに抵抗がなさすぎて、勢い余った少女が後ろに倒れる。あたしはとっさに周りの時間の進みが遅くなる力を発動した。
少女がゆっくり後ろに倒れていく。本人の感覚も遅くなってるから本人は気づいてないと思うけど。
本来ならすぐに転んでしまうところを、ゆっくりと少女は倒れていく。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
ちょっと遅くしすぎたみたい。
力を調節して、少女が怪我をしないような速度で、転ばせる。
「あれ? 痛くない?」
しりもちをついた少女は、痛みがないことを不思議がりながら立ち上がった。
あたしはしっかりと少女の手に握られてる。
「大丈夫?」
「うん。平気」
「意外と簡単に抜けたね」
「ほんと、びっくりしちゃった」
あたしを持った少女と、その連れの少女は、話をしながら歩き出した。
ダンジョンの出口が見えてきた。ここから、あたしの新たな人生が始まるのね。
あたしは、魔王を倒すのに使われた伝説の魔剣として、後世に語り継がれるのね。
……微妙。
でも、ここだけの話ね、あたしにはまだ使える力が残ってるの。その力を使えばもっとすごいことだって出来るんだから。
『いいえ。もう十分よ』
声はあたしの中から聞こえた。
『あなたは選定者。もう用事はないわ』
どういうこと?
『解放してあげる』
その言葉が力かのように、あたしの意識は薄れ始めた。どうして。今までこんなに頑張って来たのに。こんなことになるなんて。
あたしにはまだ魔王を倒した伝説の魔剣になる役目が残ってるのに!
意識があったのはそこまでだった。
転生したのは
と対になってる部分があります。が、一話完結なので知らなくても大丈夫だと思います。