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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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83:実践での治癒魔法とサリーンの嫉妬

 アリアが神殿に来て半年が経つ頃には大まかな教育は終わり、実地での練習が増えてきた。

 この日は神殿に常駐する騎士隊の訓練中の怪我の手当てを行うと言う内容だ。

 神殿の警備はカーネラル王国の第四騎士隊と武装神官と呼ばれる者達が行っている。

 武装神官は神殿の兵士と言っていい。

 主に神殿外部と要人警護は第四騎士隊が行い、神殿内部を武装神官が対応する形となっている。


 アリアは訓練場の片隅でハンナ、サリーン、フィンラルらと一緒に訓練の様子を眺めている。

 じっとしているのが苦手なアリアは体を動かしている騎士達が少し羨ましく見えた。

 どさくさに紛れようかと思った。


「アリア様、大人しくしていないとダメですよ」


 アリアの心を読んだのか動く前にハンナが釘を刺す。


「やだなー、ハンナ。変な事はしないよ」


「一応、言っておかないと何処かへ走って行きそうな予感がしましたので」


 アリアは何故、バレたのかと思った。


「アリア、迷惑になるからダメですよ」


 やんわりサリーンからも注意される。


「聖女様はお転婆ですからね。二人がいると頼もしくて良いですね」


 フィンラルはお転婆なアリアを御するにはサリーンとハンナを上手く使わないと無理だと言う事が分かってきた。

 ある意味怖い物知らずのアリアをフィンラルだけでは止められないのだ。

 フィンラル自身、アリアとの鬼ごっこはこれ以上勘弁して欲しいと思っていた。


「みんな酷い……私の事をどう思っているのさ……」


 アリアは一人で地面にのの字を書いて拗ねていると一人の騎士がやって来た。


「すみません。怪我人が出て治療をお願いしたい……聖女様?」


 騎士は蹲って地面にひたすら拗ねてのの字を書いているアリアを見て首を傾げる。


「少々、お待ち下さい。アリア様、お仕事ですよ」


 アリアはハッとなり立ち上げる。


「怪我人は何処?」


「こ、こちらです」


 いきなり仕事モードに切り替わるアリアに騎士は少し戸惑うがアリアをすぐに怪我をしている騎士の所へ案内する。

 そこには腹部に手を押さえて座り込んでいる騎士がいた。

 状況を聞くと鎧の隙間に訓練用の剣が直撃したらしい。

 訓練用の剣なので刃は潰してあるが当たり所が悪ければ骨折ぐらいは十分有り得る。


「手当てしますので、手を退かして貰っても良いですか?」


「はい」


 騎士が手を退かすとアリアは手を翳す。


治癒(ヒーリング)


 アリアの手から淡い青い光が発生し、騎士の怪我した箇所を包み込む。

 暫くすると光が収まる。


「痛みはありますか?」


 怪我をしていた騎士は胴体を捻ったりしながら調子を確認する。


「痛みも無いので大丈夫です。聖女様、ありがとうございます」


「いえいえ」


 アリアは少しこそばゆい感じをしながらその場を後にする。

 神殿に来て半年が経ったが聖女様と呼ばれる事に慣れない。


「どうですか?」


 戻るとサリーンが調子を聞いてきた。


「怪我なら大体問題無いかな。切断とかになるとサリーンさんには敵わないな」


 サリーンの治癒魔法の特性は結合で四肢切断で切断先が残っていれば完全に元通りに治療出来るのだ。


「サリーンさん、来月試験なのに私と一緒にいて良いの?」


「それなら大丈夫です。夜にしっかり勉強していますから。実技は既に合格扱いなので余裕です」


 他の神官見習いに聞かれたら怒られそうな台詞だ。

 見習いから神官へ上がるのに必死になっている人間が多いのだから。


「油断していると足元掬われますよ」


 フィンラルがサリーンを窘める。


「決して侮っている訳ではありません。アリアの世話をしながら勉強する方が有意義なだけです。実技も一緒にやれますから」


 見習いの神官は実技の機会が非常に限られている。

 その為、アリアの実技に交じってこそっとやる事が出来るのだ。

 そのアドバンテージは見習いにとっては非常に大きい。


「サリーンさん、次に怪我人が出たらやる?」


「えぇ、お言葉に甘えてやらせて貰います」


 訓練が終盤に近づくとアリア達に声が掛かる頻度が増えてきた。

 治療しなければいけない人数が多くなるとサリーン、フィンラルも手伝いに入る。

 サリーンにとっては絶好の経験値を稼ぐ機会だった。


治癒光(ヒーリング・ライト)



 アリアは広範囲の治癒魔法を使用する。

 神殿に来る前は使えなかったが、使える者に教えてもらい最近、習得したのだ。

 淡い光が怪我人に降り注ぐとたちまち怪我が治っていく。

 サリーンはその光景を見ながら歯痒い思いをしていた。

 重症を治癒出来るのに簡単な怪我だとアリアに劣る事が悔しかったのだ。

 元々、治癒魔法の適正のあったのは自分なのにアリアが聖女で自分が見習いの神官だと言う事がどうしても納得が出来なかった。


 サリーンは怪我している騎士を順番に癒していく。

 アリアに負けない治癒の力を身に付ける為に。


 訓練の後半は怪我人だらけだった。

 神殿の騎士は多少の怪我なら治癒してもらえると分かっているので無茶をする人間が多いのだ。

 アリア達は騎士達にひたすら治癒魔法で怪我を治していく。

 終わる頃になるとアリアはへとへとになっていた。


「……疲れた」


「……そうですね。もう少し加減と言う事を覚えて欲しいです」


 サリーンも神殿の騎士達の無茶には呆れるしか無かった。


「神殿の騎士はだから強いんですよ。とは言ってもヴェニス自体は治安が良いから活躍する事はあんまり無いのですけどね」


 神殿の騎士がこの様な無茶な訓練をする様になったのはリアーナが原因である。

 合同訓練の時にいつでも治療してもらえるからと言って甘えるな!と檄を飛ばされ扱かれたからだ。

 神殿の騎士達が頑張る様になってからはそれをダシにして他の隊に発破を掛けるのだ。

 騎士の間ではリアーナが担当する訓練は訓練と呼ばず地獄と呼ばれている。

 当の本人はこの程度で地獄とは片腹痛いわ、と言っているとかいないとか。


「そうなんだ。神殿にいる騎士は凄いんだね」


 アリアはフィンラルの説明に関心する。


「皆様、お水をお持ちしましたのでどうぞ」


 訓練場の隅で座り込んでいる三人にハンナが一人ずつに水筒を渡す。

 ハンナはアリアが練習中は怪我人の誘導等を行っている。

 一応、補佐もしているのだ。


「ふぅ……何か一息吐けた感じがする」


「そうですね」


 水を飲んで体を休める三人。

 治癒魔法を使いながら訓練場を走り回ったので疲労はかなり溜まっていた。

 当然、魔力も消費している。

 ただアリアは魔力に関してはあんまり減った感じはしていなかった。

 実は保有している魔力量が異常に多いのだ。

 あんまり周りから訝しげに見られない様にする為に疲れていなくても疲れた様に装っていた。


 アリアが使用している治癒光(ヒーリング・ライト)だが、実は非常に燃費の悪い治癒魔法で、一気に複数の人を治療出来るが、魔力消費量は普通の治癒(ヒーリング)の十倍以上消費するのだ。

 一日に何回も使えばあっと言う間に魔力が底を尽きる。

 この魔法の使用者が少ないのは圧倒的に魔力消費が大きくて敬遠されているからだ。


 そして治癒魔法の効力もアリアは制限している。

 重症患者を治癒する事は可能だが緊急事態で無ければ使わないつもりだった。

 アリアは聖女の義務より自分自身を守る事を優先していた。

 なので治癒の光を青色で止めており、緑色の光の治癒はほとんど行っていない。


 当然だがアリアの特性については誰にも教えていない。

 こんな特性を知られたら異端審問に掛けられかねないからだ。

 リアーナからも厳しく口止めされている。


 一休憩が終わったアリア達はアリアの自室へ戻っていった。

 これからやるのは今日の行った実践の反省会だ。

 治療は迅速に対処する必要があるので何度も訓練し、欠点を洗い出して、次回の訓練では同じミスを行わない様に注意しながら訓練を重ねる事により、緊急事態でも迅速に動ける様になるのだ。

 既に陽が沈み始めている。

 反省会は夜遅くまで続いた。




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