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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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82:ヒルデガルドとの出会い

 アリアは神殿の裏手の茂みに潜んでいた。

 ある程度してから建物から脱出するとずっと木の上を移動していたのだ。

 木の上はアリアの独壇場である。

 ハンナでさえ追い付く事は出来ない。


 離れた所で木から下りて茂みの中を抜ける。

 アリアは茂みから顔を出すとそこには黒髪の女性がいた。


「あ」


 アリアは一瞬、神官に見つかったかと思った。

 だがよくよく見るとその女性は布を敷いてお茶を飲んでいた。


「あら、兎さんよりも可愛い方が出てこられましたね。そんな所で立ってるならこちらに座りませんか?」


 のんびりとして口調で話しかけられたので追い掛けてきた神官達とは違うとアリアは判断し、茂みから抜け出す。


「あ、座る前に頭に付いている木の葉は払った方が良いですよ」


 アリアは慌てて頭を手で払い木の葉を落とす。


「私、何か変?」


 ニコニコと見ている女性を不思議に思った。


「いいえ、お茶でも飲みますか?」


 アリアはその女性の隣に腰を下ろす。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます……」


 アリアはお茶を受け取り、一口啜る。


「これはクッキーでお茶請けですので、食べても良いですよ。私はヒルデガルド・オーデンスと申します。あなたは?」


 ヒルデガルドは名乗りながらクッキーの入っている籠をアリアとの間に置く。


「……アリア。アリア・ベルンノット……。オーデンス?教皇様と一緒の姓?」


 アリアはヒルデガルドの姓に聞き覚えがあった。


「はい。アナスタシア・オーデンスは私の母になります」


 よくよく法衣を見るとラインが金色な事に気が付いたアリアは相手が司教だと分かり、失礼な事をしたと思い謝る。


「し、司教様だ……たのですか。ごめんなさい」


「聖女様、お顔を上げて下さい。何かされたのですか?」


 アリアはヒルデガルドは自分の事に気が付いた事には驚いたが、都合の悪い質問をされ目を逸らし口を尖らす。


「ハゲじじいに悪戯して逃げてきた」


 ヒルデガルドはあらまぁ、と言う感じで驚いた様な顔をした。

 そして該当人物が誰なのかを考えた。


「もしかしてボーデン枢機卿の事ですか?」


 アリアは素直に首を縦に振り頷く。


「因みにどんな悪戯をしたのですか?」


「……今日は頭にゴキブリをたくさん投げつけた」


 悪戯の余りの酷さにヒルデガルドは唖然とした。

 世にも恐ろしい悪戯を実行した物だと思うのと同時にそれをどう調達したのか気になったが、聞かない事にした。


「それでここに逃げてきたのですか?」


「うん。あのハゲじじいは私のお世話をしてくれるハンナさんをいつも馬鹿にするから」


「今日はしつこく追ってきたから気付いたらここに出てきた」


「聖女様はお転婆さんなのですね」


「そう言われるの何か嫌。それと聖女様じゃなくてアリアでいい。聖女なんかなりたくてなった訳じゃないし」



「アリアちゃんはここでの生活は嫌ですか?」


「嫌。貧しくはないけど居心地が悪い。人を見下してる人ばかり。何でもそれが当然だみたいな言い方でムカつく。それに部屋からは勝手に出ると怒られるし……」


 アリアはボーデンの所為で鬱憤が物凄く溜まっていた。

 それを悪戯でストレスの発散をしていたのだ。

 ヒルデガルドはアリアの口元にまでクッキーを持っていく。


「折角の可愛い顔が台無しですよ。クッキー美味しいですよ」


 アリアはそれを受け取りおずおずと食べ始める。


「司教様はここにいても大丈夫なの?」


「私は仕事の休憩です。私の部下は私が休憩を取らないと休憩を取らないんですよ。それだと身体を壊してしまうので、適当なタイミング休憩を取ってるんです。私の事はヒルダで良いですよ」


「……ヒルダさん?」


「よく出来ました」


 ヒルデガルドに頭を撫でられ、アリアは少しリアーナの事を思い出した。

 リアーナはアリアが辛い時に頭を必ず撫でてくれた。

 不思議とこうされると心が落ち着いてくる。


「ん……」


「もし辛い事があったら私の所までお茶でも飲みに来て下さい」


「何か……教皇様みたい……」


 アリアは少しアナスタシアとヒルデガルドの姿が重なって見えた。


「母……ですか?」


「うん、教皇様も同じ事を言ってた。でも忙しいから行くと迷惑になりそうだから……」


 アリアはこう言いつつもボーデンの授業から逃げている時、アナスタシアの執務室へ避難している事が多かった。

 ボーデンがアリアを必死に探している時に当の本人はアナスタシアとお菓子を摘みにのんびりお茶をしていたのだ。

 アリアを探しているボーデンが知ったら腹立たしい事この上ないだろう。


「いいの?」


「えぇ、いつでも来て下さい。でも悪戯はダメですよ」


 ヒルデガルドに悪戯を注意され少ししょんぼりするアリア。


「一緒にボーデン枢機卿に謝りに行きましょう?流石にその悪戯はやりすぎです」


 ヒルデガルドがその悪戯をやられたら絶対許さない自信がある程、酷い悪戯だと思った。

 ボーデンから目の仇にされているので必要以上に関わりたく無いと思ってはいるが、教育上ちゃんと謝らせた方が良いと思ったのだ。


「……うん」


 アリアは嫌々ながら頷いた。

 そしてヒルデガルドに手を繋ぎながらボーデンの執務室へと向かった。

 ヒルデガルドは扉をノックする。


「ヒルデガルドです。少しご相談があり参りました」


『入れ』


「失礼します」


 ヒルデガルドとアリアはボーデンの執務室へと入る。


「珍しいな。何か金額にでも問題があったか?」


 ボーデンは書類に目を通しながらヒルデガルドを見ずに聞く。

 彼女の業務は専ら会計監査の様な仕事なので大抵、お金の事で問い合せに来る事がほとんどなのだ。


「いえ、聖女様がボーデン枢機卿に謝りたいと言う事で参りました」


 ボーデンはヒルデガルドの言葉に書類を見るのを止めると、ヒルデガルドの横には少ししょんぼりと肩を落としたアリアがいた。

 アリアはヒルデガルドに背中を押されて前に出る。


「ごめんなさい!」


 アリアは腰を直角に曲げて頭を下げる。

 あれだけ目の仇にされていたボーデンはここまで素直にアリアが謝る事に驚いた。


「気にするな。私も大人げ無かった。侍女には悪かったと伝えておいてくれ」


 ボーデンの思いの外、素直な言葉にアリアは驚いた。


「お互いいがみ合うのもこれまでにしよう。喧嘩両成敗だな」


 何故、ボーデンがここまで素直なのかと言うと、あの後に教皇からこってり絞られ側近からも苦言を言われたからだった。

 あの悪戯は許せる物では無かったが、最初の対応は大人げ無かったのも事実だったのと、聖女と諍いが多いのは何かと風聞が悪い。


「……本当にごめんなさい」


「だから良いと言っておろう。少し休憩でもするから二人とも茶でも付き合え」


 アリアは予想外の展開にヒルデガルドを見る。


「さ、一緒にお茶を頂きましょう。ボーデン枢機卿、それではお茶を入れますね?」


「あぁ、頼む」


 アリアとボーデンはソファーに座る。

 今までボーデンとは落ち着いて話した事が無かったので、何を話した良いか今一分からなかった。

 ヒルデガルドはお茶を人数分入れてテーブルに並べてソファーへと座る。


「まぁ、菓子もあるから適当に摘むが良い」


 ボーデンは皿に菓子を適当に取り出す。


「こうしてボーデン枢機卿とお茶を囲むのは初めてですね」


「まぁ、そうだな。派閥が違うとどうしてもな」


 二人は納得した様な顔をしながらお茶を飲む。


「派閥が違うとダメなんですか?」


「主張が真っ向から違う者同士が仲良くしているのはあんまり外聞がよくないからな。現在、アルスメリア神教は二つの派閥がある。一つの派閥は私が率いるアルスメリア様が至高の種族として人間を産み落としたと言う説に基づく物だ。もう一つはアナスタシア猊下が率いるアルスメリア様の下では種族関係無く平等と言う考え方だ」


 アリアはアナスタシアとリアーナから聞いた話を思い出していた。

 ヒルデガルドはボーデンが両方の派閥の説明をちゃんとしている事に内心感嘆した。


「私は特にどっちと言っている訳ではありませんが、母が教皇猊下なので必然と母側になってます」


 ヒルデガルドは公にはどちらに付くとも公言していないのだ。

 本心としてはアナスタシアと同じ主張を支持したいが、対立を激化させるだけだと思い、敢えて中立を唱えている。

 アナスタシアの娘を言う立場上、どうしてもそちら側として扱われてしまうのだが。


「そうは言ってもお前を旗頭にしようと考えている連中はたくさんいるだろう?」


「確かにいらっしゃいますが、派閥の旗頭になるつもりはありません。神殿内での争いを激化させる様な真似はしませんよ」


 ボーデンの質問にさらっと流すヒルデガルド。


「個人的な三十になる前に神殿をやめるつもりでいるので」


「何故だ?」


 ボーデンにとっては予想外の発言だった。

 教皇を目指す事は無くてもずっと神殿にいると思っていたからだ。


「そんな大した理由では無いですよ。将来、鍛冶屋をやろうと思いまして」


 余りにも予想外な回答にボーデンだけではなくアリアも目を剥く。


「鍛冶屋は男の職場だろう?その年から弟子入りしたら大変では無いか?弟子入り先もそうそう無いだろう」


 鍛冶屋は基本、男の職場なので女性が入る事は好まれない。

 更に三十歳ぐらい弟子になると一人前になるまでにかなりの歳になってしまう。


「そこに関しては余り問題は無いですね。学院時代から懇意にしている鍛冶屋に既に半分弟子入りしてますので。それにこの街の鍛冶屋の大将とも仲が良いので休みの日には色々と教えてもらってますし」


 現在、ヴェニスに並ぶ高価な武器の半分はヒルデガルドの作品だったりする。

 装飾に凝った物は貴族が買っていき、性能にこだわった物は冒険者に買われていく。

 銘は自分の名前を文字ってヒールデネスとなっている。

 ヒールデネスの作品となるとかなりの高値で取引される。


「ヒルダさんって、変わってるんだね……」


「私もこんな人間だとは思わなんだな……」


 予想外過ぎて驚きを通り越して呆れる二人。


「現にヴェニスの武器屋さんには私の作った作品が並んでますよ」


「既に販売済み!?」


 ヒルデガルドは既に一人前を認められているのだ。

 ヴェニスの鍛冶屋の大将は師匠と弟子と言う関係では無く、共に切磋琢磨するライバル関係だったりする。


「アナスタシア猊下は知っているのか?」


「最初は反対してましたが、もう諦められました」


 笑いながら話すヒルデガルド。


「自分の娘だったら泣きたくなるな」


「そうだね」


 何故か意気投合しているアリアとボーデン。

 仲が非常に微妙な三人のお茶会は予想外の方向で盛り上がりを見せるのだった。




ヒルダ「やっと私の出番です!!」


アリア「でもほとんど閑話と一緒だから言う程じゃない様な……」


ヒ「……」(いじけて床にのの字を書く)


ア「ヒルダさん、きっと他にも出番があるから!」


ヒ「……」


ア「ちゃんと追加の話もあるし!」


ヒ「……」


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