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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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81:アリアの小さな逆襲

 アリアは自室で正座をさせられていた。

 ハンナのモフモフから現実へ戻ってきたアリアはハンナに有無を言わさず正座をさせられた為だ。

 アリア自身も何故こうなったか理由は分かっており深く反省していた。

 怒りに任せボーデンならまだしもマイリアやハンナにまで怒鳴り散らしてしまったのだから。


「……ごめんなさい」


 アリアは反省の意を込めて二人に大人しく謝罪した。


「まぁ、今回のはどう見てもボーデン枢機卿に問題があるのですが、あの方は思想があれですから……」


 マイリアは反省しているアリアを見て叱る気になれなかった。

 それよりも問題はボーデンの方だった。


「獣人に対する差別へ珍しくはありませんから」


 ハンナは特に気にしていない素振りで答える。


「でも定期的にこの様な事が起こっては困ります。向こうが悪くてもここではあなたが悪くなる可能性が高いですから」


「何それ!?そんな理不尽なの酷いよ!」


 アリアはハンナが悪くないのに悪者にされると聞いて声を荒げる。


「困った事にこれは神教に根付く根が深い問題なんです。一つ提案なのですが、ボーデン枢機卿の授業の時は私の仕事の手伝いをしませんか?」


「私がですか?」


「はい。一時的にアリアの傍を離れるのが不安だと言うのは分かりますが、毎度あの様な諍いが起こっては後々大変な事になる可能性が高いので」


 ハンナは悩んだ。

 護衛と言う役目がある以上、アリアの傍を迂闊に離れる訳には行かないのだ。

 しかし、ボーデンに毎度因縁を付けられ悪目立ちするのもアリアにとって大きなマイナスだと言う事も分かっていた。


「アリア様……」


 ハンナはアリアを見る。


「仕方が無いよ。あのハゲじじいの時は大人しく寝てるから」


 堂々とした居眠り宣言と枢機卿のハゲじじい呼ばわりに呆れるハンナとマイリアだった。


「マイリア様、それではボーデン枢機卿の授業がある時はお手伝いをさせて頂けますか?」


「えぇ、大丈夫ですよ。次の授業からお願いします」


「はい。ありがとうございます」


 マイリアはこれでほとぼりが収まれば良いと考えていたが、そうはならなかった。




 二日後のボーデンの授業がある日、ハンナはマイリアの執務室の隣にある書庫で書類整理の手伝いをしていた。

 ここなら他の神教の者が入ってきても見られる事も無い。

 何より忙しくて全く整理整頓が出来ていなかった書庫を片付けられる事もあってマイリアにとって一石二鳥だった。

 一気に片付かなくても徐々に片付いていけば良いと思っていた。

 マイリアは隣で書類整理をしているハンナを横目に黙々と執務をこなしていた。

 突然、マイリアの執務室の扉が乱暴に開け放たれた。


「マイリア!アリアが来なかったか!?」


 いきなり入ってきたのはボーデンだった。

 マイリアは人の執務室に大声で入ってきて何様のつもりかと思いながらボーデンを見ると何処か様子がおかしい。

 何故か全身びしょぬれだった。


「ボーデン枢機卿、こんな晴れの日に水浴びですか?」


 そんな馬鹿な事はしないだろうが、一応聞いてみるマイリア。


「誰がそんな事をするか!」


「それではどうしたのですか?」


「アリアにやられたんだ!」


「は?」


 マイリアは要領を得ない返事をする。

 ボーデンは怒りを抑えながら事情を話し始める。


 いつも通りボーデンは授業をしようとアリアの自室へ向かっていた。

 ボーデンも評判を気にして聖女であるアリアと仲違いは避けたかった。

 前回の言い争いの噂が既に神殿内に広まっており火消しが大変だったからだ。

 ボーデン自身ももう少し我慢をしなければならないと思っていた。

 そう思いアリアの自室へ入ると突如、顔に水が飛んできたのだ。

 どうやらドアを開けた瞬間に扉を開けた人間に水を浴びせる仕組みになっていた様で、ボーデンは見事に引っ掛かりびしょぬれになってしまったのだ。

 そんな罠を仕掛けた本人はそんなボーデンを見て大笑いして窓から逃げていったそうだ。


「はぁ……」


 マイリアはボーデンの話を聞いて溜息を吐きながら頭が痛くなった。

 アリアがこんな事をするとは思っていなかったのだ。

 先日の口振りからして相当根に持っていたのだろうと考えた。


「ちょっと待って下さい。胃薬を先に飲ませて貰えますか」


 マイリアは机から白い錠剤は入ったビンを取り出す。


「すまん。私にも貰えるか?」


 びしょぬれのボーデンが少し気の毒だったので服を乾かす事にした。

 政敵ではあるが濡れ鼠にしておくのは流石に気が引けた。


「その前に乾風(ドライ・ブリーズ)


 ボーデンの周囲を限定して少し暖かい風を起こす。

 マイリアはこれでも火と風の適正持ちなのだ。

 風が収まるとボーデンの服は綺麗に乾いていた。


「すまん……助かった」


 珍しくボーデンはマイリアに頭を下げた。

 胃薬もボーデンに二錠程渡す。

 二人はそのまま胃薬を飲む。


「アリアは私の方で探しておきます。それと彼女も前回の件でかなり怒っているのでちゃんと仲直りして下さい」


「そんなの分かっておるわ。邪魔をしたな」


 痛い所を指摘された所為か鼻息を荒くして部屋から出て行くボーデン。

 マイリアは立ち去るボーデンを見送りながら面倒な事になったと頭を抱えた。


「マイリア様、本当にすみません」


 書庫から出てきたハンナが申し訳無さそうに頭を下げる。


「過去にこう言う事って、ありましたか?」


「アリア様は調子に乗ると悪戯が続く可能性があります。それで幾度となくマイリーン様にお仕置きをされていましたから」


 マイリアはこの状況が続く可能性があると分かり余計に頭が痛くなってきた。


「それにアリア様が本気で走って逃げたら追い付くのはかなり困難です」


「そんなに大変なの?」


 マイリアは子供を追いかけるぐらいだったら何とかなるのでは、と思い首を傾げた。


「よく考えて下さい。アリア様の部屋を。ボーデン枢機卿がアリア様は窓から逃げたと言った事を」


 マイリアはアリアの部屋があるのは神殿の二階だと言うのに気が付いた。


「ま、まさか……そんな事は無いわよね?」


 ハンナは首を横に振る。


「アリア様は普通に普通の邸宅の二階程度の高さなら飛び下ります。木の上に登ったら最後、誰も追い付けなくなります。アリア様は木の枝を飛び移りながら地上と同じ速さで動きます」


 マイリアは机に突っ伏した。

 今日は既に仕事を放棄したい気分に陥っていた。


「……どれだけお転婆なのですか……」


 とんでもないじゃじゃ馬が来たと思い、これ以上勘弁して欲しいと言う気持ちが一杯だった。


「体力もかなりありまして全力疾走で一時間ぐらいは平気で走られます。私も幾度と無くアリア様に振り回された事か……」


 ハンナはアリアに無理矢理付き合わされた鬼ごっこを思い出した。


「厄介極まりないですね。因みに一番、酷い悪戯はなんでしたか?」


 興味本位でマイリアは聞いてみる。


「マイリーン様のお仕置きが一番厳しかったのは教科書にゴキブリの屍骸を挟んだのですね。ボーデン枢機卿にやられた悪戯もありますし、お茶を飲もうとすると雷でビリッとするのとかですかね」


 どれも碌な悪戯ではないと思ったマイリアだった。


「そんな悪戯がボーデン枢機卿にひたすら降り掛かる可能性があると?」


「可能性は高いと思います。アリア様自身、かなり執念深いので」


 マイリアは考えた。

 諦めて教皇へ丸投げしようと。

 もう自分の手に負えないと判断した。


「アナスタシア猊下に相談しますが、よろしいですか?」


「お任せ致します。私が注意をしてもきっと隙を見て悪戯を仕掛けると思いますので」


 ハンナの予想ではマイリーンの時より悪戯が酷くなる予感がしていた。

 マイリーンの時は面白いからでやっていたが、今回は相手を懲らしめる為にやっている。

 アリアはかなりのチャレンジャーなのでどんどん不安になっていくハンナだった。




 アリアは小さな厚紙で出来た箱を持ちながら食堂の裏手に来ていた。

 とある虫を生け捕りにする為にこっそり部屋から抜け出したのだ。

 生ごみが落ちている所にその生き物は普通にいた。

 普通の人なら素手で掴むのには抵抗が大きいそれを迷わず素手捕まえて箱の中に放り込んでいく。

 その箱は簡単に入れるが中の虫が勝手に出てこない様な仕掛けになっている。


 何故、アリアはこんな事をしているのかと言うとボーデンに仕掛ける悪戯の準備の為だ。

 何度か自室に悪戯を仕掛けたら悪戯を仕掛けられない様に毎回部屋が変わる様になった。

 そんな訳で投擲するだけで抜群の効果が得られる悪戯の仕込みをしているのだ。


 おおよそ十匹程捕まえた所で中身が出てこない様に箱を紐でしっかり縛って懐に仕舞い込む。

 アリアはこれで次の授業が楽しみだとほくそ笑んだ。




 その日のボーデンの授業はアリアの部屋から少し離れた余り使われていない部屋だった。

 偶々空いている部屋が無く、少し埃っぽいが悪戯をされるよりマシだと思い、ボーデンはこの部屋を選んだ。

 アリアはボーデンを油断させる為、一ヶ月程悪戯を一切行わなかった。

 ボーデンもアリアが大人しくなりほっとしていた。


 アリアは椅子に座り宣誓書を広げる。

 ボーデンも大人しいアリアを見て安堵して授業を始めようとし、荷物から宣誓書を取り出そうとし後ろを向く。

 アリアは懐から例の箱を取り出し、紐を静かに外す。

 そしてボーデンがアリアの方を向いた瞬間、箱の蓋を開けて、箱ごとボーデンの顔を目掛けて投げ付ける。


「な、何を……ギャアアアアアアァァァァァ!!!!!!!」


 一瞬、箱を投げられた事に怒りそうになったボーデンだったが、箱から出てきた黒い物体を目にして悲鳴を上げる。


「アーハッハッハッハッハッハ!!」


 アリアはその様子を見て大声でケタケタ笑う。

 すぐ様、部屋を抜け出して逃亡を図る。

 アリアとすれ違いでボーデンの悲鳴を聞いて部屋へ一人の神官が飛び込んできた。


「どうされましたか!?」


「アリアを追えぇぇぇっ!!!!」


 ボーデンは大声で叫んだ。

 そしてアリアとボーデン、巻き込まれた神官達との鬼ごっこが一時間も続いた。

 ボーデンと神官は結局アリアを見つける事が出来なかった。



マイリーン「アリア様」


アリア「……」


マ「あれ程悪戯をしてはダメと言ったのをお忘れですか?」


ア「あれはもう事項だよ!」


マ「関係ありません。それではお仕置きの時間です」


ア「た、助けて!?ヒルダさんも見てないで!!」


ヒルダ「あれはアリアちゃんの自業自得です。次は久しぶりの私が登場です!」


ア「それより助けて!!」


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