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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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78:神殿への旅立ちとサリーンとの再会

 アリアは馬車に揺られながら王都を眺めていた。

 一年と言う短い期間の滞在だったが、短い割に王都から離れるのが名残惜しかった。


 お別れパーティーから一月が経ち、神殿のあるヴェニスへとこれから向かう。

 馬車の中にはアリアに侍女のハンナ、護衛のミレル、神官兼教育係のマイリーンの四人だ。

 出発の時、リアーナ邸にはアリアを送り出す為、色んな人が集まった。

 ベルンノット侯爵家の面々は勿論の事、王家からはヴィクトルが代表して来ていた。

 たくさんの人に見送られる事に喜びを覚えアリアは笑顔でリアーナ邸を後にした。


 唯一、心残りだったのがその場にリアーナがいなかった事だ。

 本来ならアリアを見送ってから王宮での業務に就く筈だったのだが、急な任務で前日から王都を離れなければならなかった。

 アリアはかなり肩を落としたがリアーナが忙しい身なのは十分理解していた。

 少し寂しい思いはあるが、会えない訳ではないし、リアーナは会いに来るとも言っていたので、それまでの辛抱だと思い、頑張ろうと思うアリアだった。


 王都ドルナードからアルスメリア神教の神殿があるヴェニスまでは馬車でおおよそ九日で着く距離だ。

 ヴェニスにある神殿は千年以上前から存在するとされており、神殿を中心にして出来た街で、住人のほとんどが敬謙なアルスメリア神教の信者だ。

 事実か定かではないが、創世の女神アルスメリアが地上に下りた時にヴァースが初めて踏んだ地とされており、神殿はその地に建てられたとされている。。

 その為、ヴェニスは聖地と崇められており、毎年多くの信者が巡礼に訪れる。


 アリアは今回の旅路は孤児院を離れる時に比べると寂しくは感じていなかった。

 今回は侍女のハンナがそのままアリアと共に行くのが大きい。

 それに加えて馬車に乗っているのはこれまで一緒に過ごしてきたマイリーンによく世話を焼いてくれたミレルがいるのだ。

 ここにリアーナがいないのは残念なのだが、少し旅行気分の馬車旅だった。


 ヴェニスへ着くとすぐに神殿へ向かう事になっていた。

 神殿の前に馬車が止まると大勢の信者が周りを取り囲んでいた。

 街では聖女なる少女がヴェニスに来ると言う噂が既に広まっていたのだ。

 信者は一目でも聖女を拝もうと神殿の周りに集まっていたのだ。


「アリア様、馬車の中で少しお待ち下さい。外が大変混乱しておりますので、一度、神殿の者と話をしてきます」


 マイリーンが馬車から降りていった。

 馬車の外の騒がしさにアリアは困惑していた。

 信者にとって聖女がどの様な意味を持つかしっかり理解出来ていなかったからだ。


 暫くするとマイリーンが馬車へ戻ってきた。


「アリア様、案内の神官が来ましたので行きましょう」


 アリアは頷きハンナに手を取られて馬車を降りると周りは大きな喧騒に包まれた。

 周囲は神官によって信者がある一定以上近づけない様にされているが、その人々から向けられる視線に圧倒された。

 人によってはアリアが馬車から降りた瞬間に祈りを捧げる者までいた。


 アリアの前にかなり老齢の神教の法衣を着た男性が現れた。


「聖女様、私は神殿で大司教を務めておりますマードックと申します。戸惑いがあるかもしれませんが、こちらへどうぞ」


 アリアはマードックに促されて神殿へと案内される。

 神殿は山の中腹に建立されており、長い階段を上ると神殿の入り口が見えてきた。

 そして神殿の中へ入るとマードックが口を開いた。


「聖女様、突然の騒ぎで驚かれたでしょう?」


「……はい」


 聖女様と呼ばれるのに違和感を覚えながらも頷く。


「信者の者達は聖女様の再来を心待ちにしておりました。聖女様は信者の者達からすれば心の拠り所なのです」


 アリア自身、聖女に相応しい人間と思っていない為、複雑な気持ちだった。


「まずは教皇であるアナスタシア猊下にお会いして頂きます」


 それから神殿の中を十分程進むと一つの部屋の前でマードックが足を止め、扉をノックした。


「アナスタシア猊下、聖女アリア様をお連れしました」


『入りなさい』


 マードックに促されて部屋へ入ると今まであった神教の法衣とは違う一際装飾が多い法衣に身を包んだ四十代後半であろうか、それなりに齢を重ねた女性がいた。

 その傍には護衛と思わしき騎士が二人、神教の神官と思われる男女がいた。


「どうぞそちらへ」


 女性の言葉に従いアリアは女性の向かいの椅子へ腰を掛ける。

 マイリーン、ハンナ、ミレルの三人はアリアの後ろに控える


「アリア、初めまして。アルスメリア神教の信者を導く教皇のアナスタシア・オーデンスです」


 アリアはアナスタシアに先に名乗らせてしまいしまったと焦った。

 通常であれば下の者から名乗らなければいけないのだ。


「あ、アリア・ベルンノットです」


 アリアは緊張していたので、少し自己紹介がぎこちなくなってしまった。


「この度、あなたを聖女として迎え入れられた事をアルスメリア神教の信者を代表して大変嬉しく思っております」


 教皇の恭しい言葉に困惑した。

 アリアは今までこの様な言葉を貰う事が無かった。


「一年程は神殿で色んな事を学んで頂き、公務は来年から少しずつ行って頂きたいと考えております。こちらでの事に関しては先程、こちらに案内した大司教のマードックから説明させますので、後程お時間を頂きたいと思います」


 マードックはアリアへ深々と頭を下げた。

 アリアも合わせて何となく頭を下げる。


「傍付きには一名の神官と見習いの神官を付けます。その者に関しては別途、マードックの方から紹介に上がります。リアーナ卿から聞いたお話ではそちらの侍女の方がアリア様のお世話をなさる方でしょうか?」


「はい。私の侍女のハンナです」


 アリアがハンナを紹介し、ハンナは深々と頭を下げる。


「分かりました。あなたにはアリアの傍付きの見習いに神殿の事を説明させる様にします。明日、少し私から話がありますので時間を貰う事になりますので、覚えておいて下さい。後々、色々とあるでしょうからこちらの二人を紹介しておきたいと思います」


 アナスタシアの横にいる二人の神教の法衣を着た男女が前に出る。


「神教の枢機卿をしておりますボーデン・カナリスです。聖女様、良しなにお願いします」


 少し恰幅のある体に薄くなった髪の毛が特徴のボーデンを見て、昔、孤児院に行商に来た意地の悪い商人を思い出した。


「同じく枢機卿の地位を賜っておりますマイリア・ベルデンと申します」


 痩せ身でキツく鋭い目をしたマイリーンより年上の女性でアリアは少し怖いと思ってしまった。


「この二人は私の補佐役として神教内の事を取り仕切っておりますので、何かあれば気軽に申し付けて構いません」


 アリアはそんな偉い人に何か申し付けるなんてとんでもないと思った。


「マードック、後は委細任せましたよ」


「畏まりました」


 それからマードックに案内され、アリアがこれから住む事になる自室へとやってきた。

 あの緊張する空間から開放され、ほっと息を吐く。


「こちらが聖女様のお部屋となります」


 部屋へ入るとリアーナの屋敷程では無いがかなり広い部屋だった。

 調度品もそれなりに高そうな物が置かれており予想以上に豪華な部屋だった。

 風呂もトイレも全て部屋に備え付けでここで全ての生活が出来そうなぐらいだ。

 入ってすぐ隣にある小さな部屋が従者用の部屋でハンナはそこを使う事になった。


「以前のお住まいに比べれば大したお部屋をご用意出来ず申し訳ございません」


「そ、そんな事無いですよ。こんなに立派な部屋を用意して頂いてありがとうございます」


 アリアはすぐに感謝の言葉を述べる。

 この部屋でも広すぎるぐらいだった。


「アリア様のお世話をする者をご紹介します。こちらへ参れ」


 マードックに促され二人の男女がアリアの部屋に入ってくる。

 一人はまだ若い青年、もう一人はアリアがよく知る人物だった。


「この神殿で神官を務めておりますフィンラル・カートと申します。何でもお申し付け下さい」


「まだ未熟者ですが、神官見習いのサリーン・ボネットです」


 アリアより先に神殿に行ったサリーンがそこにいたのだ。

 驚きを隠せないアリアにマードックは笑顔になる。


「聖女様が寂しいと思いまして同郷であるサリーンを傍仕えと致しました。本日は長旅でお疲れでしょう。フィンラル、少しが用事あるので来なさい。サリーン、聖女様の事を頼んだぞ」


「畏まりました」


 マードックはフィンラルを連れて部屋から出て行くとアリアはサリーンに飛び付いた。


「サリーンさん!」


「久しぶりですね、アリア。あ、聖女様って呼んだ方が良いですか?」


 サリーンは悪戯っぽく言うとアリアは頬を膨らませた。


「そんな呼び方嫌だよ。じゃ、私もボネットさんって、呼ぶ」


 お互いじっと見つめあうと二人は笑い出した。


「変わらないですね。元気にしてましたか?」


「うん。サリーンさんも元気そうで良かった」


「シスターは元気?」


 サリーンは神殿に来てから孤児院に手紙を送る事が出来なかったので気になっていたのだ。

 神官見習いの給金では孤児院に手紙を送る事が難しいのだ。


「うん。リアーナさんが色々支援してくれたお陰で孤児院も補修されて食べ物に困る事が無くなったの」


「リアーナ?」


「私の新しいお母さん。ベルンノット家の長女で騎士隊長だよ」


 サリーンはアリアの言葉に一瞬、表情を固くした。


「どうしたの、サリーンさん?」


「何でもないわ。良い人で良かったですね」


 サリーンは何も無い様に取り繕う。

 内心は激しく動揺していた。


「うん」


 満面の笑みを浮かべて答えるアリアにサリーンは何処か仄暗い感情が芽生えた。


「これからは一緒だからよろしくね」


「うん。サリーンさんも一緒に頑張ろうね」


 二人の運命はここから狂い始めた。



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