75:アリアのお別れパーティー開催
朝からリアーナ邸の使用人は朝から大忙しだった。
それはアリアが神殿に行く前のお別れパーティーがリアーナ邸で開かれるからだ。
国王に王妃も来ると言う事でベルンノット侯爵家から応援の使用人を呼んで対応に当たっている。
屋敷の警備に関しても通常十名程で行っているが、今日だけベルンノット侯爵家からの応援に加え、第五騎士隊の有志に王族警護を担当する第一騎士隊も加わりかなり厳重な警備が敷かれている。
ただこれだけ大きく動けば他所に情報が漏れてしまう。
その為リアーナには多数の貴族からパーティーの招待を希望する手紙や面会が殺到していた。
リアーナは一貫してアリアと面識が無い人間は呼ぶつもりは無い、と全て断っていた。
警備担当の騎士には招待状を持っていない人間が来た場合はどんな貴族でも追い返す様に指示していた。
指示を守れなかった場合はリアーナと一対一の模擬戦をする名誉をやろう、と言う脅し付きだ。
リアーナとの模擬戦は誰もが避けたいので警備に当たる騎士にとっては死活問題である。
アリアはと言うと朝から侍女のハンナ、メイドのレミーラに付き添われ朝から自室の浴室で夜のパーティーに向けて念入りに磨かれていた。
普段は大浴場でみんな一緒に入っているのだがこの日は自室でハンナとレミーラに甲斐甲斐しくマッサージやら髪の手入れや爪、肌の手入れ等を念入りにされている。
アリアはこの様な経験が全く無いので戸惑いしか無い。
ハンナとレミーラからは大人しく諦めて下さい、と言われるだけだったので諦めの境地に至っていた。
「パーティーに出るのって、大変なんだね」
アリアはベッドで横になりオイルを体に塗り込まれながら言った。
「そうですよ。それにアリア様がパーティーに出るのは初めてなのでリアーナ様の気合の入り方がいつもより違いますから」
レミーラは嬉しそうにアリアの太ももをほぐしながらオイルを塗り込んでいく。
「レミーラさん、何でそんなに嬉しそうなの?」
「それは私にとってアリア様は大事な妹の様な存在ですから」
「確かにレミーラさんはお姉ちゃんって、感じがするかも」
アリアはレミーラが百歳を越えている事は知らない。
一般的に成人のエルフを見た場合に人間の常識として年を聞かずとも年上と思えと言うのがある。
エルフは寿命が人間の十倍以上もあるので百歳と言ってもかなり若い。
エルフの国に行けば千歳を越える者もいるぐらいなのだ。
「それに初めてのパーティーで主賓となれば綺麗なお姿で出て欲しいと思っているからです。ハンナもそうですよね?」
レミーラは反対の足を担当しているハンナに言った。
「はい。当然です。なので私達もいつも以上に気合が入っております。料理長のダントはアリア様がお好きなハンバーグを色んな種類作ると言っておりましたよ」
「本当!?」
アリアはハンバーグが大好きだった。
ここに来るまでは食べた事が無い料理だったのだが、初めて食べた時はがっつく様に食べていてマイリーンからははしたないと注意されながらもハンバーグの味に感動していた。
それから定期的にハンバーグが出る様になり、アリアは食事の楽しみが増えた。
「はい。なので頑張りましょうね」
「うん!」
ハンバーグで頑張れるアリアはちょっと残念な気はしないでもないが、レミーラもハンナもそんなアリアが可愛いのだ。
「さ、もっと磨きますよ」
アリアは磨かれ過ぎて少し疲れてしまうのだった。
夜になるとアリアは普段とは違い豪華なドレスを身にまとい、自室で待機していた。
普段、着けない様な豪華な装飾品もたくさんして化粧もバッチリだ。
装飾品は新たに買うとアリアが嫌がると言う事でリアーナの装飾品からアリアに似合う物を選んでいた。
リアーナの装飾品はルクレツィアやマグダレーナから貰った物もかなりあるので下手に買うより高価な物がかなりある。
実際、今日アリアが身に着けている親指大のブルーダイヤモンドを中心にサファイヤがいくつもあしらわれたネックレスはかなり高価な物だ。
これはリアーナと婚約したいと思っていた貴族がリアーナの誕生日プレゼントに送った物なのだが、当の本人は親しい人物以外の贈り物は大して大事にしないのでクローゼットの片隅に眠っていた物だった。
リアーナはアリアが身に着けた装飾品は全てアリアに与える形にしていた。
リアーナ自身、装飾品に興味が無いので全く気にしていないのだが、貰うアリアは高価な装飾品に少し申し訳ない気持ちになっていた。
「アリア様、そろそろ玄関へ移動しましょう」
アリアはハンナに促され玄関へと向かった。
そこには既にリアーナが待機していた。
「アリアも来たか。今日は一段と綺麗だな」
「はい。今日は失礼の無い様に頑張ります」
アリアがいつもと違う丁寧な口調で言うとリアーナは残念そうな顔で言った。
「アリアに丁寧な口調で言われると他人行儀で辛い……」
「もうすぐお客さんが来るんだから意識して変えてたんだよ」
「そっちの方が好きだな」
口調が戻るとリアーナ顔が綻ぶ。
「もう……」
困った子供を見る様な目でアリアはリアーナを見た。
そんな事を言っている間に執事のベルナールが一組目の招待客を連れてきた。
「二人とも元気そうだな」
そこにはベルンノット侯爵家一行だった。
「はい、父上。今日はアリアが神殿に行く前に寂しくならない様にと催させた頂きました」
「この度は我が家のパーティーにお越し頂き誠にありがとうございます」
リアーナの言葉の後、淑女らしい礼をするアリア。
「何かアリアちゃんが淑女みたいになってるわ。いつの間にか立派になって」
「母上、アリアはもう立派な私の娘なのですから当然です」
リアーナはアレクシアに誇らしげに言う。
アリアはつい頬を赤らめて恥ずかしがる。
「アリアは本当に可愛いな。目に入れても痛くないぐらいだ」
「全く、父上も母上もまるで孫馬鹿みたいで恥ずかしいので程々になさって下さい」
後ろからパトリックが窘める。
「その通りですよ。他の招待客が来てないから良いですが、他の方が来られていたら恥ずかしいです」
クラウスも同じ様に自らの両親を窘めた。
パトリックとクラウスは性格が似ているので考え方も似ていた。
「パトリックもクラウスもそんなに言ってやるな。今日は知り合いしかいないからそんなに気にしなくても良い。まぁ……陛下が来るぐらいか……」
最後の一言が小声になる。
「リアーナお姉様、アリアちゃん、お久しぶりです」
「クラウディアも元気そうで何よりだ。そちらは?」
クラウディアの横に燃える様な赤い髪に髪の色とは対照的におっとりとした目をした長身の若者がいた。
リアーナは見覚えはあったが、この面子で話を切り出しにくそうなので敢えて紹介を促す様にした。
「リアーナ様、初めまして。私はアーネルベン公爵家の長男でクラウディア嬢と婚約致しましたオリヴァー・アーネルベンと申します」
リアーナは仕事の付き合いで知っているが、社交嫌いのリアーナは余り付き合いを広げようとしなかったので、話すのは初めてだった。
「アーネルベン公爵の子息だったか。ベルンノット侯爵家の長女、第五騎士隊の隊長を務めるリアーナ・ベルンノットだ。こっちが娘のアリアだ」
「初めまして、リアーナ・ベルノットの娘のアリア・ベルンノットです。今日は私のパーティーに来て頂きありがとうございます」
アリアのの立ち振る舞いに表情には出さないが少し驚くクラウディア。
クラウディアがアリアと前にあったのは王都に来たばかりの何処か怯えた様なアリアだったからだ。
「丁寧な挨拶をありがとう。クラウディアと一緒だからこれからもよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
クラウディアはリアーナの方をチラッと見た。
自分の婚約者をリアーナに紹介するのは初めてだったので変な評価をされていないか不安だったのだ。
「オリヴァー殿、クラウディアの事は頼んだぞ。ちょっとそそっかしい所があるかもしれんが末永くな」
「リアーナ様、ありがとうございます」
クラウディアはリアーナから婚約者として認めてもらえた事に安堵した。
「お姉様もアリアちゃんも後程ゆっくりとお話しましょうね」
「あぁ、今日はゆっくり楽しんでくれ」
ベルンノット侯爵家一行はベルナールの案内によりホールへと向かって行った。
そして第五騎士隊の非番組がやってきた。
「リアーナ隊長、この度はお招き頂きありがとうございます」
今日、第五騎士隊で招かれたのはアリアと面識の深いミレルと副隊長のイライザだ。
イライザは剣の腕ではミレルに劣るが隊の指揮、策謀等の知略に優れた才能の持ち主だ。
騎士では珍しくモノクルを掛けているのが特徴だ。
「アリアちゃん、元気にしてた?」
二人の姿にアリアは笑顔になる。
これは偏にミレルのお菓子による餌付けの成果であろう。
ミレルは甘い物が好きで王都の菓子店を知り尽くしており、遊びに来る度に美味しいお菓子を持ってくるのだ。
アリアはすっかりお菓子の虜にされていた。
「イライザさんもミレルさんも今日はありがとうございます」
「二人ともゆっくりしていってくれ」
ミレルとイライザは奥へ消えていき、他の来客の挨拶を順番に済ませていく
そこへ執事のアレクがやってきてリアーナに耳打ちをした。
「分かった。アリア、陛下が来られた」
アリアは背筋をピンと伸ばす。
玄関の扉が開くとカーネラル王家一行が来た。




