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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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74:遅かれ早かれ決まっていた事

新しい連載『日本に戻ってきたエルフさんのまったり探訪記』を始めましたのでこちらの方も宜しくお願い致します。

あんまりファンタジー感は薄めでのんびりした感じで週一更新で進める予定です。

 アリアはこの日、珍しくリアーナに執務室へ呼び出された。

 既にアリアが屋敷に来てから十ヶ月が経とうとしていた。

 アリアは屋敷の住人として違和感無く過ごしており、ここの生活に充足感を得ていた。

 執務室の扉をノックする。


「アリアです」


 扉は開かれてエマがアリアを奥へと案内する。


「そこへ座って話そうか」


 神妙な面持ちのリアーナ、応接用のソファーにはマイリーンが既に腰を掛けていた。


「今日はアリアに大事な話があって呼んだ」


 リアーナの言葉にアリアに緊張が走る。

 執務室に呼び出されて話がある時は重要な事を伝える時。

 これはリアーナがアリアを甘やかしてしまわない様にする為の気持ちの切り替えだったりする。


「三ヵ月後、アリアが神殿に行く事になった」


 アリアはやっぱりと思った。

 元々、ここにいるのは一年でその後は神殿に行く事になっていたのだから。

 なのでアリアは特に驚く事は無かった。


「驚かないんだな」


「うん。そろそろかなと思っていたから」


「そうか。一応、ハンナを同伴させる了承は取った。傍付きの神官についてだが本当はマイリーン殿にお願いしたかったのだが、向こうから強く拒否されたよ」


 ハンナの同伴についてはほぼ強引に取り付けた。

 認めないならリアーナ自身が騎士隊をやめてでも付いて行くと迫ったからだ。

 それには流石の神教の関係者も退かざるを得なかった。


「なんでマイリーンさんだとダメなの?」


 アリアはマイリーンがダメな理由が分からなかった。


「マイリーン殿はアリアを守る為にここに来てから神教の者とは一切、接触してなかったんだ。寧ろ接触を拒否していたと言うのが正しいだろう。その所為でマイリーン殿の評価が著しく悪い状態なのだ。これは私がマイリーン殿に無理を言った所為だ。すまない」


 リアーナはマイリーンに頭を下げた。


「いいえ、奥様が私に頭を下げる理由はございません。私自身が望んだ事なのですから」


 マイリーン自身もアリアを守る為にはここにいる間は神教の欲に塗れた者達と会わせたくなかった。


「ありがとう。流石に神教内部の人事権までには口を挟めない。マイリーン殿、もし何かあれば私を頼って欲しい」


「ありがとうございます」


 リアーナはアリアに改めて向き直す。


「私は一緒に行けないが、神殿へ行く道中は第五騎士隊で護衛する事になった。この事に関しては陛下も了承済みだ。ミレルを就けるから安心して欲しい」


 これはリアーナが提案する前に国王が指示した事だった。

 あれ以降も月に一度、王宮でお茶会に呼ばれてアリアは可愛がられていた。

 可愛がられる余り、王太子と婚約してはどうかと言う話まで出る始末。

 それに関してはリアーナが断固拒否した。


「ミレルさんなら安心だね」


 ミレルは第五騎士隊の騎士の中で一番、アリアがお世話になっている人物だ。

 孤児院から王都に来る時に一緒だったのだが、リアーナへの伝令等でよく屋敷に来るので話をする内に心を許す様になっていた。


「ハンナがいるとは言っても不安だったからな。ミレルはまだ若いが腕は確かだからな」


 休日には魔物を狩りに行っているので他の騎士と比べると戦い方に騎士らしさは無いが、実力に関してはBランク上位の腕前を持っている。

 若いながらも第五騎士隊の中で指折りの実力者だ。


「マイリーンさんはどうなるの?」


「まだ辞令は来ておりませんが間違いなくアリア様の教育係からは外されると思います」


 アリアはそれを聞いて肩を落とす。

 マイリーンは厳しい、よく叱られたがそれはアリアが悪い事をしたからだ。

 それはアリア自身よく理解していた。

 出来ればマイリーンと一緒にいたかった。


「……そうなんだ」


「神殿にいるなら会える機会はあると思いますから」


 マイリーンはにっこり笑顔で言った。


「そうだよね。また一緒にお茶しようね」


「はい」


 アリアの顔が明るくなったのを見てマイリーンは心が少し痛かった。

 マイリーンの予想では左遷で遠くに飛ばされる可能性が高いと思っていたからだ。

 聖女に対して上の意向を無視した教育を行ってきた。

 本来なら人間至上主義に染まる様な教育を事前に施す役目があったのだ。

 それを行わず純粋に教養面の教育のみ行い、神教の関係者との連絡を取らずにいたのだ。

 一応、神教へのアリアの教育状況の報告はリアーナから行っているが、向こうからすればマイリーンが行うのが筋だ。

 職務怠慢としか言い様が無い行動を取っているのだからただでは済まされない。


 マイリーンの予想ではカーネラル国外の教会に飛ばされるだろうと考えていた。

 神教の中ではアルスメリア神教の布教が余り進んでいない国への異動は左遷と認識されている。

 その為カーネラル王国の西にあるファルネット貿易連合国は近場では代表的な左遷対象だ。

 獣人の国であるバンガ共和国は過去の確執からアルスメリア神教の教会は一つも無い。

 昔は教会があったが全て国策により破壊され、神教の者は全員国外追放されているからだ。


「でもそうするとレイチェルとは暫くお別れになるんだね……」


 アリアは少し寂しそうな顔をした。

 ここに来て数少ない友人がレイチェルだ。

 最初はお嬢様とお転婆野生児で凸凹コンビみたいな状態だったが、今では大の仲良しになっている。

 そして数少ない同い年の友人だ。

 普段、一緒に勉強している事も多いので暇があれば一緒にいた。


「そうだな。レイチェルも寂しがるな。一応、レイチェルにも私から伝えるつもりだ。それと最後に知り合いを呼んで簡単なパーティーをしようと思う」


「パーティー?」


 アリアは首を傾げた。

 記憶ではパーティーは基本的に参加しないと聞いていたからだ。


「パーティーと言っても社交界で言うパーティーでは無くて親しい知人を呼んでのホームパーティーみたいな物だ。とは言っても陛下にルクレツィア様やマグダレーナ様も来たがっていたから複雑な所だが……」


 リアーナは少し疲れた顔をした。

 何故かと言うとこのパーティーの言い出しっぺが王妃であるルクレツィアだからだ。

 リアーナがアリアが神殿に行く日を決まった、と報告に行った際にアリアが寂しいと行けない、と言いお別れパーティーをやると言い出したのだ。

 その場にいた国王は乗り気で側室のマグダレーナにもすぐに伝わりパーティーを開く羽目になったのだ。


「一応、アリアと面識の無い奴は呼ばないから安心してくれ……すまん、面識の無い人間が来るかもしれん」


 リアーナはふとアリアと面識の無い人物が来る可能性を思い出した。


「どんな人?」


「この国の王太子とその姉妹、平たく言えば王子と王女だ」


 この三人の事を失念していた。

 常々、リアーナに会う度にアリアと会いたいと言って来るのだ。

 特に一番下の王女はアリアに年が近いのとレイチェル仲が良いので、それとなくアリアの事が気になっているのだ。


「リアーナさんにとって嫌な人?」


 アリアはリアーナと仲が悪い人なら会いたくないと思った。


「そうでは無いぞ。王太子のヴィクトル殿下は非常に聡明なお方で私は彼の元婚約者候補だ。例の事があってからは友人としての付き合いだから、そんな邪険する様な人間では無いぞ。あー、もし殿下に気に入られたら婚約とか薦めるのは悪くないな」


 ヴィクトル自身、リアーナが婚約候補に挙がっていたのは二歳の時なので全く記憶に無く、彼にとってリアーナは頼れるお姉さん的なポジションだったりする。


「な、何を言ってるの!?」


 アリアはヴィクトルとの婚約の話が出てきた顔を赤くしながら動揺した。


「いや、アリアが彼と婚約したら早々に聖女を辞めて戻ってこれると思ってな」


 万が一、アリアがヴィクトルと婚約すれば聖女として神殿にいる期間が短くなり、王都住まいになる可能性が高いからだ。

 これはリアーナにとっては非常に都合が良い話だった。


「会った事が無い人を好きになるか分からないし、次期の国王と言う事は結婚したら王妃いなるんだよね?」


 王太子だから当然、次期国王と言う事になる。


「うむ、そうだな。アリアが王妃になったら私が毎日仕事で一緒にいられるな」


 リアーナは悪くないと思った。


「そうか。それなら合法的にリアーナさんと一緒にいれるもんね」


 アリアも満更で無さそうだ。


「お二人ともヴィクトル殿下がきっと気の毒な事になるのでお止め下さい」


 やんわりマイリーンが二人を窘める。


「そう言えばその人は婚約者はいないの?」


 ふとアリアは不思議に思った。

 次期国王なら婚約者がいると思ったからだ。


「それがな。色々あってヴィクトル殿下には婚約者はいない。まず私だ」


 リアーナは少し申し訳無さそうに言った。


「彼が学院に通っている頃に婚約者が決まったのだが、その婚約者の親が不正を働き爵位を剥奪され、婚約が無くなってしまったのだ。私が言うのも何だが女運が悪いと言うか何と言うか……」


 アリアとマイリーンは純粋にヴィクトルに同情した。

 マイリーンはヴィクトルに婚約者がいない事は知っていたが、まさかそんな事情があったとは知らなかったのだ。


「学院時代、仲が良いと噂されたヒルデガルド嬢も卒業するなり神殿へ戻ってしまったから何ともな……。私としても殿下には早く婚約者を見つけて欲しいと思っているよ」


 ヴィクトルの婚約者の話しが進むに連れて徐々に空気が重たくなってきた。


「奥様、パーティーの出席者の話を」


 マイリーンはこのままの流れでは脱線してどんどん暗い話になるので無理矢理話を元に戻す。


「あぁ、すまん、そうだったな」


 リアーナもつい余計な事を長々と喋ってしまったと思い切り替える。


「一応、陛下にルクレツィア様にマグダレーナ様にそこへ連なる王子に王女、後は私の家の者、後はミレルは呼ぼうか」


「ミレル様をそこに呼ぶのですか?」


「何か問題あったか?」


「いえ、ミレル様は国王陛下が来られる様な場にいたら緊張で倒れてしまいませんか?」


 ミレルもマイリーンと同様に貴族では無い。


「大丈夫だろう。マイリーン殿もいるし」


「え、私も出るのですか?」


 マイリーンは国王の出る様な場に出られる身分では無いと思っていたので突然の事に驚きを隠せない。


「当然だろう。アリアのパーティーでマイリーン殿が出ないなんて選択肢は無いぞ」


「マイリーンさんは来ないの?」


 アリアの視線にマイリーンは首を横に振る事は出来なかった。


「はぁ……あ、でもドレスが」


 マイリーンは思い付いたかの様に言った。


「それなら安心すると良い。パーティーまで二ヶ月もあるし、アリアと私のドレスも新調するから一緒に作れば良い。ドレス代は私が持つから安心すると良い」


 マイリーンの退路は既に無かった。

 ここまで言われてしまうと逃げ道は無い。

 そもそも同じ屋敷に住んでいるのに出席しないと言う選択肢はそもそも無かったのだ。


 アリアはと言うと寂しい反面、少し楽しみだった。

 女の子にとってドレスでパーティーに出るのは楽しみなのだ。

 レイチェルの誕生日パーティーは公式には出席していない。

 一応、出席者が帰った後にプレゼントを渡しに行ったのでレイチェル自身は満足気だった。


 これはリアーナがアリアに余計な貴族を接触させたくないと思ったからだ。

 社交界では既に独身のリアーナが聖女候補の子を養子した事は周知されており、それに絡んだ接触が多いのだ。


 こうしてアリアの生活は和やかに進んでいた。



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