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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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73:アリアの告白と治癒魔法の特性

 アリアは窓から差し込む陽の光の眩しさに目が覚めた。

 沈み行く太陽の光は暗がりの部屋ではとても明るかった。

 夕日に照らされ、何処か物憂げな表情のリアーナが目に入った。

 アリアにはその表情がアリア自身が持つ母親像と何故か合致した。

 リアーナもアリアと目が合い、目を覚ました事に気が付いた。


「目が覚めたか?」


「……うん」


 アリアはリアーナの膝枕から起き上がろうとするとリアーナがアリアを膝枕へと戻した。

 少し不可解なリアーナの行動にアリアは首を傾げる。


「もう少し」


 と、リアーナは視線を逸らしながら言ったのを見て思わずアリアは笑ってしまった。


「リアーナさんが甘えてる感じがする」


「そんな気分の時もあるさ。特にアリアといるとな」


 リアーナは猫を可愛がるようにアリアの喉元をゴロゴロとする。

 アリアは猫じゃないけど、と思いながら嫌では無かった。


「アリアはどうしたい?」


「?」


 突然の質問にアリアはハテナマークを浮かべた。


「質問が悪かったかな。聖女になりたいか?」


 リアーナの質問にアリアは体の向きを変えてリアーナから視線を逸らした。

 本音で言えば聖女にはなりたくないと思っていた。

 アリア自身、人々を救済するなんて荷が重いし、そう言う考えを持った事が無い。

 だが母親であるリアーナの立場を失ってまでやりたくないと我儘を言う事も出来なかった。

 リアーナが言った言葉から推測すると地位を捨てて出奔する以外に逃げる方法が無い。

 そんな事をすればリアーナだけでは無く、ベルンノット侯爵家や色んな所に迷惑が掛かる。


「……聖女になるよ」


 アリアが聖女になる、と言葉にするのは初めてだった。

 リアーナがアリアを守りたい様にアリアはリアーナに迷惑を掛けたりしたくなかった。


「良いのか?きっと辛い事が多いと思う」


「……うん。リアーナさんは聖女にならない方が良いと思ってる?」


 アリアの質問にリアーナは悲しげな表情を浮かべた。


「あぁ、私はそう思ってるよ。神教の聖女は常に派閥争いに巻き込まれる。そんな所にアリアを行かせたくは無い」


 神教の派閥に関してはマイリーンにはまだ教えない様にとリアーナが釘を刺していた。

 単純にまだ教えるのには早いと思っていた。

 それに加えてどのタイミングで話すべきか悩んでいた。

 マイリーンからは早めに話しておいた方が良いと進言されていたが、リアーナは決心出来なかった。

 ハンナには詳細を教育済みだ。


「きっと色んな思惑に巻き込まれるに決まっている。アリアがいなくなるのは耐えられない……」


 リアーナは先代の聖女が派閥争いに巻き込まれて暗殺された事を知っている。

 種族融和を謳う教皇派と人間至上主義を掲げるカナリス派の争いは今の教皇になってから激しくなっている。

 その渦中にアリアを投じたくは無かった。


「私が出来る事はやろうと思う」


 アリアはいつもとは違う強い意志を持った目で言った。

 自分の出来る事であればやりたいと考えていた。


「そうか……でも帰りたくなったら何時でも帰ってきて良いんだぞ」


「そう言われると帰ってきたくなっちゃいそう」


 アリアは方向を変えて顔をリアーナのお腹に埋める。


「どうしたんだ?」


「実はずっと黙っていた事があるの……」


 アリアはリアーナに限らず他の者にもずっと黙っていた事があった。


「私がシスターを助けた話、知ってる?」


「あぁ、確か盗賊に村が襲われたと言う話だったな」


 アリアは意を決して口を開いた。


「あの盗賊を殺したの……私なの……」


 リアーナは一瞬、アリアの言っている意味が分からなかった。


「何を言っているんだ……」


「あの襲ってきた人達は私が殺してしまったの」


「どうやって……?」


 いくら運動神経の良いアリアでも盗賊を相手に出来るレベルでは無い。


治癒(ヒーリング)を使ったら黒い光が溢れ出て……その光を浴びたら盗賊の人達が……」


 アリアはその時の光景を思い出すと体が震えた。


治癒(ヒーリング)で人が死ぬだと……?」


 リアーナは色々思案するが当て嵌る言葉が出てこない。

 治癒魔法で人を殺せるなんて事は聞いた事が無かった。


「アリア、この話を誰かにしたか?」


「……初めて話した」


「この話は絶対に他の人にはしてはいけない。絶対だ」


「分かったよ」


 アリアは話している内に徐々に怖くなりリアーナの服を力強く握り締めた。

 リアーナはそっと優しくアリアの背中を撫でた。

 二人は夕食に呼ばれるまでずっとそうしていた。




 翌日、リアーナは仕事では無いが王宮にある書庫へ来ていた。

 理由はアリアが治癒魔法で盗賊を殺してしまった件だ。

 王宮の書庫はある程度の地位にある者には入り口で身分証明をすれば閲覧が可能だ。

 禁書に関しては宝物庫の内にあるので基本的に閲覧が不可能になっている。

 リアーナは治癒魔法に関する文献を片っ端から読んでいく。

 簡単に答えが見つかれば困る事は無い。

 リアーナ自身、魔法に関してはそれ程得意な方では無い。

 精々、身体強化と各属性の初級魔法が使える程度だ。

 余り魔法に関して詳しく無い為、文献を読み進めるのには時間を要した。


 それからリアーナは仕事の合間を見ては文献を読み漁った。

 そして二つの興味深い文献を発見した。

 それは魔法の効果の反転と言う物だった。

 文献に書かれていたのは一般的な身体強化の魔法を相手に付与し、普通であれば強化をするのだが、相手の能力を下げると言った実験だった。

 実験には成功しているが、魔法の付与は相手が拒否すれば弾かれやすい事から現実では使いにくいので実践向きでは無いと結論付けていた。


 これがもし治癒魔法で行ったらどうなるだろうか?

 治癒の反転の効果、つまり傷が広がる効果。

 そしてそれが莫大な治癒魔法で行ったら、とリアーナは考えた。

 それなら説明が付く。


 そしてもう一つの文献、魔法の適正の中に特殊な特性を持つ者が現れる事があると書かれた文献だ。

 過去、治癒魔法を持った者の中に異様に解毒が早い者、四肢切断等での接合が上手くいく者等、ある一部に特化した特性を持つ者もいたと言うのだ。

 アリアもこの様な特殊な特性を持った者だったと考える事が出来るのは無いかと考えた。

 そしてリアーナは実験を行う事にした。




 とある日、リアーナは生きた魔物を捕獲してきた。

 炊事場に動物の解体するスペースがある為、そこへ運び込んだ。

 これは魔物で治癒魔法の実験をする為だ。

 事前にアリアにはリアーナの推測を説明して実験に付き合わせている。

 炊事場にいるのはアリアとリアーナにハンナだけだ。

 エマ、ベルナールは炊事場に他の者が入って来ない様に見張りをしている。

 万が一、他人に知られると問題がある可能性を考慮してだ。


「……それが魔物?」


 アリアは大きな猪の魔物を恐る恐る指しながら聞いた。


「あぁ、これはランドボアと言って非常に食べると美味い魔物だ。一応、麻酔が効いているから当分は身動き出来ないから安心して良い」


 リアーナは素手でランドボアを気絶させ、麻酔を行ったのだ。

 ランドボアは強い魔物では無いので武器だと手加減が難しいのだ。


「今から剣で足を傷つけるからその部分に傷が広がるイメージをしながら治癒(ヒーリング)をして欲しい」


 アリアは静かに頷いた。

 事前に実験の事を聞いていたので心の準備が出来ていた。

 リアーナは剣で足を切り裂くが、ランドボアは麻酔が効いているので反応が無い。

 アリアはランドボアの足の近くに手を翳して傷が広がるイメージを思い浮かべる。


治癒(ヒーリング)


 手から青白い光が浮かび上がったが徐々に黒い光へ変わり始める。

 魔法の光り方は盗賊の時と一緒だった。

 ランドボアの傷が徐々に広がり始めた。


「アリア、一旦止めるんだ」


 アリアはリアーナの言葉に魔法を中断する。

 事前の心構えがあったので平静を保っているが、突然こうなったら混乱していただろう。


「私の予想は当たっていたか……」


 リアーナは少し残念そうな顔をして心臓に近い部分の動脈を切り裂き、ランドボアを吊るして血を抜く。


「これはこのまま置いておけば誰かが処理してくれるだろう。アリア、大丈夫か?」


「うん、平気だよ。今、はっきり分かった。私の治癒魔法が酷く歪んでいるのが。頭の中でスイッチがある感じがした。それを治癒と悪化が切り替わる感じかな」


 アリアは意識して使った瞬間、自分の特性を何故か理解出来た。


「私の特性は悪性なんだと思う。結果を悪い方向にする特性」


 アリアが迷わず解説する事にリアーナは驚いていた。

 今までのアリアなら震えて怖がると思っていた。


「何となく予想していたんだよ。実は昨日、こそっと別の魔法で試したの」


 アリアは屑石を握って空のバケツを持ってきた。


水成(アクア)


 アリアがバケツに生み出した水は酷く濁っており悪臭が漂ってきた。

 イメージしたのは腐った水だ。

 実は普通の魔法使いが魔法で水を生み出しても不衛生な水を作り出せない。


「これを昨日試したのか?」


「うん」


 事前に自分で実験していたのなら納得が出来た。


「ハンナ、この水を急いで始末してくれ。ここを急いで換気する。今日は使わないだろうが、この匂いはちょっとここでは問題だ」


 リアーナの言葉にアリアはしまった、と思った。

 そう、ここは炊事場なのだ。

 不衛生な水を置いておいて良い場所では無い。

 ハンナは懐から白い布を取り出し口と鼻を押さえる様に巻いて、バケツを持って外へ出て行った。

 獣人にはかなりキツイ匂いだったのだ。


「……ごめんなさい」


 アリアは素直に頭を下げた。


「もう少し場所を考えないとな。でも謎が解けて良かった。治癒魔法を唱える時は気を付けないとダメだな。念押しで言うが、この事は他の者に話してはダメだからな」


「うん」


 アリアが元気良く返事を返した。

 アリアは怖いと思う反面、少しこの特性が分かり嬉しかった。

 いざと言う時に自分を守る手段に使えると思ったのだった。




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