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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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71:アリアの出生に関する推測

「アリア、今日は王宮へ行くぞ」


 リアーナは突然、アリアに伝えた。


「え?」


 アリアは思わず間の抜けた声で返事をした。


「実は私と懇意にしている側室のマグダレーナ様からどうしてもアリアが見たいとせがまれてな……今までは断ってきたのだが、マナーが上手になってきたからあんまり無碍にするとここに突撃しかねないからな」


 何処か疲れたかの様に漏らした。

 アリアが来てから既に四ヶ月が経ち、簡単なマナーや作法は大分、身に着けていた。


「マグダレーナ様は昔からよくして頂いていたので断りきれなかったのだ。私の顔を立てると思って一緒に来てくれないか?頼む」


 リアーナはアリアに手を合わせて頼み込む。


「うん。私は良いよ」


 アリアはいつもよくしてくれているリアーナの頼みを断る選択肢は無かった。

 今までこう言う頼み事は無かったので、こんな風にお願いされるのは少し嬉しかった。


「よし。ハンナ、いつもより良いドレスで支度をしてくれ」


「畏まりました」


 アリアはハンナにいつも以上に派手目のドレスと装飾品で飾られていく。

 最初は戸惑っていたが、今では大分慣れていた。

 好んでは着ようとは思わないが、必要であれば致し方無いと割り切る様にしたのだ。

 準備を終えるとリアーナ、ハンナ、エマと共に馬車に乗り王宮へ向った。


 王宮へ着くと側室のいる後宮近くの一室へと案内された。

 そこには一際鮮やかな紫のドレスに身を包んだハニーブロンドの緩やかなウェーブの掛かった長い髪の夫人、白を基調として赤の差し色が入ったドレスが眩い空より少し薄い青い髪を持った夫人、そして一際威厳のある鋭い目付きをした壮年の男性がいた。

 リアーナは非公式と聞いているので簡単な礼を行う。


「陛下、この度をご招待頂きありがとうございます」


「固い礼など良い。そちらの可愛い娘さんを紹介してくれないか?」


「はっ!アリア、こっちへ」


 アリアはリアーナに促され一歩前に出る。

 国王が目の前にいる事を聞いていなかったので内心大慌てなのだが、必死に平静を装う。


「陛下、お初にお目にかかります。アリア・ベルンノットです」


 淑女らしく挨拶をする。

 レイチェルと一緒に教わったマナーを必死に思い出していた。

 日頃の勉強の成果が上手く出ていた。


「私はカーネラル王国の国王、カイル・カーネラルだ。いつもリアーナには助けられてばかりだ」


「勿体無いお言葉です」


「我が正妃のルクレツィアだ」


 国王に紹介を受けて青い髪の夫人が口を開いた。


「ルクレツィア・カーネラルよ。リアーナに養子とは言え娘が出来たのは嬉しいわ。よろしくね」


 ルクレツィアの笑顔にアリアは思わず顔を赤らめた。

 まるで母親の様に見えたのだ。


「そして側室のマグダレーナだ」


「マグダレーナ・カーネラルです。リアーナは昔からよくお話相手になってもらっているの。あなたも王宮に遊びにきて頂戴ね」


「は、はひ!」


 アリアは緊張の余り声がひっくり返ってしまった。


「二人ともこっちに座るが良い」


 国王に促されアリアとリアーナが席へと着く。


「可愛い娘だな。確か孤児であったな」


「はい。アリアはディート近くの孤児院でこれまで育ってきました」


 国王の問いにリアーナがアリアの代わりに答えた。


「アリア、そなたに会って私が気が付いた事がある」


「何でしょうか……?」


 アリアは突然の国王の言葉に困惑する。


「あくまで可能性ではあるが、聖女アメリアの血筋の者では無いかと思ったのだ」


 国王の言葉にアリアだけではなく、リアーナやマグダレーナに驚きが走る。

 ルクレツィアは事前に国王から聞いていたのか平然としている。


「へ、陛下、何故そう思われたのでしょうか?」


「まずアリアの髪と眼の色だ。創世神であるアルスメリア様と一緒の髪の色の人間は過去に聖女アメリアしかおらん。眼の色も聖女アメリアと一緒で黒い。それに王国に残っている聖女アメリアの肖像画と顔が非常によくにておるのだ」


 国王は後ろに控える近衛より一枚の肖像画をテーブルに置かれるとその場にいる者の表情が固まった。

 アリアもまるで自分の顔が肖像画に描かれている様な気分になり驚きを隠せなかった。


「まるで……鏡に映した様にそっくり……」


 聖女アメリアの肖像画で現存している物はカーネラル王国に所蔵されている物だけだった。

 過去に神殿にも肖像画があったのだが、二百年以上前に原因不明の小火で焼失していた。

 他国や市井にも聖女アメリアの肖像画はあるが、精度が低くかなり特徴がバラついている。

 正式に描かせた肖像画は神殿とカーネラル王宮にある二点だけでその内の神殿の物は焼失してしまっているので、神殿は書物や口伝で残った特徴しか分からず、細かな特徴を含めて確認出来るのはカーネラル王国だけなのだ。


「ルドルフからアリアの事を聞いた時は驚いたぞ。そこで過去に見た聖女アメリアの肖像画を思い出したのだ。聖女アメリアの血縁と言う意味ではルクレツィアもそうだがな」


 アリアはルクレツィアの髪を見た。

 同じ青い髪だ。


「私は聖女アメリアの妹の血筋なの。だから治癒の力は持っていないわ。受け継いでいるのは髪の色ぐらいじゃないかしら。それでもアリア程綺麗な色では無いの。この通りかなり色が薄いわ」


 ルクレツィアの髪の色はかなり白に近い青だ。


「陛下はアリアの事をどうお考えなのですか?」


 リアーナはこの話をした意図が知りたかった。

 今日の席は非公式で国王が来ると聞いてなかったのだ。


「どうもせんよ。神教の奴らにアリアを渡すのは癪だが致し方無い。表立って争う訳にも行かんし、お前を敵に回したくも無い」


 国王にとって外交上、神教と対立する訳には行かなかった。

 この大陸のほとんどの国で信仰されている為、下手をすれば民衆の反発を生みかねない。

 リアーナの存在はカーネラルにとっては手放せない戦力だ。

 ランデール王国の戦では一騎当千の活躍をした事はカーネラル国内に留まらず国外へも知れ渡っている。

 そんな彼女を手放すのは軍事力として大きな損失なのだ。


「まぁ、それにしてもあの真面目の偏屈大臣がどこぞの孫大好き爺と化していたのは笑えたがな」


 国王は思い出す様に笑う様子にリアーナは思わず溜息が出て、ルクレツィアとマグダレーナは苦笑した。


「父が失礼致しました」


「気にする必要は無い。私もアリアの様な可愛い孫だったら奴の気持ちも分かる」


 アリアは国王の言葉に恥ずかしくなり顔を赤くする。


「私もこんな可愛い孫なら嬉しいわ。ねぇ?」


「はい、ルクレツィア様」


 ルクレツィアとマグダレーナの追撃に恥ずかしさの余りアリアは俯いてしまう。


「陛下、アリアが恥ずかしさの余り困っておりますので程々にお願いします」


「はっはっはっ、すまんな。それにしてもリアーナが母親とは驚いたぞ。ルドルフも中々面白い事を考える」


 リアーナに窘められると国王の矛先はリアーナへと向いた。


「へ、陛下……」


「私は嬉しいのだよ。そなたが女性としての幸せからどんどん遠ざかっていくのが悲しかったのだ。アリアと仲良くやっているのはルドルフからよく聞いておるぞ。結婚はせずともアリアと一緒に幸せになって欲しいのだよ」


 国王はリアーナの事件について自らに非が無いとは言え、幼いリアーナに起きた事件は決して許せる事では無かった。

 王宮と言う場であの様な忌まわしい事件が起きてしまった事を悔やまなかった事は無い。


「そうよ。昔からあなたを知っているからアリアちゃんを養子にしたと聞いて嬉しかったのよ。毎日、一緒のベッドで寝てるなんて羨ましいわ」


 リアーナとアリア、二人して顔を赤くする。

 そしてリアーナは思わずそんな事を漏らしたのは母であるアレクシアに違いないと察した。

 次にあったらしっかり口止めをしようと心に誓った。


「そうなの?それは私も羨ましいわ。王宮だと乳母に任せるから毎日一緒に寝るなんて夢の様だわ」


 カーネラル王国の王宮では王族は基本的に乳母が世話をし、夜は必ず別々の部屋で寝る事になっている。

 これは王族の襲撃を警戒しての事で一度に複数の王族が狙われない様にする為だ。


「アリアちゃん、リアーナはお母さんとしてしっかりやれてるかしら?」


「え、えっと……よく……分からないです」


 アリアはマグダレーナの質問に困惑し、なんて答えて良いのか分からず下を向いてしまった。

 母親を知らないアリアには答え様が無かった。


「マグダレーナ様、アリアはずっと母親と言う物を知らず育ってきました。母親と言う存在がどの様な物なのか分からないのです」


 アリアの答えに少し不思議そうな顔をしているマグダレーナに対してリアーナが答えた。

 それを聞いたマグダレーナは少し悲しそうな表情を浮かべた。


「アリアちゃん、困る事を聞いてしまったわね……。リアーナは好き?」


「はい。今まで会った人の中で一番優しくて暖かいです」


 まだリアーナと出逢って四ヶ月程しか経っていないが不思議と一緒にいると安らいだ。

 そしてつい頼ってしまいたくなる、そんな気持ちになっていた。


「あら、それは良かったわ。リアーナ、愛されているのね」


「改めてそう言われると……」


 見た目以上に照れ屋なリアーナは言葉に詰まる。


「まぁ、赤くなって。リアーナもそんなに照れなくたって良いじゃない。アリアちゃんの母親はあなたなんだから」


「でも仲が良くて良かったわ。アリアちゃん、これからもリアーナの事をよろしくね」


「はい!」


 リアーナは親戚の中で揶揄われている様な状況に居た堪れなくなってきた。

 しかし、国王のいる席で逃げる訳も行かず、大人しくするしか無かった。


「こう言う反応をするリアーナも初々しくて良いな」


「本当ね」


 国王とルクレツィアはリアーナの反応に微笑ましい笑顔を向けながらリアーナは二十四にもなり授業参観の子供の気分を味わった。

 終始、この調子で話が続き、気が付けば予定の時間を過ぎていた。



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