63:大浴場
アリアは大浴場に入るなり、大浴場の大きさに呆然とし、口が開きっ放しになった。
「元王族の屋敷の事だけはあってとんでもない大浴場なんだよな」
少し自嘲気味にリアーナは言った。
壁から出ている竜の頭の彫刻の口から絶えずお湯が湯船に注ぎ込まれ、湯船の広さは下手な大衆浴場の湯船より大きい。
「私もこの大浴場には驚きました」
「私もこの屋敷を下賜された時に一番驚いたのはこの大浴場だったからな。この屋敷を造った王族のこだわりがよく分かる場所だな」
実際にこの屋敷を建てた王族は大浴場には金に糸目を付けずに造った。
だが余りにも大きい屋敷で王族は基本的に王宮に住む為、この屋敷を使う事はほとんど無かった。
住む人間がいないと建物は直ぐに傷んでくる。
それも有りルドルフは勝手にリアーナに下賜する事を決めたのだ。
王族の建てた屋敷の為、放置する事も出来ず維持に大きな費用が掛かるだけだった。
リアーナはこの屋敷を下賜されたが、建物の維持管理については国の費用で行っている。
リアーナの給料ではこの屋敷を維持出来ない。
負担割合としてはリアーナ三分の一と言った所だ。
リアーナとしては本当は王都のアパートか一軒家を借りて住むつもりだったのだが、この屋敷を下賜された事によってご破算となった。
「アリア、まず体を洗うからな」
アリアはお風呂に入った事が無いのでマナーを知らなかった。
「さ、こっちに座るんだ」
アリアは鏡の前に置かれている椅子に座ると頭からお湯を被せられた。
「ぷはっ!な、何!?」
アリアは突然の事に驚いた。
水では無くお湯だったので暖かかったのだが、ジト目でリアーナを見る。
「そんな目をするな。お風呂に入る前に体を洗わないといけない……ぷはっ!?いきなりお湯を掛けるんじゃない!?」
リアーナの頭にお湯を掛けたのはエマだった。
「はいはい。アリア様を洗ってね。自分だって同じ事をしてるんだから文句言わない」
エマは有無を言わさず石鹸の泡でリアーナの髪を洗っていく。
「……アリア、頭をこっちに。目はしっかり瞑っておかないとダメだぞ。目に沁みて辛いからな」
アリアはぎゅっと目を瞑ると、リアーナは石鹸を泡立ててアリアの髪の毛を丁寧に洗っていく。
「さ、泡を流すからしっかり目を瞑っているんだぞ」
優しき髪の毛を撫でながら泡をお湯で流していく。
リアーナは小さな小瓶に入ったとろみの付いた液体をアリアの髪の毛に馴染ませていく。
「それは何?」
「これか?リンスと言って髪を洗った後にこれを付けてお湯で流すと綺麗な髪になるんだ。アリアの髪なら驚く程綺麗になるぞ」
アリアは仄かに香る花の香りがその液体からしている事に気が付いた。
花の良い匂いに囲まれて少しふわふわして心地良い気分になってきていた。
「さ、もう一回お湯を掛けるからしっかり目を瞑るんだ」
アリアはリンスの香りに気を取られ、慌てて目を瞑った。
リアーナはアリアの髪を上げて湯船に浸からない様にまとめる。
アリアの髪を洗い終わるとリアーナの髪は既にエマの手でまとめられていた。
「次は体を洗うからな。腕を出して」
アリアは大人しく腕を出すとリアーナは石鹸で泡立てた泡を素手でアリアの腕を優しく撫でる様に洗っていく。
ふとアリアはリアーナの体の一部分を見ながら自分の体と違う箇所を見つけ、自分のと交互に見比べた。
「アリア、どうしたんだ?」
リアーナはアリアの体を洗いながらじっと見つめるアリアの視線が気になった。
「私にもじゃもじゃが無い……」
リアーナはアリアの言った言葉の意味が分からず首を傾げる。
マイリーンとエマも不思議そうな顔をする。
「でもリアーナさんには銀色のもじゃもじゃがあるし、マイリーンさんには金色のもじゃもじゃがあるから」
リアーナとマイリーンはアリアが言っている事が何のことか分かり、体を洗う手が止まり思わず顔を赤くした。
「エマさんもあるよ。栗色のもじゃもじゃ」
そしてエマも自分のジャングルの色を指摘され、二人と同じく顔が赤くなった。
その部分は基本髪の毛と一緒なのでリアーナが銀色、マイリーンが金色、エマが栗色だ。
「アリア、それはここ以外で絶対言ってはダメだぞ」
「アリア様、女性として口に出すのはお止め下さい」
アリアはリアーナとマイリーンに注意され咄嗟に手で口を塞いだ。
「ま、徐々に色んな事を覚えていけばいいさ。でもその部分はアリアも女の子だから慎みを持たないといけないぞ」
そんなやり取りがありながら賑やかに体が洗い終わり四人は湯船へと浸かる。
「アリア、お風呂はどうだ?」
「うん、気持ちいい」
「そうか、そうか」
アリアはリアーナの懐に収まりながらお風呂の心地よさに浸っていた。
孤児院では水浴びぐらいしかしないし、風呂自体は金をたくさん持っている貴族か商人ぐらいしか入る機会が無い。
ドルナードの様に公衆浴場がある都市であれば入る機会はあるかもしれないが、公衆浴場がある街は非常に少ない。
公衆浴場がドルナードにあるのはこの屋敷を建てた王族の慈善事業の一つだ。
その王族はよくお忍びで大浴場に来ていたそうな。
「またみんなで入れる?」
アリアは思いの外、みんなで入る風呂が楽しかった。
風呂だとついつい素の自分でいられるから。
所謂、裸の付き合いの効果とも言えよう。
「ここがアリアの家なんだから毎日入れるぞ」
「やった!?リアーナさんありがとう!」
そんな二人の様子にエマが大爆笑し始めた。
「エマ、笑いすぎだ……」
リアーナは大笑いするエマを窘めるが、本人は気にする素振りも無く、残りの二人は不思議そうに見ていた。
「アハハハハ……可笑しい……あのリアーナの顔がデレデレになってるんだもん……アハハハハ」
エマは敬語を使わない事にマイリーンは首を傾げながらどうしてこうなっているのか分からなかった。
「おい、マイリーン殿が呆れて見てるからいい加減にしろ」
「アハハハハ……御免ね、マイリーン様。リアーナとは生まれた時からずっと一緒なの。所謂乳姉妹と言った方が早いかしら?結構、お真面目さんの寂しがり屋だからお風呂場では敬語禁止なのよ」
「う、うるさい!」
真実を語るエマをリアーナは声を上げて止めようとするが、エマはさっとリアーナから距離を取る。
「エマさんはリアーナさんと仲良しなの?」
アリアはリアーナとエマのやり取りを見ながら少しサリーンの事を思い出した。
これから自分にそんな人が出来るか、と思いながら少し羨ましく思った。
「そうよ。可愛いなぁ、アリア様は。私もこんな娘なら養子にしたいわ」
「アリアは私の娘だ。エマも早く子供を作れば良いじゃないか」
リアーナはアリアをぎゅっと抱き締めながらエマから遠ざける。
「そうね。アリア様に付く子が一人前になったら子供を作るつもりよ。三十になる前には一人目を生みたいわ」
エマは既に結婚している。
相手はこの屋敷でコックとして働くマイルズだ。
「休みが欲しい時は言ってくれ。ここに復帰したいなら言ってくれれば何とでもなるから」
「ありがと。でもリアーナも大事な人を見つけて結婚して欲しいんだけどね……」
少し寂しげな表情をしながらエマは漏らした。
「エマ、そこまで気にしなくて良いんだ。今はアリアがいるから大丈夫だから」
リアーナは気にはしていなかったが、リアーナの事情をよく知るエマにとってはそうも言ってられない。
「ま、それでも前に進んだのかな」
エマはアリアを抱えているリアーナを見て思った。
アリアを養子にする話が出てきてからドレスを全く着なかったのがドレスを着る様になったり、アリアの為に必死になっている姿は微笑ましかった。
アリアはリアーナの腕が緩んだ隙を突いて湯船を泳ぎ始めた。
「あ……」
リアーナは少し残念そうな顔し、マイリーンは驚きながらアリアを捕まえる。
「アリア様、お風呂で泳いだらいけませんよ」
マイリーンに注意されてアリアはしゅんとなる。
「少しぐらい良いじゃないか。これだけ広いと泳ぎたくなるだろう」
「奥様、流石に淑女として如何かと……」
マイリーンは少し困った顔をするが、それを見てエマが笑った。
「まぁ、注意出来ないわよね。リアーナもここに来た初日に泳いでいたんだから」
「エマ、私の事だけ言うのは良くないぞ。お前だって泳いでいたじゃないか。それも背泳ぎで」
「五月蝿いわね。こんな大きなお風呂入る機会なんて普通は無いんだから良いじゃない」
マイリーンは良い大人の女性二人の何ともはしたないやり取りに思わず溜息を吐いた。
「アリア様、人のいる所ではあの二人の真似をしては行けませんよ」
マイリーンは結局、二人を反面教師にして注意する事にした。
「む、マイリーン殿、それは誠に遺憾だ」
「まぁまぁ、アリアちゃんも笑っているから良いんじゃない?」
アリアは二人のやり取りが可笑しくてつい笑ってしまった。
二人が大人なのに子供みたいな言い合いをしている事が可笑しかったのだ。
それを見たリアーナは何処か安堵した表情を浮かべる。
ここに来るまでアリアの笑顔は何度か見てはいるが何処か影が差した様な部分があり、こう言う風に楽しそうには笑っている事は一度も無かった。
こんな笑顔が見れるのならみんな集まって風呂に入るのも悪くないと思ったリアーナだった。
ヒルダ「出番が無い上にこのコーナーが無いと本当に出番が無いのですが……」
アリア「そんな事もあるよね」
ヒ「アリアちゃんの過去が少しずつ明らかになってきましたね」
ア「そんな感じでずっと私の過去が続くよ。でも神殿に入ればヒルダさんの出番もあるよ。少しは」
ヒ「本当に少ししか無さそうな予感しかしません」
ア「ヒルダさんは基本お茶のみ仲間だからあんまり重要な所に関わっていないんだよね」
ヒ「後から出てきたマイリーンさんより出番少ないのは流石に切ないです」
ア「噂によると、こことは別に出番が少ない章があるらしいよ」
ヒ「え?それは初耳なのですが……」
ア「そんな事もあるよね」
ヒ「いえ、もっと出番を下さい」
ア「大丈夫・ヒルダさんより出番が無くて我慢している人がいるから」
ヒ「誰でしょう?」
ハンナ「私です」
ヒ「うわ!?いつの間にいたのですか?」
ハ「ずっとおりましたよ。実はヒルダ様の方が戦闘が多いのです。黒ずくめと合成獣防衛戦の二回なのに対してギルドでのテンプレ、魔物討伐、ハンターターム退治、ストラトエイビス戦と私より活躍しています」
ア「あれ?リアーナさんと二人で退治した合成獣は?」
ハ「あれはほとんどリアーナ様が倒してしまわれたのでカウントしておりません」
ア「そう考えるとヒルダさんの方が多いよね。それを言ってしまうと私よりリアーナさんの方が美味しい所を持っていっているんだよね」
ヒ「ハデル戦は美味しいですね。一章の良い所を全部持って行きましたから」
ハ「あれは少し妬けます。リアーナ様は色んな意味で理不尽なので仕方がありませんが」
ア「確かに。リアーナさんはジョーカーだからね。一章で良い所を持って行ったから三章は出番が減るらしい噂も」
ヒ「誰が活躍すんでしょうか?」
ハ「それは三章に入ってからのお楽しみですかね」
ア「その通り。ふと気が付いたけど二章の戦闘シーンって、リアーナさん総取りな気が……」
ヒ・ハ「「あっ!?」」




