62:新たな自宅
アリアはリアーナ達と共に馬車で王都へと向かう。
孤児院のあるディートから王都ドルナードまで二週間の旅程。
今まで孤児院と村の中、精々ディートの街しか行った事が無いアリアにとって馬車から見える風景はとても新鮮だった。
まるで新たな世界へ踏み出したかの様な錯覚を覚えるぐらいに。
その感情は一時的な物で見知らぬ風景が続く内にアリアの心が寂しさで埋っていった。
王都に近づくに連れてアリアは孤児院から遠くに来てしまった事に寂しさで表情を暗くした。
リアーナは少しでも寂しさを紛わせようとあの手この手でアリアに色々と構った。
一瞬、笑顔になるが、暫くすると表情が暗くなり、それにはリアーナ達も心の中で頭を抱えた。
アリアにもリアーナ達が自分の為に色々としてくれる事に嬉しさを感じていたが、どうしても孤児院にいるシスターと子供達の事を考えてしまう。
初めての二週間の馬車旅は慣れない馬車でアリアはぐったりとしていた。
道中、アリアのお尻が痛くならない様にリアーナの膝の上に乗せて抱き抱えられていたのでお尻が痛くなると言う事は無かった。
リアーナの所有している馬車は王族の使う物と遜色の無いレベルの馬車なので商人や中途半端な貴族が使う馬車なんかより遥かに快適な乗り心地ではあるのだが、初めての馬車と言う事もあり、思っている以上に疲労してしまったのだ。
リアーナ邸に着き、少しぐったりしていたアリアは屋敷を見て目を丸くした。
この屋敷はランデール王国との戦の褒章として下賜された屋敷で元々は王族用の屋敷であった為、王都でも一、二を争う大きさを誇っている。
カーネラル王国内でここまで大きい屋敷はほとんだ無く、アリアがいた村の近くにあるディートにはここまで大きな屋敷は無い。
この屋敷はリアーナの実家であるベルンノット侯爵家の屋敷よりも大きい。
リアーナ自身は屋敷が広すぎて正直な所、持て余しているのが現状だ。
この屋敷を褒章にすると進言したのはリアーナの父であるルドルフだった。
誰も住まない大きい屋敷の維持は地味にコストが掛かり、家を出ようとした娘にそのまま渡せば財政にも良いし、娘の要望も叶えられれて一石二鳥と考えたのだ。
下賜されたリアーナはこの屋敷を見て唖然とし、国王から褒章として下賜された為、断る事が出来ず、泣く泣くここに住む事にしたのだ。
アリアが屋敷を目にして呆然としているとリアーナがアリアに声を掛けた。
「さ、中へ入ろうか。取り敢えず、アリアへの部屋へと案内しよう。ベルナール、アリアを部屋まで頼む」
「畏まりました」
ベルナールはこの家の使用人の長である家令である。
アリアはハッと我に返り、ベルナールに案内され屋敷の中へと入ると広大で豪華絢爛なエントランスが目の前に広がり思わず息を飲む。
床は一面大理石、至る所に細かい彫刻が施され、吹き抜けのエントランスの天井には巨大なシャンデリア。
「うわぁ……凄い……」
アリアはまるで御伽噺に出てくるお城の様な豪華さに感嘆の声を漏らす。
「こちらへどうぞ」
アリアはベルナールに案内されエントランスの階段を上って行く。
つい周りは気になって辺りをキョロキョロ見てしまう。
うっかり階段に躓いてしまう。
「お足元にはお気を付け下さい」
「……すみません」
咄嗟にベルナールがアリアを受け止め、やんわりと注意されアリアは少し顔を俯かせる。
本当なら手摺に掴まるつもりだったが、見る物全てが高価な物に見えてきてアリアは手摺すら触れられなかった。
三階の一室へ案内された。
部屋へ入ると孤児院の食堂より広い部屋でベッド、勉強用の机に来客用のテーブルと椅子、壁には絵画が掛かっていた。
アリアはこんな部屋に住んで良いのか不安になってきた。
「ここがアリア様のお部屋になります。一番奥にある扉がトイレでその横が浴室になります。一応、大浴場もあるのでお好きな方を申して頂ければ準備致します」
アリアは自室にお風呂が着いている事に驚いた。
普通は個人の部屋に浴室は付いていない。
貴族の邸宅では珍しくは無いが、平民の家ではまず無い。
「こちらの部屋に置いてある物はご自由にお使いして頂いて構いません。それと設備の使い方を簡単に説明致します」
アリアは部屋にある設備の説明を聞き、驚きしか無かった。
トイレの洗浄、湯沸し、照明等のあらゆる物に魔道具が使用されており、その便利さに驚いた。
特にアリアを驚かせたのは湯沸しだった。
アリアにとって水は井戸から汲み上げるのが当たり前なのだが、ここでは魔道具に触れるだけで冷たい水とお湯が出てくる。
ふと説明を聞きながらアリアは部屋にもう一つの扉がある事に気が付いた。
「……あの扉は……?」
「あちらは奥様の寝室へ繋がる扉です。この部屋と隣りの部屋は夫婦で使う事を前提とした造りとなっております。奥様からアリア様ならいつでも入ってきて良いと言われております」
「えっ!?」
アリアはベルナールの思わぬ言葉に思わず声を上げてしまった。
リアーナが使用している部屋は執務室と寝室が一体となった部屋になっており、アリアの部屋は当主夫人が使い、リアーナの部屋は当主が使う事を考えた造りなのだ。
その為、寝室はどちらの部屋からもアクセスが可能な様に造られている。
「アリア様のお召し物ですが、こちらに用意しております」
ベルナールは次にクローゼットへと案内した。
「これ……全部、私が着るの?」
「はい。全てアリア様の為に用意された物でございます」
クローゼットを覗くとドレスがずらっと十着以上掛かっており、アリアは一瞬、立ち眩みを起こしそうになった。
住んでいた世界が違い過ぎて頭が処理しきれなくなってきていた。
「もし御用の時はこちらの魔道具でお呼び下さい。この魔道具に魔力が流れると使用人が待機している場所に連絡が入る仕組みになっております」
ベルナールは壁に埋まっている青い石を指した。
魔力を通すと対となる魔石が光る様になっている。
この魔道具は全ての部屋に設置されており、使用人の食堂に屋敷の間取り図が置かれており、各部屋に対の石が埋まっており、誰が呼び出したか分かる様になっている。
「朝の支度等もメイドが参りますので宜しくお願い致します」
アリアは説明を聞いているだけでどっと疲れた。
「失礼します」
開きっ放しの扉から入ってきたのはエマだった。
「どうした、エマ?」
「奥様から湯浴みされるのでアリア様もご一緒にと仰せつかりました」
「それではアリア様の事は宜しく頼む。アリア様、何か御座いましたら気軽に申しつけ下さい」
ベルナールは一礼をして部屋から出て行く。
「アリア様、大丈夫ですか?」
少しぼーっとしているアリアを心配したエマが声を掛ける。
「は、はい!大丈夫です!えっと……お風呂ですか?」
アリアは慌てて返事をした。
説明に付いて行けなくて思考回路が停止していた。
「はい。長く馬車に乗っていたのでお疲れと思いましたので、ゆっくりお風呂に浸かって疲れを取った方が良いと奥様から申し付かりました。それと大浴場に入ったら楽しくなりますよ」
アリアはエマが笑顔で言った意味が分からず首を傾げた。
「少しお待ち下さい。お着替えを準備致しますので」
そう言ってエマはてきぱきとクローゼットからアリアの着替えを準備していく。
アリアは準備される着替えを見て、どれも高級に見えて困惑した。
つい自分が着ている服と見比べてしまう。
「ささ、アリア様、大浴場へ行きましょう」
アリアはエマに連れられて脱衣場へ着くなりすっぽんぽんにされた。
そして何故かエマもすっぽんぽんだった。
「……エマさんも入るんですか?」
「はい。一緒に行った奥様とマイリーン様も一緒ですよ。それにしてもアリア様の肌は透き通る様に白くてお綺麗ですね」
アリアは思わずエマから背を向けて顔を赤らめる。
ちょうどリアーナが脱衣場へ入ってきた。
「待たせて済まないな」
エマが服を脱ぐのを手伝おうとするが、リアーナは自分自身でどんどん脱いでいく。
アリアはリアーナの体に見蕩れてしまった。
筋肉で引き締まりながらも女性らしさを持った均整の取れた体。
まるで美術品の彫刻の様な体だ。
「ん、どうしたんだ?」
アリアは顔をさっとリアーナとは別の方向へ向けた。
女性の体とは言えまじまじと見ていた事が恥ずかしかったのだ。
「別に私の体を見たって気にする事は無いぞ」
リアーナはわしわしとアリアの頭を撫でた。
そこへ遅れてマイリーンがやってきた。
「む、やっと来たか。入るぞ」
マイリーンは急いで服を脱ぎ、四人で大浴場へ入る。




