表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
71/224

56:自分の身体

 アリアの住む孤児院のある村はカーネラル王国の南西にあるメッセラント王国との国境に接するソージャック領にある鉱山都市ディートの近くにある村の一つだ。


 村の近くにも鉱山があり、アリアは鉱山の廃石場と呼ばれる屑石が積まれている場所に来ていた。

 ここの鉱山は魔力を多く含んだ天然の魔石が採れる。

 魔石には鉱山の様に地面を掘って出てくる物と魔物から獲れる物の二種類がある。

 魔物から獲れる魔石は純粋な魔力の結晶体の為、高値で取引される。

 鉱山から産出される魔石は鉱石に長い年月を掛けて魔力が溜まり魔石と化した物で魔物産の魔石と比べると価値が下がる。

 魔力があんまり含まれていない屑石と呼ばれる魔石は鉱山の外に適当に山積にされている。


 アリアは屑石を利用し魔法の着火材の様にして扱っているが余り一般的な方法では無い。

 そもそも適正がある人間は屑石を着火材として使用しなくても魔法が使えるし、他の適正持ちでも簡単な火を起こす魔法であれば普通に発動が可能だ。

 アリアにはそれが出来ない。

 魔法に関しては孤児院で使えるのはサリーンだけで治癒魔法だけなのだ。

 適正を確認しようにも冒険者ギルドへ登録するには最低十二歳以上からになっているのと、それ以外で適正確認を行う場合はお金を取られるのだ。

 孤児院にいるアリアにそんなお金は当然無い。


 魔法が簡単にでも使えれば生活は楽になるのでアリアは定期的に屑石を拾いに鉱山の廃石場まで足を運んでいた。

 アリアは廃石場にある屑石を手に取りながら魔力量が少しでも多い石を探す。

 魔法は上手く使えないが魔力を視る事が出来るのだ。

 そのお陰で屑石を上手く利用出来ていた。


 皮袋一杯になるまで屑石を拾い集めると誰にも見つからない様に廃石場を離れた。

 鉱山で働いている者はアリアが屑石を拾いに来ている事は知っているが、見て見ぬ振りをしていた。

 だが鉱山を警備している者はそう言う訳には行かない。

 鉱山は領主の所有なので屑石とは言え勝手に持ち去る事は禁止されている。

 万が一、見つかれば窃盗犯として捕まる恐れがあるからだ。

 実際には屑石を子供が持てる分程度持って行った所で困る事は無いし、警備兵にしても注意をする程度になるだろう。

 彼らも面倒事を増やしたくないし、上に報告すれば仕事が増えるだけだからだ。


 アリアは鉱山帰りに森へ立ち寄っていた。

 あわよくばメイルスパイダーを獲りたいと思っていた。

 危険なのは充分に理解していたが、あれが定期的に獲れれば良い食料になるのだ。

 他に兎や鹿等も森に生息しているが、よく生息している場所は狩人の縄張りで入るのは禁止されている。

 縄張り以外だとそこから出てきた獲物を狙うしかないが兎以外は子供には荷が重い。

 メイルスパイダーは硬いだけで肉食では無いので実は危険が少ない魔物であったりする。

 甲殻の硬さはかなりの物なので倒しにくい事からEランクに分類されている。


 森を歩き回ると一匹のメイルスパイダーが木の上に登ろうとしていた。

 恐らく木の実を取る為だろう。

 アリアは屑石を手に取る。

 魔力を込めて風の弾を木にぶつける。

 その衝撃によりメイルスパイダーは木から落下してしまう。

 アリアは魔法を上手く使えないが魔力量は人より多いので発動すれば威力の高い魔法になるのだ。


 木から落ちたメイルスパイダーは腹を上にして引っ繰り返った状態で脚をジタバタと動かして体をひっくり返そうとしている。

 アリアは足元にある大きい石を昨日と同様に柔らかい腹部に向って投げつける。

 数度繰り返すと動きが止まり、動かない事を確認すると鉈を手に取り解体を始める。

 丸ごと持っていくのは難しいので持って帰るのは脚だけだ。

 昨日の解体で少しコツを掴んだアリアは脚の付け根に鉈で何度も叩き切る。

 慣れれば解体は難しくなかった。

 アリアは今日もメイルスパイダーが獲れた事に満足して笑顔で孤児院へと戻った。




 あれから孤児院の食糧事情は少し改善された。

 それはほとんどアリアが獲ってくるメイルスパイダーのお陰だった。

 アリアはメイルスパイダーを仕留める方法を自ら編み出していた。

 風の魔法を仕込んだ魔石を地中に仕込ませてその場所までメイルスパイダーを誘き寄せて、魔石を発動させて引っ繰り返し、無防備な所を仕留めると言うやり方だ。

 これの肝はメイルスパイターが引っ繰り返せるか否かだ。

 失敗した場合は全力疾走で逃げる。

 アリアも魔物の危険性は充分に理解している。


 森でよくメイルスパイダーを獲っているのが村人の目にも留まり、メイルスパイダーをを食す者が村人へも広がった。

 暫くすると村でメイルスパイダーを養殖出来ないか研究する者が出てきた。

 十年後に養殖は成功するが、それはまた別の話。


 メイルスパイダーの食料としての価値は村では大きく、不作で食料が足りない村民にとっては貴重なタンパク源となっていた。

 新たな食料を見つけたアリアに村人からよくお裾分けとしてメイルスパイダーが届けられた。

 ついでに野菜のお裾分けがあったりと孤児院の厳しい食料事情にはありがたいものだった。


 この日は珍しく、アリアは外に出ず孤児院の中にいた。

 昨日もメイルスパイダーを獲りに行きうっかり怪我をしてしまった為だ。

 いつも通りメイルスパイダーを引っ繰り返して仕留めるつもりが暴れた脚で腕を引っ掛かれて腕に傷を負ってしまったのだ。

 シスターにバレない様に隠れて手当てをして昨日は寝たのだが、自分の体に起きた状況に戸惑っていた。


 朝、目が覚め隠れて包帯を替えようとした時、傷が何故か無かったのだ。

 今までアリアは大きな怪我をした事が無かった。

 アリアとサリーンは別々の部屋で寝ており夜中にサリーンが部屋に勝手に入ってくる事は無い。

 何故、傷が無くなっているのか全く分からなかった。

 アリアは部屋に置いてあるナイフを取り出した。

 自分の指先を軽く切った。


「っ……」


 指先はナイフで切れ、血がうっすらと滲み出てくる。

 僅かに痛みがあるが、普通の切り傷だ。

 暫くすると血が止まり十分程すると傷が無くなってしまった。


「……何で?」


 普通では考えられない程、傷の治りが早い事に不安を覚えた。

 子供達が怪我をして治療したりする事もあるから分かる。

 この自分の異常さに。


「アリア」


 ノックと共にサリーンの声がしてアリアは急いでナイフを片付ける。


「どうしたの?」


 心配させては行けないと思い、ドアを開けて姿を見せる。


「今日は外に出てないので何かあったのかと思ったので」


「何も無いよ。ただ最近、毎日森に行ってて疲れが溜まっていたから……」


「無理したらダメですよ。あなたが倒れたら大変なんだから」


 今、アリアが倒れると食料を確保しに行く人間が誰もいなくなるのだ。

 孤児院の食料事情的に非常に不味い事態に陥る。


「うん。分かってる。ごめんね、サリーンさん。心配掛けて」


「大丈夫なら良いんです。最近、毎日森に行ってるから負担が大きいと思っていたから……」


 森に入って獲物を探すのがどれだけ大変かはサリーンもよく分かっていた。

 だから毎日森に行くアリアが心配だったのだ。

 それにいつも元気に森へ行くアリアが部屋にいるので何かあったのでは無いかと思ったのだ。


「大丈夫だよ。もし時間があれば魔法を教えてもらっていい?最近あんまり時間が取れなかったから」


「良いですよ。私の仕事が終わったら声を掛けますね」


「お願い。それまでは大人しくのんびりしてるよ」


 サリーンはパタパタと子供達のいる部屋へ走っていった。

 アリアは扉を閉めて扉を背にしてその場でしゃがみ込む。

 ふと自分が何者なのか考えていた。

 アリアは両親がどんな人物か全く知らない。

 赤ん坊の頃からこの孤児院にいるので自分の素性すら全く分からない。

 アリアはそんな自分が怖くなった。


 どのぐらい経っただろうか。

 アリアは目元を拭うと涙の感触があった。

 ずっと泣いていた事に気付いたが、どうしようも無いので井戸に行って顔を洗いに行く事にした。

 子供部屋が騒がしい。

 サリーンはまだ子供達の相手をしている様だった。

 アリアとサリーンは個室だが子供達はまだ幼い事もあり一緒の部屋だ。


 井戸の水で顔を洗うと水の冷たさで少し落ち着いた。

 この時期は乾燥した空っ風が吹くので少しちょうど良い。

 アリアはそろそろサリーンが部屋へ来る頃だと思い部屋へ戻った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ