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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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54:空腹少女

 少女は生まれてすぐに孤児院の目の前に捨てられた。

 捨てられた場所が孤児院の前なのはまだ救いだっただろう。

 少女の両親は貧しい訳では無かった。

 と言っても実の両親では無い。

 その家には複雑な事情があり、その子がいる所為で家から追い出される可能性があった。

 周囲に伝わる前に子供を処分したのだ。


 しかし、彼らも人の子。

 赤ん坊、それも自らの子を殺す事が出来なかった。

 少女の素性が分からない遠い地の孤児院の前に捨てたのだ。


 少女は孤児院のシスターに朝の見回りの時に発見され、アリアと名付けられた。

 捨てられた赤ん坊には割と名前が分かる何かが付けられている事が多いのだが、アリアにはそれが無かった為、孤児院のシスターが名付けるしか無かったのだ。

 両親がアリアに名前をどんな名前を付けられたかは分からない。

 そこに込められた想いも。


 孤児院に来る子供は色んな事があり捨てられた子供達。

 貧しくて口減らしで捨てられた子、家を襲われ行き場を失った子、貴族の妾として捨てられた子、没落または破産した親の子、素性は様々だ。

 どの国でも貧困対策で孤児院を運営しているが、孤児は中々減らないのが現状だ。


 アリアがいた孤児院は少し特殊な事情がある。

 孤児院には大きく三つの運営母体が存在する。

 一つは国、もう一つが個人、最後にアルスメリア神教が運営している。

 ここの孤児院は元々は神教運営の孤児院だったが、昔の孤児院の運営者が不正を行い神教が手放したのだ。

 普通であれば孤児がいるので孤児院毎手放す事は無い。

 当時、この孤児院は孤児を使って計画的な窃盗、強盗を行っており、子供とは言え犯罪者を匿う訳には行かず手放すしか無かった。

 その時の領主が子供達を更生させる為に孤児院を引き取ったのだ。


 そして、当時の孤児の一人が現在のシスターだったりする。

 彼女の役割は見張りがほとんどだった為に罪に問われる事も無く、更生の機会を得る事が出来た。

 孤児とは言え殺人等の重犯罪を犯した者は処刑されている。


 アリアはこの孤児院に来て早九年も経とうとしていた。

 孤児院の暮らしはかなり厳しい。

 特に今年は不作で村の食料が非常に少ない。

 その所為で満足な食事すらままならない状況だった。

 領からの支援が無い訳では無いが、当てになる程多くは無いので、孤児達で育てた作物、村からのお裾分けでギリギリ成り立っているぐらいなのだ。

 当然、不作だと村の人間も孤児院に分ける食料が無い。

 それもあり、一日一食準備するのもやっとな状況だ。


 アリアは森の中で何か食べれる物が無いか必死に探していた。

 孤児院にある食料だけでは足りないので少しでも足しになればと思い、近くの森で食料になる物を探しに来たのだ。

 出てくる食事は野菜が気持ち入っているかどうかの麦粥が一日一回出るだけだ。

 そのぐらい厳しいのだ。


 森を進むが食料は見つからない。

 キノコは見つかるが大抵毒キノコだ。

 ベテランでも毒キノコを間違って採ってしまう事もあるので、アリアはキノコを採るのは避けていた。

 万が一、拾ったのが毒キノコだったら孤児院にいる全員が大変な事になってしまう。

 狙うのは木の実と森の中を流れる川に棲む魚だ。

 今日の狙いは川で釣れる魚だ。


 アリアはいつものポイントの岩に腰を掛け、背負っていた竿に途中で捕まえた冬眠中の幼虫を針に括り付けて糸を垂らす。

 釣竿を握りながらその竿にたくさん連れる様にと願いを込める。

 たくさん釣れればお腹一杯になれるかもしれない。

 そう期待して。


 一時間程で五匹程釣れていた。

 悪くない釣果だ。

 調子が悪い日は坊主なんて事も珍しくない。

 突如、川の上流の方から何かが川に落ちた様な音が聞こえた。


「今日はもうダメかなー。勘弁して欲しいな」


 稀に魔物か何かが川に落ちたり体を洗う為に川に入る事があるのだが、そんな時は大抵、魚が驚いて逃げてしまい釣れなくなるのだ。

 アリアは少し残念そうな顔をしながら釣竿を片付け始めた。

 ふと川から何かが流れてきているのに気付いた。


「あれなんだろ?蜘蛛の魔物?」


 上流で引っ繰り返って足を八本バタつかせている物体がいた。

 蜘蛛の魔物が引っ繰り返って川に流されながら溺れかけていた。

 ふとアリアはあれを何とか倒して持って帰ればお金になるのでは無いかと考えた。

 周囲にある大きめの石を持ち上げる。


「うんしょ!やぁ!」


 勢いよく蜘蛛の魔物に石を投げつけるとちょうど柔らかい所に辺り脚をバタつかせて一層、苦しそうに踠き始める。

 蜘蛛の魔物は流れから外れ、岩に引っ掛かって岸に近い所に来た。

 アリアはいくつもの石を投げつけると必死に踠いていた脚の動きが力なく止まった。

 慎重に蜘蛛の魔物に近づいていく。

 万が一、生きていて襲われたら大変だからだ。

 アリアは木の枝で脚を突っついてみるが動く気配が無い事が分かると蜘蛛の魔物を岸に引き上げた。

 だがアリアの小さい体では魔物を持ち運ぶ事は不可能だった。

 蜘蛛の魔物はアリアより若干大きく予想以上より重かった。

 まだ九歳のアリアの力ではどうにもならないのだ。


「何とか仕留めたけど持って帰れないよ。どうしよう……?」


 そんな蜘蛛の魔物を前にしてアリアのお腹から空腹を告げる音が鳴った。

 最近は朝か昼に一度しか食事を取らない上に今日は森に来ていたので食事を取っていなかった。

 ふとアリアは目の前の魔物を見て火を通したら食べれないだろうか、と思ってしまった。

 魔物を食べる事は決して珍しい事では無い。

 動物型の魔物は食料として市場に流通しているし、虫型の魔物でも珍味として食される事もある。


 アリアは腰に携えた草刈用の鉈で何処か解体出来そうな箇所を探す。

 虫型の魔物は甲殻が硬いので草刈用の鉈程度で傷付く事は無い。

 アリアは脚の付け根の間接に何度も鉈を振るう。

 何度か振るうと一本の脚を切り離す事が出来た。

 断面を見ると白い繊維がぎっしり詰まっていた。


「これ食べれるのかな?」


 アリアは毒があったらどうしようかと考えたが空腹には勝てなかった。

 枯れ枝やこの葉を集めて懐から黒い石を取り出した。

 これは魔石だ。

 魔石と言っても魔力量が少ない一般的には屑石と呼ばれ、値段が付かない物だ。

 アリアは村の人から着火の魔法を教えてもらっていた。

 と言っても火の適正が無いので屑石の魔力を利用しないと使えない。

 屑石は魔石が取れる鉱山ならいくらでも手に入る。

 アリアはそれを拾ってきて携帯していた。


 火を起こして蜘蛛の魔物の甲殻を火に当てて焼き始める。

 脚の爪先は硬いが内側は比較的柔らかかったので鉈で開いて火に掛けている。

 暫くすると鼻をくすぐる空腹を誘う香ばしい香りがしてきた。

 アリアはその香りに思わず喉を鳴らした。

 中の繊維状の物から水分が蒸発し湯気が出てきたのを見てそっと蜘蛛の魔物の脚を火から下ろす。


「きっと大丈夫だよね」


 アリアは近くの川の水で洗った木の枝を繊維状の物を甲殻から外そうとすると焼く前と違いほろほろとあっさり離れた。

 白い繊維状の物を恐る恐る口へと運ぶ。

 少し弾力のある食感、僅かな甘みに香ばしい香りが鼻から抜ける。


「薄い麦粥より美味しいかも」


 アリアは蜘蛛の魔物の身が食べれると分かると勢いよく身を頬張り始めた。

 九歳の子供が一日、麦粥一杯で足りる筈が無い。

 必死に他の脚も解体して焼いて四本も一人で食べきった。


「うぷっ……ちょっと食べ過ぎたかな。でもお腹一杯に食べたのなんていつ振りだろう?」


 アリアはお腹を押さえながら思った。

 久々のお腹が満腹になる感覚にアリアは満足気な表情を浮かべている。

 最近の食料事情が悪い事を考えれば当然だ。


 アリアは魚と蜘蛛の魔物の脚を持って帰る事にした。

 この蜘蛛の魔物はメイルスパイダーと言う東の大陸では非常にメジャーな森に生息する魔物だ。

 甲殻の硬い部分は素材にされるが他の部分は捨てられている。

 見た目も相まって食べられると認知されていない。

 実は毒も無い魔物なので食べても問題は無い。


 因みに脚以外の部分については重くて持って帰れないのと中身がグロくて食べれそうな気がしなかったからだ。

 後は孤児院に戻ってどう説明しようか考えていた。

 危ない事をしたのは当然だが、食用の確認が出来ていない魔物を食べた事にシスターから怒られる事が悩ましかった。

 食用の確認が取れていない魔物を食べるのは自殺行為だ。

 魔物によっては人体に害をなず毒を持っている魔物もいるからだ。


 満腹の満足感でアリアは深く考えず山を下りた。




ヒルダ「二章が始まりました」


アリア「始まったね」


ヒ「よくあれを食べようと考えましたね」


ア「お腹が空き過ぎると何でも食べれそうに見えるんだよ」


ヒ「そう考えると私は恵まれていたんですね」


ア「お腹が空かなくて済むのは良いよね」


ヒ「全くその通りですね。それにしても小さい時からやんちゃだったのですね」


ア「テヘッ」


ヒ「みんなこの野生児に苦労したのが分かります」


ア「え、そっち?」


ヒ「マイリーンさんの苦労が……」


マイリーン「本当に大変だったんですよ。ドレスで木登りをしたり、庭を駆け回ったり……」


ア「マイリーンさん、いつの間に!?」


ヒ「いついらしたのですか?」


マ「ずっといましたよ」


ア・ヒ「……」



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