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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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閑話15:マイリーン・アドニ⑨

 あれからアリア様達と一緒に過ごす様になり、穴倉での生活とは打って変わって人間らしい生活を送る様になりました。

 合成獣(キメラ)事件は解決し、そのお陰で私は普通に街へ出歩けるようになりました。

 一緒に戦った冒険者の方々から私の境遇に同情され、その話を聞いた街の人からも同情された結果、首輪をせずに街の人間である証である市民証を私に対して発行されました。

 ついでに冒険者ギルドのギルドカードも発行して頂けました。

 最初はSランクで発行するなんて話もありましたが丁重にお断りしました。

 冒険者の方々がランクを上げるのにどれだけ苦労しているのかを考えると素直に受け取る事に抵抗がありました。

 でもガルドさんからせめてAランクにして欲しいとお願いされ、Aランクのギルドカードが発行されたのです。

 個人的にはFランクとかでも良いと思ったのですが、それを話すとニールさんからそれは絶対ダメだ、と言われてしまいました。


 街へ出ると色んな方が私を心配して声を掛けてくれます。

 声を掛けてくれる方は以前に治療した事がある方が多く、その時のお礼も言われたりして日頃からの行いの大切さを実感しました。


 アリア様は相変わらず悪戯がやめられない様でした。

 産卵中に私の中を覗こうとしたりするのは如何なものかと思いました。

 気になるとは思いますが、そこは女性として覗くなんて事はしてはならないと思います。

 当然、年齢の回数分のお尻叩きでしっかりお仕置きをしました。

 もう良い年齢なのでそう言う所はしっかりして欲しい所です。


 今日は珍しく宿舎の食堂でリアーナ様と二人きりでした。

 あれから二人きりになる事は無かったので、少し昔を思い出して懐かしい感じがします。


「こうやってマイリーン殿と話すのはいつ振りだろうか?」


「五年ぶりですね、奥様」


 リアーナ様は思わず飲んでいるお茶を吹き出しそうになりました。


「流石にそれはやめにしよう。年齢的にはそう呼ばれておかしくてはないが……」


 リアーナ様ももうすぐ三十歳ですからね。


「つい懐かしくて呼んでみたくなっただけですよ。周りの方がいると呼びにくいですから」


「懐かしいのは私も一緒だ。よく自室で一緒に酒を飲んでマイリーン殿を酔い潰してエマに怒られたな」


 苦笑交じりに懐かしい事を語るリアーナ様。

 いくら飲んでも平気な人と飲むのは中々キツイものがあります。

 二日酔いでアリア様に勉強を教えたのも懐かしいですね。


「あれは自業自得ですよ。そう言えばエマさんは今どうされているんですか?」


「エマなら王都にいる。出奔したのがちょうど育児休暇中でな。一応、屋敷で働いていた人間はベルンノット侯爵家が預かる事になっている。屋敷は売ったといっても父上だからそう問題にはならんしな。恐らく屋敷にみんないると思う」


「エマさん、無事に出産されたのですね」


「あぁ、立派な男の子だ。生意気そうな目はエマにそっくりだ」


「何か良いですね。そう言うの。私もある意味リアーナ様と一緒ですから」


 リアーナ様は一緒の意味を理解したのか少し表情が曇った。


「悲しい独身組……と言いたい所だが君にはギルドマスターがいるじゃないか。子供が出来なくても結婚は出来るんじゃないか?この街でなら問題無いだろう」


「そうですね。今は出来ればアリア様のお手伝いがしたいと思ってます」


 リアーナ様の表情が険しい顔に変わる。


「それが不毛な何も生まない復讐であってもか?」


 私もアリア様から事情をお聞きして目的は十分承知していました。

 アリア様を嵌めた神教の者への復讐。

 実際にこの街の孤児院にいたサリーンと言う同郷の女性を拷問紛いの事をしてアリア様自身が殺した事も。

 それに悪魔と契約した身であると言う事も知った上で私はアリア様に仕えるつもりです。


「はい。もう私もアリア様と同様に昔と違ってしまったのでしょう。そう言う事に対する忌避感が全く無いのです。きっと私もアリア様同様に何処か壊れてしまったのだと思います」


 昔の私であれば絶対に止めたと思います。


「そうか……私はあの時、マイリーン殿とアリアを神殿に行かせたのを凄く後悔しているんだ」


「それはどうしてですか?」


「行かせなければアリアはあの様な傷を負う事も無かったし、マイリーン殿はその様な姿になってしまう事も無かった」


 リアーナ様は本当に悔しそうな顔をされていました。

 ただその思いの一部が私である事に少し嬉しく思いました。


「昔、みんなで一緒にお風呂に入った時の事を覚えているか?」


「懐かしいですね。アリア様は私達のもじゃもじゃに夢中でしたね」


 気になるのは分かりますが、引っ張るのは絶対にやめて欲しいです。


「あー、それも懐かしいな。この復讐が終わったら何処かの田舎でのんびりそんな生活が出来たら良いと思ってるんだ」


「それは夢の様ですね、私は混ぜて頂けるんですか?」


「当然だ。でもエマは難しいな……」


「そうですね。結婚して子供がいるとなると厳しいと思います」


「でもマイリーン殿はギルドマスターと結婚するから難しくないか?」


 リアーナ様の中では私とガルドさんが結婚する事で決まっているみたいですね。

 ガルドさんがこの話を聞いたら顔を真っ赤にしそうです。


「それなら近くに住んでしまえば良いだけです。でもそう言えば気になる事を忘れていました」


 この体になってから生きる事に関して消極的だったので余り気にならなかったのですが、これから生きようと思うとかなり気になる事を忘れていました。


「どうしたんだ?」


「いえ、私の寿命って、どのぐらいなのかが気になったもので」


「ハンタータームのクイーンなら三百年ぐらいは生きるなんて話はあるが、合成獣(キメラ)となると分からんな」


 ハンタータームのクイーンが三百年も生きるとは初めて知りました。

 私としては人間と同じ寿命があれば充分なのですが。


「そうですよね。素朴な疑問だったので……。リアーナ様はお付き合いする男性はいらっしゃらないのですか?」


「いないな。私より弱い人間はまずあり得ない」


 リアーナ様より強い方なんているのでしょうか?

 物凄い高いハードルな気がします。


「後は私の名前で寄ってくる奴も却下だ」


「その様な方に限って弱いのでは無いですか?」


「正にその通りだ。女の威を借る男なんぞ最低だ。出来れば実力は無くてもいざとなったら身を挺して守ってくれる男が良いかな」


 少しハードルが下がった気がしますが、そんな立派な男性はそうそういません。


「実は物語に出てくる英雄に憧れがあったりしませんか?」


 リアーナ様は少し顔を赤くしながら露骨に目を逸らしました。


「実は白馬の王子様とか好きだったりします?」


 無言ですが、図星の様ですね。


「リアーナ様は思いの外、乙女ですよね」


「う、うるさい!」


「そうムキになる所が可愛いんですよ」


「か、可愛い!?わ、私は……」


 調子の乗って揄うとリアーナ様の顔が照れて真っ赤になりました。

 意外とこう言う所が可愛い方なんですよね。

 エマさんがこの場にいたら満面の笑みでサムズアップしてそうです。


「ずっと思っていたのだが、マイリーン殿は何処かエマと似た様な物言いをするな」


「それはあれです。リアーナ様女子力向上委員会のメンバーだからですね」


「な、何だそれは!?初めて聞いたぞ!」


「でも大分前からですよ。エマさんが十代の頃に発足したと聞いてますから。私が入ったのはお屋敷に来た初日ですね」


 そう、私がリアーナ様にドレスを着る様に進言したのを聞いてお声が掛かったのだ。

 ある意味、屋敷の皆さんの思いを気付かぬ内に外の人間である私が叶えてしまったのが原因でした。

 アレクシア様やエマさんからは凄く感謝されました。

 毎日ドレスを着ているなんて信じられない、とまで言われてますから、何とも言い難い感じです。


「いつの間に……」


 がっくり肩を落とすリアーナ様を見ると本当に懐かしいです。


「皆さんリアーナ様が女性として幸せになる事を望んでいるだけなので諦めて下さい」


「はぁ……」


 重い溜息を吐きながらマドレーヌに癒しを求めてますね。

 何処か懐かしい思い出に浸りながら二人でついつい思い出話に花が咲いてしまいました。

 この後はきっとお酒に付き合わされる可能性は高いですが諦めましょう。



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