06:盗賊=食事
アリアとリアーナは盗賊に気付かれない様に盗賊のアジトへ侵入する。
アリアは背負った大剣、リアーナはハルバートを構え慎重に進む。
盗賊は山肌の洞窟をアジトにしており、出入りする箇所は一ヶ所だけの様だ。
奥からは喧騒が響いてきている。
奥が騒がしい為、二人の侵入は気付かれていない。
息を潜めて明かりのする入口に近づいて中を覗く。
盗賊達は宴会中だった。
昨日、商人の乗った馬車を襲っており、物資の食料がたくさんあったからだ。
アリアはリアーナに目線を交わし突入のタイミングを確認する。
リアーナがアリアに対して無言で頷く。
それに合わせてアリアが入り口から中へ駆け出す。
すれ違い様に三人の盗賊の首を切り落とす。
いきなりの事に盗賊達の視線がアリア集まる。
「何だ!テメェは!?」
目の前の盗賊は声を上げるが、アリアは気にも留めず大剣を一閃。
盗賊の上半身は力無く地面に落ちる。
「全員武器を取れ!そのガキを殺せ!!」
一番奥にいる盗賊の頭らしき男の声に合わせ、盗賊達が一斉に武器を取り、アリアを取り囲む。
「ぐあっ!?」
「ぎゃあ!!」
入口の方から悲鳴が上がる。
アリアを取り囲んだ入口付近にいる盗賊達が真っ二つになる。
盗賊達がアリアを取り囲んだのを見計らって入口付近の盗賊をリアーナが横一文字に両断したのだ。
別の襲撃者に盗賊達は乱れた。
アリアの振るう大剣は嵐の如く、次々と切断死体を量産しながら盗賊の頭に目掛けて突き進んでいく。
その後方ではバラけた盗賊がリアーナのハルバートによって蹴散らされていく。
盗賊の頭は愛用の大斧を手にし、向ってくるアリアと対峙する。
「よくもやってくれたな、ガキが!」
止まらないアリアに向って大斧を振り下ろす。
その一撃は人を殺せる充分な一撃だ。
だがアリアにはそんな攻撃は通じなかった。
手に持つ大剣をで一閃。
盗賊の頭の持つ大斧が切り飛ばされる。
「そんな馬鹿な!?」
返す刀で思い切り振りぬく。
暴威によって両断された上半身は吹き飛び、壁に当たり地面に転がる。
頭を潰したアリアは後を振り返る。
そこには既に生きた盗賊はおらず、物言わぬ屍だけだった。
アリアが残した盗賊はリアーナ手により既に終わっていた。
二十人程いた盗賊だったが、突入から十分足らずで全滅した。
「取り敢えず、終わりかな?」
軽く買い物に来たぐらいの軽い感じで言った。
「まだだな。お楽しみの前に捕まっている女性達が先だ」
アリアは捕まっている女性達の事をすっかり忘れていた。
「そうだね。奥にいるっぽい」
二人は盗賊の宴会場?の奥にある通路を進む。
そこには木の扉で閉ざされた一室があった。
その扉は外から木で押さえるだけのシンプルな鍵が掛かっているだけだった。
リアーナは鍵を開けて扉を開く。
部屋の中にはまだ十代前半と思われるの少女が二人、二人の少女の後ろに全裸の女性が一人。
三人の首に首輪があるのを見て奴隷と言うのが分かる。
全裸の女性は髪が乱れて身体の彼処に痣がある。
恐らく既に盗賊達の慰み物にされて後なのであろう。
突然、部屋に入ってきた私達に彼女達は怯えていた。
全裸の女性の腹部にある紋様が目に入った。
気にはなったが、アリアはをそれを後回しにし、先に治療をする事にした。
盗賊を殺すのには何も思わないが、女性がこの様な目に合っているのを見るのは心が痛む。
「治癒光」
アリアは両手を広げ、治癒の光で彼女達を包みこむ。
「!?」
捕まっている女性達の痣等の傷が消えていく。
彼女達は自分の身に起こっている光景に驚きを隠せなかった。
「ついでに洗浄っと」
アリアの魔法によって彼女達の汚れも消えていく。
「ギルドの要請で盗賊の討伐に来た者だ。盗賊は既に殲滅したが、君達には少し刺激が強い光景になっているから後始末が終わるまでここで待機してもらって良いかな?」
リアーナは空間収納から私服を一着取り出す。
「彼女にこの服を。全裸のまま街に連れて行く訳には行かないからな。アリア、君のワンピースを二着出してもらっていいか?」
アリアは頷き空間収納からワンピースを二着取り出して彼女達に渡す。
ついでにパンと水も三人分取り出す。
「食べ物も置いておくから食べて。私達は後始末に行くから一時間後には戻ってくるから。一応、残党とか残っていたら困るからこの部屋には結界を張っておくね」
彼女達は無言で頷く。
「後始末が終わったらその首輪は外して上げるから少し待ってて」
アリアはそう言い残し、リアーナと部屋を出る。
部屋に結界を張る。
結界を張る理由は残党の懸念がある訳では無く、自分達の食事を見られない為だ。
二人は先程の盗賊を倒した広間に戻ってきた。
アリアは無造作に近くの死体から心臓を引きずり出す。
まだ殺して時間が経っていないから温かい。
引き抜いた心臓から滴る血で喉を潤す。
業の深さが足りないから深みは無いがそれなりの味だ。
心臓の中の血を飲み干すとまるで果実に食べる様に心臓に齧り付く。
血の味も今一だから心臓の味も大した事は無かった。
それでも大事な食事だから残さず食べる。
リアーナはと言うと解体用のナイフで一つ綺麗に取り出している。
そこはやはり元侯爵令嬢なのか丁寧だ。
食べ方もアリア程大胆では無く、服が汚れない様に気を遣いながら食べている。
二人とも食べていて満足感はあるが、不思議な事に直接お腹が膨れない。
カタストロフ曰く、食べる事により悪魔としての力に変換されるらしい。
アリアとリアーナで辺りの心臓を食べ尽すと、死体から首だけを切り取り麻袋に放り込んでいく。
これはギルドに討伐の証として持って行くためだ。
死体の残りの部分は空間収納に入れておき、旅の途中の山中で焼いて処理をする。
心臓だけ抜き取られた死体を見られる訳にはいかないからだ。
アリアは自分とリアーナに洗浄を掛けて血で汚れた部分を綺麗にする。
死体が無いとは言え、そこら中血だらけになっている広間にも洗浄を掛けて綺麗にしておく。
他の部屋を確認し、お金になりそうな物を手当たり次第、空間収納へ放り込む。
盗賊の持っている物は原則、討伐した者が自由にして良い事になっている。
一通り済んだ所で女性達がいる部屋へと戻る。
三人とも着替えと食事は終わっており、大分落ち着いた様子だ。
アリア達が入ってくると同時に三人は立ち上がる。
「私達を助けて頂き有難うございます」
先程、全裸だった女性が代表した感謝を述べ、深く礼をする。
少女の方も合わせて礼をする。
「うん。気にしなくても良いよ。それが仕事だから。それじゃ首輪も解除するから」
アリアは女性の首輪に触れる。
「虚魔」
首輪が淡く光るとパキン、と乾いた音を立てて彼女の首から外れる。
虚魔は虚無魔法の一つで魔法の効果を消す事が出来る。
首輪に付与されている隷属の魔法の効果を打ち消したのだ。
残りの二人の首輪も順番に解除していく。
彼女達は自分の首に手を当てながら奴隷から解放された事を噛み締め、涙を流す。
「本当に……本当に有難うございます」
奴隷になった物は普通は解放される事は無い。
西の大陸では奴隷は厳しく規制されているが、東の大陸では奴隷は当たり前の様に売買されている。
借金、犯罪、孤児等、奴隷になる理由は様々だが、奴隷の扱いは厳しくまともな生活を送れない者が殆どだ。
どんな形であれ奴隷から解放されると言う事の意味は大きい。
「あの……もし宜しければお名前を教えて頂けませんか?」
「私はアリア。こっちがリアーナさん。まだ辛いとは思うけど、ピル=ピラまで今から来てもらうけど大丈夫?」
街に行けば彼女達を保護してもらえる。
「はい。すみません……この様な高い服をお貸し頂いて……」
三人に渡した服は普段、アリアとリアーナが着ている服で素材はそこそこ良い物を使っているので元奴隷が着るには贅沢な服なのだ。
「服は返す必要は無い。そのまま使ってくれ。街で生活するにも服が無いと困るだろう?」
リアーナの言葉に女性達は涙を流しながら頭を下げる。
二人ともお金には困っていない。
ここ一年で盗賊討伐や魔物討伐の報酬でかなり潤っているし、リアーナに至っては騎士時代の貯金に国を出る時に売り払った屋敷のお金もあるので、かなりの金額を所有している。
「日が暮れる前に街に戻ろうか。今ならゆっくる向っても大丈夫だ」
捕まった女性達を連れアリア達は街に戻る。