47:合成獣殲滅戦 in 東門@リアーナ
リアーナは合成獣の数が一番多い最前線に向って走っていた。
剛剣のガリアスや雷撃のベイルートがいるのである程度戦線は保たれているが、奥に控えている合成獣がまとめて襲い掛かってきた場合、戦況はかなり怪しい。
リアーナにはこの襲撃が何かの陽動では無いかと思っていた。
だが敵の狙いが分からない状況下では順番に対処せざるを得ない。
リアーナは目の前にいる合成獣にハルバートを振るい、次々と薙ぎ倒していく。
この合成獣はリアーナからすれば苦戦する相手では無い。
はっきり言って雑魚同然だ。
Aランクのケルベロスをベースとした合成獣の群れと言えど、リアーナが突っ込めば肉塊を撒き散らすだけである。
十分もすれば最前線の合成獣は全滅だった。
リアーナはハルバートを肩に担ぎ辺りを見回し、一通り倒し終わった事を確認する。
そこには無数の合成獣の死体が転がるだけだ。
悉くリアーナの手によって屠られた。
気配を感じた方向へ振り返ると一人の男がそこに立っていた。
神職の法衣を着ている
男は辺りを面白そうに見渡していた。
風貌からして合成獣の研究者だろう、とリアーナは思い、警戒を解かずに視線で威圧する。
「中々酷い事をするねぇ」
男は辺りの死体の有様をさぞ楽しそうに言った。
「それはこちらの台詞だと思うが?」
こんな憐れな物を作っておいて何を言うのか、そう思った。
こんな生物にあるまじき物を作り上げる事が。
「そうかな?崇高な神の意思に沿っての研究なんだけどなー」
男の様子からは神を信望している様には見えない軽い口調だ。
「君達が思いの外、強くて向こうも失敗している様だからね。率直に聞きたいんだけど僕の実験体を返して欲しいんだよね」
「何の事だ?お前からそんな物を預かった覚えは無いが」
リアーナは男が返して欲しい物の見当は着いていた。
「僕の大事なハンタータームクイーンの合成獣だよ」
やはり、とリアーナは思った。
そして追っ手がマイリーンの方にも行ったと言う事も分かったが、それも失敗したと言う事も分かった。
「あれは逃げられたけど、僕の中でもとっても良い出来なんだ。君達には過ぎた代物だよ」
リアーナからすれば仲間を玩具扱いされている事に激しい怒りを覚えた。
「で、言いたい事はそれだけか?」
リアーナのハルバートを握る力が強くなる。
「素直に返してくれれば危害は加えないから。僕の気が変わらない内に返して欲しいなぁ」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらリアーナが放つ殺気を全く気にも留めていなかった。
「確か神父のハデルだったかな?」
唐突に自らの名を明かされ、先程まで浮かべていた笑みが消える。
「面倒だ。ここで死んでよ」
リアーナが槍を構えようとした瞬間、いきなり何かに捕まれて構えを取る事が出来なかった。
「何!?」
腕に蔓の様な物が巻きついていた。
それは地面から生えておりリアーナの両腕、両足を拘束していた。
魔物でも気配がすればリアーナ程の力量があれば気が付かないなんて事は無い。
「普通なら気配で悟られるんだろうね。まぁ、木の気配を感じる人間なんていないよね」
リアーナを拘束したのは木の合成獣だった。
拘束を振りほどこうとするが巻きついた蔓はビクともしない。
「無理だよ。コイツは砂漠より更に南にある草原に生えている木を締め付けて殺す木をベースに作ったんだ」
ハデルが手を上げると数体のドラゴンが現れた。
ヒルデガルドの所に現れたのと同じ鉄竜、ストラトエイビスだ。
それも一体だけではなく十体近くおり、小さな群れと言っていい数だ。
拘束された状態でなくても危ない状況だ。
『いい加減、私を頼りなさいよ』
突如、リアーナの頭の中に声が響いた。
それは何処か呆れた口調でもあった。
『黙れ』
『私の力を使えば早いでしょ。あの三人の中ではあなたが一番人間らしいのは分かるけど、頑固なのも程々にしなさい』
声の主はリアーナを少し叱る様な口調だ。
『この煉獄の悪魔であるアスモフィリス様の契約者なんだから素直に力を使いなさい』
リアーナの契約のが煉獄の名を持つ前教皇アナスタシアが魔剣に封印されたとされる悪魔アスモフィリスだ。
『この状況下だと仕方が無いじゃない』
『断る』
リアーナは明確に拒絶を示した。
『本当に頑固ねぇ。あなたはある意味誰よりも騎士かもしれないけど、その範疇が些か広すぎるわ。流石の私でも呆れるわよ』
アスモフィリス自身は少し苛ついていた。
リアーナは今までアスモフィリスの力をほとんど使っていないのだ。
それはアスモフィリスにとって屈辱だった。
過去、大陸でいくつもの街を灰燼と変えてきた悪魔にとって力を使われない事が腹立たしいのだ。
『こんな小物にやられるなんて不本意でしょ?それにあの子が悲しむわよ』
『……』
リアーナはアリアを盾にされて押し黙るしか無かった。
『あれを焼き払うだけなら大丈夫でしょ。幸い、後方との距離は充分あるんだから』
『……分かった』
リアーナは渋々頷いた。
『本当に困った契約者だわ。悪い契約者じゃないんだけどねぇ……』
アスモフィリスは溜息混じりに洩らした。
「足掻いても無駄だよ。ストラトエイビス、やれ」
ハデルは呼び出したストラトエイビスに命令すると、ストラトエイビスは拘束されて動けないリアーナに向って突撃してきた。
『行くわよ』
アスモフィリスは力を解放する。
「我は汝を顕現させる依り代也。今ここに煉獄を再現させよう」
リアーナの言葉を紡ぐ。
それと同時に周囲に膨大な赤い魔力が放出される。
「な、何だ!?」
ハデルは魔力の赫光の眩しさに思わず手で目を覆う。
リアーナは最後の一言を解き放つ。
「煉獄よ、全てを焼き尽くせ」
言葉と同時に赤い魔力が紅蓮の炎へと姿を変え周囲へ一気に広がり、街道沿いの草木を燃やしていく。
その炎は草木を燃やし尽くしても消えず、炎の色が徐々に蒼く変化していく。
蒼い炎―――獄焔とも呼ばれ地獄で燃え盛る炎とされる。
獄焔の中心にリアーナが悠然と立っていた。
だがその姿はいつもと違う。
美しい銀髪は蒼く染まり髪の半分は獄焔となり、リアーナの身を包んでいた。
リアーナの四肢を拘束していた蔓は獄焔によって燃やし尽くされた。
ここに煉獄の悪魔リアーナ=アスモフィリスが顕現した。
リアーナは軽く手を振るうと、迫ってきていたストラトエイビスへ獄焔が襲い掛かる。
獄焔は一瞬で十体近くいるストラトエイビスを覆い尽くす。
獄焔は鉄竜の鱗を溶かし、その身を焦がし、骨も残らず焼き尽くす。
辺りに響き渡るのは燃え盛る獄焔の音と鉄竜の悲鳴だけだ。
ストラトエイビスを覆っていた獄焔が消えるとその場には何も残っていなかった。
獄焔は灰さえ残さなかった。
リアーナの深碧の瞳はハデルを捕らえた。
ハデルはその瞳に見つめられ、体は恐怖に包まれた。
ストラトエイビスはSランク冒険者でさえ群れで現れれば苦戦を免れない存在だ。
それを一瞬で跡形も無く焼き尽くした存在。
その存在に恐怖を抱かずにはいられないだろう。
だが逃げようにも周囲が獄焔に囲まれて逃げ道は全て塞がれている。
この場に留まっているだけで肌が焼けていく。
「ふぅ……」
リアーナが突然、息を吐いた。
ハデルにはそれが何を意味するか全く理解出来なかったが、これは助かるチャンスだと思った。
リアーナに命乞いをしようとした瞬間、声が出なかった。
ハデルの中心にいつの間にか大きな穴が開いていた。
ハデルの眼は信じられない様な物を見たかの様に驚愕の表情のまま力無く前に倒れた。
リアーナが息を吐いたのは獄焔の制御が上手く出来たからだった。
獄焔でハデルを焼き尽くすのは簡単だった。
だがハデルはこの合成獣発生事件の首謀者の可能性があった。
そうすると跡形も無く焼き尽くす訳には行かないのだ。
だから針の様な細い獄焔を放ったのだ。
リアーナは細かい制御が苦手だった。
針の穴に糸を通す様な集中をした為、終わった後にほっと一息吐いたのだ。
リアーナの悪魔の能力は厳密に言うと獄焔を操る能力では無い。
獄焔を操るのは能力の極一部だ。
リアーナの能力は煉獄をこの世に再現する事だ。
獄焔が燃え盛る退廃した世界の具現化。
これは単なる悪魔の契約者では不可能なのだ。
悪魔化が進んでいるアリアでもカタストロフの持っている力の全てを使う事は出来ない。
それなら何故、リアーナはアスモフィリスの力を全て使う事が出来るのか。
一言で言えば悪魔との相性が良かったからだ。
普通であれば悪魔の力に馴染むまで時間が掛かるがリアーナにはそれが無かった。
すぐにほとんどの力が使える様になった。
だが良い事ばかりだけでは無く弊害もあった。
それは相性が良すぎる為、リアーナとアスモフィリスとの融合が進んでいる事だ。
力を使えば徐々に融合が進行していく。
その影響で力を解放するとリアーナはアスモフィリスと融合した姿となってしまう。
リアーナはそれを恐れて力を極力使わない様にしていたのだ。
アスモフィリス自身もそれを理解している。
だがこの事はアリアもハンナにも教えていない。
リアーナがアリアより心臓食いを行わないのは時間が経てば悪魔となってしまうのが分かっているからだ。
融合した後どの様になるのかはリアーナもアスモフィリスも分っていない。
リアーナは辺りの獄焔を全て消して力の解放をやめると、髪はいつもの流れるような銀髪に戻っていた。
『相性が良すぎるのも難点ね』
『全くだ。それともう少し小回りが利くと良いんだがな』
『あなたの制御が甘いだけでしょ。あんまり私が制御に力を入れるとあなたに引っ張られるんだから頑張ってよ』
肉体の主導権はリアーナが持っている為、どうしてもアスモフィリスがリアーナに引き寄せられてしまうのだ。
『私としては融合しても良いんだけどね』
『……』
『本当にこんな人間に執着がある人間と相性が良いのが不思議だわ』
アスモフィリスは呆れていた。
誰よりも強く、誇り高く、十全と悪魔の力を発揮出来る者が人間と言う小さな器に拘るのか理解が出来なかった。
それは人間と悪魔では価値観が決定的に違うからだろう。
『私の事なんか気にしなくても良いのにね……』
ヒルダ「何故、私の出番が飛ばされたのでしょうか?」
アリア「……」(目を逸らす
ヒ「昨日いくつケーキを食べたのですか?」
ア「……二十三個」
ヒ「さぞ美味しかったのでしょうねぇ」
ア「……うん、とっても美味しかったよ!」
ヒ「夜中にトイレに篭っていたのは誰でしょうか?」
ア「……」
ヒ「誰なのでしょうね?」
ア「ごめんなさい!食べすぎでお腹が痛くて約束を破ってごめんなさい!」
ヒ「ブッシュドノエルにチェコレートケーキ……とっても美味しそうですよね?私どっちも食べれなかったんですよ。噂ではアリアちゃんとハンナさんで食堂にあったケーキの半分は食べたとか?」
ア「美味しくてつい……」
ヒ「そんな訳でアリアちゃんが過去にやらかした悪戯をマイリーンさんに報告しましょう」
ア「やめて!?それは絶対にやめて!!マイリーンさんに叱られる……」
ヒ「既に一部は報告した後なんですけどね」
ア「え?」
ヒ「さて今日は私はリアーナ様の勇姿をたっぷり見ますのでアリアちゃんはマイリーンさんにたっぷり叱られて下さいね」
ア「嘘?」
マイリーン「アリア様、それではこっちでたっぷりお話をしましょうか?」
ア「マ、マイリーンさん……」
マ「諦めましょうね」
ア「許してーーーー!!」
ヒ「さて私はのんびりしますかね」




