46:合成獣殲滅戦 in 東門@ヒルデガルド
ヒルデガルドはリアーナ共に東門へ来ていた。
Aランクのシモンやルーク達のパーティーが上手く立ち回っているお陰で数に圧されている感はあるが、門を突破される様な気配は無い。
それにこちら側にはSランクの剛剣のガリアスにAランクの雷撃のベイルートがいるので、徐々にではあるが合成獣の数を減らしていた。
それでも数は二十体以上いる。
「私は最前線を潰しに行く。ヒルダ殿は危なげな冒険者のフォローをお願いしたい」
「分かりました」
ざっと行動方針を決めるとリアーナは最前線に向かって走り去っていく。
ヒルデガルドは辺りを確認する。
足止めしつつも危なげなパーティーを一組発見した。
「液化鉄精製」
魔法で液状化した鉄を生み出す。
数が多いのでいつもより量を多めに生成する。
「錬成、剣雨」
今回は生み出したのは純粋な剣では無い。
ブーメランに刃が付いた様な武器だ。
高速で回転させる事で合成獣の首を落とすのだ。
ついでにブーメラン形状にする事により自分の傍に戻ってくる様にして、鉄の消費をへらす事が出来る。
ヒルデガルドの錬成はには欠点がある。
それは材料を調達しなければいけない事だ。
当然、錬成して剣を撃ってしまえば材料は減っていく。
土魔法で鉄を生み出せるとは言え、どうしても材料を補充するのは戦闘中では大きなロスになる。
それに生み出した鉄は魔力で生み出しているので魔力が無くなって暫くすると消えてしまう。
だがメリットが無い訳では無い。
魔法で攻撃を続けるより遥かに魔力のコストパフォーマンスが良い。
ヒルデガルド自身、魔力が少ない訳では無いが、一般的な宮廷魔術師に比べればほんの少し多いと言う程度だ。
五級以上の魔法を使い続ければすぐに魔力切れを起こしてしまう。
ヒルデガルドはソードブーメランを高速回転させ合成獣に向って撃ち放つ。
美しい弧を描きながら合成獣の首を切り落とし、首が宙を舞い、血を撒き散らしながら地面に倒れる。
「強度は充分の様ですね」
錬成したソードブーメランの強度を確認し、満足げに笑みを浮かべる。
合成獣を相手にしていた冒険者達は突然、合成獣の首が切り飛ばされて呆然としていた。
それを気にせずヒルデガルドは近くにいる合成獣に向って高速回転した十数個のソードブーメランを解き放つ。
他の冒険者と応戦していた合成獣は突然の攻撃に対応出来ず、次々と首が切り飛ばされていく。
『制御が上手くなったじゃない』
戦闘中に声を掛けてきたのはヒルデガルドと契約している悪魔、ハルファスだ。
『ちゃんとハル姉の言う通りに訓練してきたから当然です』
ヒルデガルドは悪魔ハルファスを実の姉の様な存在と思っている。
生まれた時から一緒におり、ハルファス自身がお節介焼きなのも相まってハル姉と呼んでいる。
『少し制御数は減らした方が良いかも。まだ敵はいるし、他の奴らがいるから無理する必要は無いから』
『分かりました』
ヒルデガルドは浮かんでいるソードブーメランの内、半分を液状化した鉄に取り込む。
『ちょっと森側に嫌な気配を感じるから警戒』
ヒルデガルドはハルファスに言われ森の方に警戒を向ける。
その瞬間、森から眩い光が溢れ出る。
光の眩しさに思わず目を覆う。
突如、木々を押し倒す様な音が周辺に響き渡る。
そこに現れたのは合成獣では無く、鈍色の鱗に包まれたドラゴンだった。
「こんな所になんでドラゴンが!?」
冒険者達は突然のドラゴンの出現に逃げ出す。
高ランクの冒険者のほとんどがここより先の戦線にいる為、この付近にはいる冒険者は高くてもCランクぐらいだ。
ワイバーン以外の羽のあるドラゴンは基本的にAランク以上。
『さっきの光は恐らく召喚魔法の光よ!本当は術者を探したいけどあれを止めないとヤバイわよ。ここにいる奴らじゃ歯が立たない』
ハルファスの言葉にヒルデガルドはソードブーメランを一斉に撃ち放つ。
ソードブーメランはドラゴンの硬い鱗に阻まれ弾かれてしまう。
「嘘!?」
『思い出した!あれは鉄竜、ストラトエイビスよ!鱗は鋼の強度を持っていて凄く硬い』
鉄竜ストラトエイビス―――
西の大陸、カラル峰に生息すると云われる鋼の鱗を持つドラゴン。
知能が低い為、厳密には竜では無く亜竜と分類される。
気性は荒く獰猛で群れで行動する為、Aランクではあるが、実質Sランクの魔物として扱われる。
特徴として鋼の鱗を持つと云われているが、その鱗の硬さは鋼を超える硬さ持つとされている。
並みの冒険者では歯が立たない魔物である。
「それを早く言って下さい!!私と相性最悪じゃないですか!!」
思わず声を出して抗議するヒルデガルド。
弾かれて地に落ちたソードブーメランは消えていく。
ストラトエイビスは攻撃されてヒルデガルドの方へ地鳴りを起こしながら走ってくる。
「地隆起」
地面に手を当ててストラトエイビスの足元の地面を持ち上げる。
これで転ばせて足止めするつもりだ。
しかし、ストラトエイビスはそのまま地面を踏み台にして跳躍する。
「錬成、回転針!」
ヒルデガルドが生み出したのは刃が螺旋状に付いた針だ。
貫通力を重視した錬成だ。
欠点は形が細かいので一気にたくさん錬成出来ない事だ。
狙いは心臓。
手を広げているお陰で狙いは定めやすい。
「発射!」
魔力を込めて高速回転を与えて発射する。
かなり大きく動いているのでストラトエイビスの心臓では無く、肩に直撃する。
しかし、発射した一撃は貫通せず、当たった衝撃で後ろによろめかせた程度だった。
ストラトエイビスは体勢をすぐに持ち直して咆哮上げる。
木々が震える。
「硬すぎますね。本当に鋼なのでしょうか?」
鋼であるのなら今の一撃で貫通する筈なのだ。
先程、錬成したのは鍛造状態を再現した物。
鋼でもただ弾かれるなんて事は無いのだ。
普通の剣でいくら攻撃しようがストラトエイビスには効かない。
ストラトエイビスはヒルデガルドへ迫ってくる。
「くっ、錬成、盾!!」
ストラトエイビスを遮る様に巨大な鉄の盾を作り上げる。
激しい衝突音が響き渡る。
作り出した鉄の盾が歪む。
暴れるストラトエイビスは邪魔な鉄の盾に体をぶつける。
ストラトエイビスを足止めしている内に距離を取り、ポーチから黒精霊銀と鉄塊を取り出す。
鉄で強度が足りないならそれより強度がある金属であれば良いのだ。
「錬成、混合」
黒精霊銀と鉄の合金を作る。
それを先程の様に螺旋状の刃が付いた針にして攻撃するつもりなのだ。
これの欠点は撃った後は自分で回収しなければならない。
素材は無料では無い。
出費としては結構手痛い。
ストラトエイビスを留めている盾もかなり変形し、そう保てないだろう。
ストラトエイビスの強靭な身体の前では長い時間の足止めは適わない。
鉄の盾は歪み、いくつもの亀裂が走っている。
「錬成、回転針!」
ヒルデガルドは急いで錬成する。
盾が壊されるギリギリまで錬成し、盾が壊れた瞬間に撃ち込むつもりだ。
そして、鉄の盾がストラトエイビスによって破壊される。
準備した弾は五発。
心臓に狙いを定めて撃ち放つ。
「発射!」
放たれた高速弾は若干、外れてストラトエイビスの腹部を貫通した。
それと共に街道にストラトエイビスの苦悶の咆哮が響いた。
「次弾、装填!」
再び、狙いを定めて撃つ。
「発射!」
高速回転した弾は暴れるストラトエイビスの肩を抉り取る。
ヒルデガルドは焦らず次の弾の照準に集中する。
「発射!」
三発目は心臓から僅かに逸れて腹を穿つ。
四発目は足の付け根を綺麗に抉り取り、ストラトエイビスの足が完全に止まり、動きが鈍くなった。
ヒルデガルドは頭を垂れたストラトエイビスの頭に狙いを絞った。
「これで止め!!発射!」
最後の一撃は見事、ストラトエイビスの頭に直撃し、頭の上部を吹き飛ばした。
ストラトエイビスはゆっくりと崩れ倒れる。
ヒルデガルドは息を吐き、軽く服の埃を払った。
『あそこ!!』
ハルファスの指す方向にローブに身を包んだ男がいた。
ヒルデガルドが振り向くと同時に姿を消した。
『何かいた?』
ヒルデガルドにはローブの男は分からなかった様だ。
『森にローブを被った男がこっちを観察していたわ。きっとアイツがストラトエイビスを召喚した奴よ。こっちが気付いた瞬間、姿を消したわ』
『追いかけるのは無理そうですね。ここは他の方のフォローに入るべきですかね?』
辺りにはまだ合成獣と戦闘をしている冒険者がチラホラいる。
『それで良いわ。深追いは禁物よ。さっきので結構、消耗したのなら一旦退くのもありよ』
ヒルデガルドは先程の錬成でかなり魔力を消費していた。
かなり急いで錬成を行ったのと、弾にも高速回転を与えたり、弾道制御にかなり魔力を使っていたのだ。
特に合金を作る作業は慎重に行わなければ強度が下がる事もある。
更に貫通力を出す形状を作り出すのはかなり集中力が必要なので、戦闘中にあれだけの精度で錬成すると精神的な疲労も大きくなる。
『危なっかしい戦闘している冒険者もいないわ。休息も大事よ』
『分かりました』
ヒルデガルドは大人しくハルファスの言う事に従う事にした。
『本当に悪魔とは思えませんよね。ハル姉は』
『頼りになるお姉さんにもっと頼りなさい』
二人は本当に仲が良い姉妹の様だ。
『下がるついでに怪我人の治療でもしましょう』
『それじゃ休息にならないじゃない……』
ハルファスは溜息を吐きながらもヒルデガルドを温かく見守る。
そこには何処か強い思いがあるかの様に。




