44:合成獣殲滅戦 in 西門@マイリーン
アリアを見送ったマイリーンとハンナは門の前で待機していた。
二人の役割は合成獣を門の中に入れない事。
マイリーンは戦いが得意な人間ではない。
寧ろ合成獣になるまでは学校で習った護身術の授業でしか戦った事が無い。
研究所の屋敷から逃げ出して草原の巣に落ち着くまでは魔物と身を守る為に戦いはしたが生きていく為に止むを得ず行った結果だ。
必死で考える余地が無かった。
その時はそれで良かった。
今は違う。
自分の意思で、アリアと一緒に戦うと決めて戦場に立った。
だが目の前が戦場だと言う事に足が竦んだ。
戦いに身を置いてない者が戦いの場に立てば当然である。
メイスを握る手が汗ばむ。
「マイリーン様、落ち着いて下さい」
静かな声でハンナが声を掛ける。
「この場には私がいます。この様な戦場は初めてなのは分かります。狩りと同じと思って下さい。そう考えれば少しは楽になると思います」
狩りで魔物を相手にするのとは今の場面は違う。
明らかに街を襲いに来た魔物だ。
そして冒険者や衛兵が魔物と対峙し怒号が飛び交う環境は全く別物なのである。
「大丈夫ですよ。ここなら囲まれる心配もありませんし、他の方の取りこぼしを相手にするだけなので」
「はい!」
マイリーンは大きい声で返事をし、自分自身を鼓舞する。
その様子を見てハンナはほっとする。
「一体、向ってきます!」
前方から一体の合成獣が突進してくる。
「マイリーン様は正面、私は隙を突いて首を落としていきます!」
「はい!」
マイリーンは一歩前に出てメイスを構える。
合成獣の突進を正面から受け止める。
「ぐぅぅぅっ……がぁ!!」
力で合成獣を無理矢理押し返し、手にしたメイスを力一杯叩き付ける。
少し狙いが逸れて首の根元に当たると鈍い肉が拉げる音と共に合成獣が痛みで暴れる。
暴れる相手に怯まずメイスを必死に何度も叩き付ける。
突如、一本の首が地面に落ちる。
マイリーンに気を取られている隙にハンナは死角へ回り、風を纏わせたダガーで両断したのだ。
別の首がハンナに襲いかかろうとするが、そこに姿は無く、離脱した後だ。
ハンナに注意が向けばマイリーンへの警戒が薄まる。
その隙を逃さずマイリーンのメイスの一撃が襲う。
無防備になった合成獣の首に直撃し、有らぬ方向に折れ曲がる。
最後の首もハンナの一閃により落とされる。
「マイリーン様、大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
合成獣の突進を直に受け止めたが特に怪我は無かった。
寧ろあの突進を受け止めて無傷なのが異常ではあるが。
「邪魔なので処理しましょう」
ハンナは腰のポーチに倒した合成獣の死骸を放り込む。
ただハンナは空間収納の魔法では無い為、容量がアリアやリアーナ程大きくないので合成獣だと五体程収容するのが限界だ。
ハンナは周囲を見渡す。
危ない状況の冒険者はアリアがフォローしているから問題無かった。
この街にもAランクの冒険者が何人かいるので何とか対処出来ていた。
ハンナはこの調子ならあぶれて門に向ってきた魔物だけ処理するだけで充分と判断した。
その時一人の冒険者が吹き飛ばされてくる。
ハンナがすぐその冒険者に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
その冒険者は頭から血を流し、腕も骨折していた。
ハンナはすぐ近くにいる衛兵を呼ぶ。
「この人にすぐ手当てをお願いします!」
衛兵はすぐその冒険者を門内の待機所へ運んでいく。
「ハンナさん、三体こっちに向ってます!」
ハンナは振り向くと先程と同じ合成獣が三体が門に向っていた。
周囲にいらひ冒険者達も他の合成獣と応戦していてフォローに回れそうには無かった。
遊撃中のアリアは前方で魔法を使用しており、応援は期待出来ない。
「私が二体を何とかしますので、マイリーン様は一体をお願いします」
ハンナはダガーを構える。
「分かりました」
マイリーンは武器をメイスから大斧へ持ち替えた。
理由はメイスより大斧の方が致命傷を与えられると思ったからだ。
合成獣に一人で立ち向かうのに気合を入れる。
離れた位置から合成獣が炎を吹いた。
炎を避けようとしたマイリーンだったが背後に怪我をして下がっていた冒険者達がいた。
避ければ後ろの冒険者達に炎が襲いかかってしまうと気付いたマイリーンはその場に留まり、急いで魔法の準備をする。
「光よ障害を退け!光障!」
マイリーンは光の障壁を生み出し迫る炎を防ぐ。
文官系の神官ではあったが魔法が全く使えない訳ではなかった。
実は光と水の二属性の適正があるが、魔力量が多い訳では無いので魔術師としては期待されなかった。
その為攻撃魔法はほとんど習得せずに護身用に防御や治癒魔法の習得を優先した。
文官系の神官なので魔法を鍛えてこなかった為、アリアやハンナは詠唱無しで魔法を発動させる事が出来るが、マイリーンには出来ない。
鍛錬をすれば詠唱無しでも魔法を発動させる事が出来るようにはなる。
「大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫だ。助かった」
マイリーンに助けられて少し困惑気味に礼を返す冒険者。
魔物に助けられる経験は普通には無い。
マイリーンは向っている魔物に大斧を構えて立ち向かう。
アリアにはキラーマンティスやワイバーンなら倒せるとは言ったがかなり強がりをしていた。
倒せない訳ではない。
実際に草原の巣に落ち着くまでに何回か倒しているが、かなり傷を負い苦戦を強いられて何とか倒したレベルだ。
本当は戦いが怖い。
今でも足が竦んで立ち止まってしまいそうなのだから。
これからは自分の身は自分で守らなければならない。
その思いだけで必死に前に足を踏み出す。
穴倉ではもういつ死んでも良いと考えていた。
でも今は違う。
こんな身体になっても待ってくれている人がいる。
それを思えば少しぐらいの痛みなんて怖くない。
自然と大斧を握る手に力が篭る。
「アァァァァ!!」
突進してくる合成獣に対して大斧を突き出す。
向こうもそう簡単には行かない。
大斧を横に避けて噛み付こうとしてくる。
全力で大斧を横に振る。
「ガァァァァッ!!
合成獣もそれに反応して距離を取る。
大斧が空振ってしまうが、合成獣となった身体は大斧に振り回されずに身体を上手く制御出来た。
この身体になったから如何ともし難いのが走る速さが遅い事だった。
重たいハンタータームの胴体が動きを阻害するからだ。
対峙しているケルベロスをベースにした合成獣は動きが速いので距離を取られると戦いが厳しい。
ヒルデガルドは動きの遅いマイリーンの事を考えて大斧の刃の反対側の柄の一番下にもグリップを設けたのだ。
これだけ重い大斧の端を持って振り回すのは人であればまず無理だが、マイリーンの膂力であれば充分振り回せると考えた。
大斧が持つリーチを最大限に生かせれば多少は対処出来るのは無いかと考えたのだ。
「この程度でっ!」
マイリーンは一番、端のグリップに持ち替え片手で大斧を一閃。
合成獣の肩を僅かに掠めた。
距離を置く暇を与えずに大斧を振り回す。
技は関係無く持てる力で振り回すだけだ。
当たれば吹き飛ぶ様な一撃を繰り出し続けるマイリーンに合成獣は必死に攻撃を避けようとするが、掠り傷が増えていく。
人ならざる膂力で振るわれる大斧は正に必殺の一撃だ。
合成獣もそれを本能的に理解している。
突如、鈍い音とともに合成獣の脇腹に大きな衝撃が走る。
マイリーンの左手にはメイスが握られていた。
隙を見てメイスを取り出していたのだ。
大きく横に揺れた合成獣はバランスを崩しそうになるが、足を踏ん張り体勢を維持する。
「これでどうです!!」
その無防備な瞬間を逃さず、渾身の力を込めて大斧を振り下ろすと、合成獣の一本の首が宙を舞う。
首を一本失った合成獣は暴れるが、メイスの一撃をお見舞いすると当たった箇所の肉が拉げて骨を粉砕され悶絶する。
悶絶する合成獣にマイリーンの大斧は無慈悲に首を刈り取っていく。
首はまだ一本残っていたが合成獣は横倒しになり痙攣していた。
メイスの一撃で肺の一部が潰れて呼吸が出来なくなったからだ。
残った首を大斧で両断し、止めを刺す。
マイリーンは合成獣二体と相対しているハンナを確認しようと辺りを見回すと一人の冒険者がマイリーンに向って魔法を放った。
「え?」
他の冒険者から攻撃をされると思っていなかったマイリーンは一瞬、呆然とし行動が遅れてしまう。
冒険者から放たれた火の槍がマイリーンに直撃し、衝撃で吹き飛ばされる。
「あぁっ!!」
地面を転がるマイリーン。
魔法を放ったのは怪我をして門の傍で衛兵に怪我を治療してもらっていた冒険者だった。
「……な、何で?」
マイリーンは唐突な一撃に頭が混乱していた。
起き上がろうとした瞬間、マイリーンの身体に衝撃が走り、再び地面を転がらされる。
「ぐぅぅっ……」
痛みに呻き声を漏らす。
ヒルデガルドの作った服が良い働きをした。
魔法を二発も直撃すれば充分致命傷なのだが、マイリーンが身に付けているのは黒精霊銀と銀と鉄を混ぜ合わせた合金を繊維上にして、編み上げた服なので魔法への耐性が強い。
致命傷は免れたが痛みで動けなかった。
気が付けば十人以上の黒ずくめがマイリーンを取り囲んでいた。
衛兵が動く気配は無い。
「……何者ですか?」
痛みを堪えながらも質問をぶつけるが返ってくる気配は無い。
マイリーンは目星は着いていた。
逃げたマイリーンを始末する為に現れた合成獣研究者の一味だと。
黒ずくめがマイリーンに向って剣を振るった。
その瞬間、マイリーンはもうダメだ、と思った。
が、黒ずくめの放った一撃は見えない障壁によって弾かれた。
「何だと!?」
黒ずくめ達に同様が走る。
「これ以上マイリーン様には手を出させません」
マイリーンを取り囲んだ黒ずくめと魔法を放った冒険者の間にハンナがいた。
アリア「マイリーンさんがピンチなのに全く気付いていない私はダメダメだ……守るって言ったのに……」
ヒルダ「ハンナさんが間に合ったから良かったじゃないですか」
ア「それはそうなんだけど……」
ヒ「それにしても強いですね」
ア「斧とメイスの二刀流していると誰も近寄れないんじゃないかな」
ヒ「武器を作った私が言うのもあれですが、もう少し自重した方が良かったかも」
ア「何を今更」
ヒ「そうですよねー。でも服を新しく作っておいて正解でした」
ア「それはヒルダさん、グッジョブ」
ヒ「私も活躍しますからね」




