43:合成獣殲滅戦 in 西門@アリア
アリアは大剣を右手に持ち、門の近場にいて、戦況が危ない冒険者を優先して助けていく事にした。
手にしている大剣は悪魔カタストロフが封印されている。
カタストロフの持つ魔力を放出する事により切れ味を一時的に強化する事が出来る。
わざわざアリアの持つ悪魔の能力である破壊を使わなくても強力な攻撃が可能であり、カタストロフの持つ剣技をアリア自身にトレースする事が出来る。
アリアが大剣を用いての戦闘が強い理由がこの能力があるからだ。
これは剣を持っているからではなく、カタストロフと契約する事により付随して得られる能力だ。
契約当初は能力に振り回される事が多かったが、この一年で身体に大分馴染んでいた。
リアーナやハンナと実践想定の模擬戦で扱かれた事が大きい。
アリアが全力で挑んでも未だにリアーナから一本も取れない。
純粋な武器を使った戦いではリアーナが五人の中で最も強い。
アリアは合成獣と応戦中だが合成獣の強さに足並みを乱されている冒険者達が目に留まった。
『力だけ維持して。まずアイツから倒す』
『分かったよ』
アリアの指示にカタストロフは頷き、剣に纏わす力の出力を一定にする。
合成獣の死角から一気に一振り、二振り、三振りと合成獣の首を切り落とす。
カタストロフの力を纏わせた大剣はケルベロス程度の魔物であれば簡単に両断してしまう。
応戦していた冒険者達は一瞬、何が起きたか分からなかった。
だが合成獣の首が地面に落ちる所を目にし、倒された事に気付く。
「相手が出来ないと思うなら門まで下がって」
そう言い残しアリアは森から出てくる一体へと駆け寄る。
しかし、向こうもアリアに気付き、サラマンダーの首を向ける。
『あれ何?身体がケルベロスで首がサラマンダーとワイバーンにグレーターブルとか頭の悪いパズルみたいで気持ち悪い』
『合成獣研究とか悪趣味だよね。でもあれぐらいなら今の力のままでも余裕かな。火を吹いてくるかもしれないから気をつけて』
カタストロフの予想通り合成獣はアリアに向って炎を吹こうとしていた。
スピードを緩めず合成獣に突っ込む、それと同時にサラマンダーの首から炎が放たれる。
アリアは焦る事も無く、迫り来る炎を大剣で切り付けると霧散する。
カタストロフの力は魔法や炎、冷気にも効果がある為、切りつける事で破壊する事が出来る。
向こうも炎を防がれた事に気付き、前足でアリアを振り払おうとする。
アリアは後ろへ下がりその攻撃を躱すと頭上からワイバーンの頭が大口を開けて迫ってきた。
「風撃!」
放たれた風の弾はワイバーンの頭に当たり合成獣はバランスを崩し仰け反る。
アリアは間合いを取る。
『厄介。さっきは死角から不意を突いたから良かったけど、正面から相手するのはしんどいなー』
『多分だけど一つの首を落としても動き続けるだろうね。さっきみたいに全部落とすしか無いかな』
カタストロフは軽い調子で言ったが、アリアからすれば面倒極まりない。
アリアは合成獣と対峙して違和感があった。
『あれはそれぞれの頭に意識があるから』
なるほど、とアリアは心の中で呟いた。
動きが妙にチグハグなのに連携を取ろうとする、
『まぁ、やらないと終わらないからさっさと片付けよう』
簡単に言ってくれる、と思いながらアリアは大剣を構え、合成獣の前足を狙う。
時間は掛かるが足を止めて首を落とす作戦だ。
近づくアリアを振り払おうと前足を振るうが、それが狙いだ。
振るわれる前足を切り飛ばす。
合成獣はバランスを失い横倒しになる。
その隙に首を順番に落としていく。
最後まで踠く様に首を振り回すが、アリアの一閃で力なく地面に落ちる。
『戦いにくいから大変』
『はいはい、我侭言わない』
愚痴るアリアをカタストロフは窘める。
『まだ二体だよ、まだまだたくさんいるよ』
『終わったらスイーツたくさん食べてやる!』
ご褒美のスイーツの事を考えないとやってられないアリア。
どうもアリアにはこの合成獣の見た目が受け入れられない気持ち悪さらしい。
アリアは片っ端から合成獣を倒していく。
十体程倒すと、姿を現した異形にアリアはその姿に固まる。
「な、何あれ……?」
目の前に現れたのは正に異形としか形容出来なかった。
辛うじて人の姿をしているが、天を仰いだ口や身体中のあちこちから触手が生えており、足取りが覚束なく不気味でしかない。
まるで悪い夢に出てくる様な怪物だ。
触手が邪魔をしているのか、低くくぐもった唸る様な声を出している。
『き、気持ち悪っ!?』
『いくらなんでも悪趣味が過ぎるよ……』
流石のカタストロフでも直視には堪えない様だ。
『あれって、人をベースにした合成獣かな?』
『ちょっと、判断付かないな。もし合成獣だったとしても普通じゃないよ、あれ』
例え合成獣であったとしてもどの様にしたらあれだけ醜悪な物が出来上がるのだろうか、とカタストロフは思った。
『あれ、精神的にキツイんだけど』
『でも駆除するしかないんじゃない』
『あれの心臓を食べろとか言わないでよ』
『流石に僕でもそんな事は言わないよ。それ、僕にとっても拷問だからね』
カタストロフは心外だと言わんばかりに抗議した。
『取り敢えず、やってみようか』
アリアは異形の合成獣の懐に踏み込み大剣を一振り。
手応えも無く胴体を両断した。
『思ったより大した事ないなー』
『ヤバイ、あれを見て』
アリアはカタストロフに促されて両断した異形の合成獣を見ると断面が蠢いていた。
『?』
蠢いていた箇所から身体から生えている触手が生えてきた。
更にその触手を器用に動かし起き上がろうとしている。
『気持ち悪い、気持ち悪い!!何なのよ、あれ!?』
目の前の光景に吐き気すら覚えた。
『落ち着いて!あの様子だと切ったぐらいじゃダメみたいだね』
『あー、もう!!』
アリアは異形の合成獣に手を向ける。
「暗球!」
アリアの手に黒い球体が生まれ、それを異形の異形の合成獣に向って放つ。
黒い球体に飲まれると異形の合成獣はボロボロの土塊の様になり崩れ去った。
『魔法でなら大丈夫っぽい』
『向こう見ると凄いよ』
カタストロフの言う方向を見ると先程と同じ様な人をベースにした異形の合成獣が二十体以上いた。
『あれ、夢かな?』
『夢なら相当な悪夢だね』
余りにも悪夢みたいな目の前の光景にアリアは現実逃避したくなった。
『そうだよねー。これを引き起こした奴は本当に狂っているとしか思えないよ』
『頭のネジが全部吹っ飛んでるんじゃないかな?あれは下手な冒険者が相手にすると拙いかも。どのぐらいの魔法が効くかも分からないし』
カタストロフは普通に傷を負わせても無駄だと判断した。
両断してそこから触手を生やして分裂したかの様に動き出そうとするぐらいだから、傷を付けた所で倒せる様に思えなかったからだ。
先程、アリアが使った暗球は五級の闇魔法で使い手が非常に少ない魔法だ。
暗球は生命力を根こそぎ奪う魔法だ。
変に身体を吹き飛ばしても増殖する恐れがあるのだ。
『疲れるからあんまりやりたくないけど、あれを使えば一網打尽に出来そうだけど』
『闇重砲を使うつもり?』
闇重砲は九級の闇魔法で広範囲に生命力を奪いながら魂を押しつぶす魔法で、確実に異形の合成獣を倒す事が出来る。
ただそれには問題があった。
『ここで使うのは拙いと思うよ。あれは人が扱える魔法じゃない。いくらSランク冒険者と言えど大問題になる』
過去にこの魔法が使えた人間がいないのだ。
闇重砲を使えたのは超越者と呼ばれる魔王の一角だけだ。
『そのぐらいしか手が無いと思うけど』
アリアは闇と光以外の属性の魔法は苦手だった。
元々、治癒魔法しか使えなかったが、カタストロフと契約し、全属性の魔法が使える筈だったのだが、闇と光以外の属性は二級ぐらいまでしか使えなかった。
最初は他の属性と相性が悪い虚無が原因と思われたが、闇と光が使えるのでその推察は違うと結論付けられた。
火の魔法が使えれば焼き尽くす事も可能なのだが、アリアにはそれが出来なかった。
『いや、雷陣で囲えば焼き尽くせないかな?』
カタストロフは光の魔法である雷陣で雷で囲み、焼き尽くそうと言うのだ。
『あれ、あんまり得意じゃないんだよね』
雷陣は囲うと言う性質上、魔法の細かい制御の腕が試される。
アリアは余り制御が得意では無かった。
『でも一番良い方法だと思うよ』
カタストロフの言っている事はアリアにも分かっていた。
『分かってるよ。やればいいんでしょ』
アリアは渋々了承して囲う範囲をイメージする。
「雷陣!」
魔法の発動と共に異形の合成獣を囲う様に雷が迸る。
幸い異形の合成獣は移動速度が遅く、それ程バラけてはいなかった為、ほとんどの異形の合成獣を雷の中に捕らえる事が出来た。
外側の異形の合成獣の触手が雷の熱によって焦がされていく。
アリアは魔法に集中して雷の陣を維持する。
時間が経つに連れて一体、また一体と崩れ落ちていく。
炭化した異形の合成獣は動く気配が無いのにアリアは安堵した。
魔法と解くと炭化した異形の合成獣だった物が転がっていた。
「これは疲れるわ……」
アリアは周囲を確認するが、取りこぼしは無かった。
ただこの異形の合成獣が何だったのかは分からず心にしこりが出来たかの様に残った。




