42:武器以外も作ります
部屋の扉が開くとリアーナとハンナが入ってきた。
「リアーナさん、お帰り」
アリアは気軽にリアーナに帰宅の挨拶をする。
「鐘を聞いたか?」
「うん、聞こえたよ。一応、召集が掛かると思って準備はしてたけど」
「そうか。準備が良くて助かる。私達もギルドの酒場にいたのだが、合成獣が西門と南門の付近にかなりの数が発生した。私達にも討伐に行って欲しいと依頼があった」
アリアの予想通りだった。
「二ヶ所と言う事はどうするの?」
分かれるか片方ずつ潰すか。
「出来れば分かれた方が良いだろう。前回私達が戦ったケルベロスをベースにした奴らしい。ここの冒険者達では荷が重い」
ケルベロスはAランクの魔物の為、Aランクは最低無いと戦いが厳しい。
出来た所で足止めが限界だ。
「リアーナさんとハンナで私とヒルダさんとマイリーンさんの組み合せで行く感じかな?」
「いや、私とヒルダ殿、アリアはハンナとマイリーン殿だな。私とハンナは合成獣との戦闘経験があるから分けた方が良いだろう。ハンナはサポートメインでマイリーン殿を守る事が優先だ」
リアーナは合成獣との戦闘経験だけでなくマイリーンを守る意味でもハンナとマイリーンが一緒の方が都合が良いと判断した。
二手に分かれる時にリアーナとアリアは両者とも前衛なので基本的に別々になる。
ヒルデガルドが魔法をメインにしたサポートなので戦闘中に近寄れないリアーナとは相性が良い。
「畏まりました」
「そうすると私は距離が近い西門が良いかな」
アリアが西門を選んだのはマイリーンの移動を考えてギルドから距離が近い方が良いと考えたからだ。
「分かった。周囲に他の冒険者もいるから充分、気を付ける様に。ギルドマスターからは直接、現地に向ってくれと言われている。行くぞ」
アリア、ハンナ、マイリーンは急いで西門へ向う。
マイリーンは様相を新たにしていた。
ヒルデガルドは暇潰しにとマイリーンが使う防具をこの二週間で製作していた。
その間に武器も準備しておけば良かったのだが、マイリーンが戦うと言う前提が無かった為、誰も武器が必要と言う認識を持っていなかった。
ピル=ピラでは黒精霊銀が他の街より安価で購入出来る為、ヒルデガルドは大量に買い込んでいた。
錬成で黒精霊銀と銀と鉄を混ぜ合わせた合金を繊維上にして、編み上げた服を作っていたのだ。
ヒルデガルドが黒精霊銀を繊維にするに当たって柔軟性と強度のバランスを考えた組み合せた結果が先程の合金だ。
本当は精霊銀をふんだんに使った繊維を作りたかったが、この街では精霊銀の価格が高く、断念せざるを得なかった。
黒精霊銀の繊維は鉄の剣ではまず切り裂く事は出来ない。
精霊銀程では無いが魔力との親和性もあるので、魔法に対する防御も出来る非常に優れた防具となる服が出来上がった。
だが胴体部分については黒精霊銀の繊維を使用した物では無く、耐火性に優れたフレイムシープの毛で織られた物を使用している。
街のお店を見て回っていたヒルデガルドが偶然、店先にフレイムシープの毛で織られた絨毯を発見してマイリーンの胴体部分に合う様に加工したのだ。
絨毯自体は金貨二枚もしており、それを聞いたマイリーンが恐縮仕切りだったのは言う迄もない。
この五人の中では一番、金銭感覚が庶民なのだから。
ヒルデガルドのお陰で魔物的な見かけは大分目に付きにくくなり、少しは外に出れそうな格好になった。
胴体部分を隠しているのが元高級絨毯なので柄が赤を基調として派手な色使いにも関わらず、服は黒精霊銀の繊維を使用した黒一色の服なので色合いのバランスが悪いのが難点。
ヒルデガルドは時間があればもう少し色合いを考えた服を作るつもりだ。
何を素材にするかは不明だが。
大分様相を整えたにも関わらず通りを走っているとマイリーンが目立ってしまっていた。
魔物を連れた冒険者が珍しくは無いとは言え、マイリーンはかなり特殊でどうしても目に付いてしまう。
緊急事態なので気にしている余裕は無いが。
西門へ着いたアリア達は衛兵を捕まえ、状況を確認する。
「ギルドから応援で来たけど、どんな状況?」
アリアは同時にギルドカードを見せる。
自分の実力を証明出来るし、無駄な説明も要らなくなる。
「Sランクの方ですか!?」
衛兵はアリアのギルドカードを見て驚く。
アリアを初めて見る人間は大抵この反応だ。
目の前の十代半ばの少女がSランクなのだから。
「状況は門のすぐ外で他の冒険者達が魔物と応戦中です。先日、北門に現れた魔物と同種と思われます。ただ今回は十体以上おり、外で戦っている冒険者達も苦戦しています」
「タイミングを見て門を開けて。マイリーンさんとハンナは門を死守しながら近づいてくるのを排除。私は片っ端から倒していくから」
アリアは大雑把に作戦を決めてハンナとマイリーンに伝える。
外にいる合成獣についてはリアーナから聞いているので一人で問題無いと踏んでいた。
二人とも頷く。
「ハンナは怪我人がいたら保護もお願い」
「畏まりました」
アリア達は武器を抜き、いつでも戦える体勢を整える。
衛兵が門を開けるの待っているが中々開く気配が無い。
いきなり門に何かがぶつかったかの様に門が揺れる。
それは門に合成獣が突進した衝撃だった。
「私、上から外に出るから門が開いたら宜しく!」
「はい」
アリアは全速力で門内の階段を駆け上り門の上を目指す。
門の上から門の外を見渡すと合成獣が十体どころか二十体以上いる。
応戦している冒険者たちはいるが、合成獣の毛皮が硬く、攻撃が通らず旗色がかなり悪い。
二人程強い冒険者がチームを組んで何とか凌いでいるが仕留めるには至っていない。
そして門の直下には一体の合成獣と冒険者が必死に応戦しているが、どう見ても押し負けている。
『力を使う?』
カタストロフはアリアへ問う。
「持久戦になりそうだから三割ぐらいに抑えていくつもり。剣に軽く力が込められていれば良いかな」
明らかに数が多く、新手を考慮してだ。
『分かったよ。油断しない様にね』
「分かってる」
アリアの手に持った大剣に黒いオーラが纏わりつく。
その光景に門の上で待機している衛兵は一歩後ずさる。
黒いオーラの禍々しさに。
「行きますか」
アリアは一体の合成獣に狙いを絞り門の上から飛び降りる。
飛び降りた勢いに任せて振りかぶった大剣を合成獣に向って振り下ろす。
合成獣は両断され血飛沫を撒き散らしながら左右に分かれる。
応戦していた冒険者は何が起こったか分からず棒立ちになっていた。
「門の前にいる奴を倒したから門を開けて!」
アリアは大声で衛兵に指示を出す。
棒立ちになっている冒険者へ向き直る。
「怪我をしているなら一度、門の中に下がって」
アリアは門の前から動かない。
門の守りを担当するハンナとマイリーンが出てくるまで門を守らなければならない。
その間に邪魔になりそうな合成獣の死骸を空間収納へ放り込む。
門がゆっくり開き、門の前で合成獣と応戦していた冒険者と入れ替わる様にハンナとマイリーンが門から出てくる。
二人に加えて数人の冒険者が外に出ると門が閉められる。
「二人はここを宜しく」
そう言い残してアリアは駆け出していく。




