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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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41:ヒルデガルドの趣味は武器製造

「暇!!」


 アリアはギルドの宿舎の自室で突如叫んだ。


「アリア様、私の所為ですみません」


 マイリーンは非常に申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 理由は単純だ。

 二週間、ほとんど部屋と食堂とギルドの修練場にしか行ってない。

 マイリーンを保護してから二週間経つが何も起こらなかったのだ。

 初めは領主から何かしらのアクションがあるかと警戒しながらいたが、呼び出しも襲撃も無い。

 依頼と調査はリアーナとハンナが行っている為、アリアとヒルデガルドはマイリーンの護衛で自室にいる事がほとんどだった。


「マイリーンさんは悪くない。でも暇には変わりない。トランプもチェスも飽きたよ」


 アリアは元々室内で大人しくするのが苦手なので読書で時間を過ごすのは苦手で、ヒルデガルドの手持ちのゲームをやっていたのだが、頭脳労働系のゲームもそもそも向いてなかった。

 マイリーンとヒルデガルドはどちらも読書が好きなので暇があれば本を読んでいれば時間が勝手に過ぎていくタイプだ。

 ヒルデガルドの空間収納が付与されたポーチにかなりの本が仕舞ってあり、マイリーンと一緒にひたすら読む毎日だ。


 そうすると残されたアリアは一人やる事もなく部屋でゴロゴロしているだけになってしまっていた。

 かと言って悪戯をすればマイリーンからのきつーいお仕置きが待っている。


「そもそも動きが無いのがオカシイ!」


「そうは言っても孤児院に乗り込む訳にも行きませんからね。だからと言って森の研究所だけ潰して足取りが掴めなくなるのも困りますし」


 ヒルデガルドは読んでいた本にしおりを挟みテーブルに置く。


「そう言えば領主様のご子息が行方不明になり、ギルドに捜索の依頼が出ていましたね。そもそも領主様はどんなお方なのでしょう?」


「そう言えばそうだね。気にした事も無かったよ」


 特に気にした素振りを見せずベッドの上をゴロリと転がるアリア。


「ピル=ピラのあるトゥクムスラ領はトゥクムスラ王国が元となっており、領主はトゥクムスラ王家の当主が担っています。ちょっと

、気難しい所もありますが真面目な方です」


 横からマイリーンが二人の質問に答える。


「マイリーンさん、領主知ってるの?」


「はい。一応、こちらで神官の仕事をしておりましたから四半期毎に領内の報告をしておりましたから」


 アリアはそこで疑問が浮かんだ。


「じゃあ、領主が怪しい研究に手を貸していると聞いてどう思ったの?」


 ハンナが交戦した領主の密偵の事はマイリーンも報告時に聞いていたはずだから疑問に思わなかったのか不思議だった。


「今思えば変だと思うのですがお恥ずかしい話、実はあの時は結構一杯だったと言いますか……」


 あの時のマイリーンは保護されて街に戻ってきたばかりで色々ありすぎて余裕が無かった。

 ここ数日で漸く落ち着いたと言うのがマイリーンの内にある心情だった。

 アリアはベッドの間にいるマイリーンの胴体にベッドから転がりながら乗っかる。


「ごめんなさい」


 マイリーンの胴体に抱きつきながら謝るアリア。


「気にしないで下さい。あの……私の胴体はベッドじゃないですよ」


 少し困った顔しながらアリアに注意するマイリーン。


「えー、マイリーンさんのここは温かいから気持ち良いのに」


 そう言ってマイリーンの胴体を優しく摩る。

 マイリーンのハンタータームクイーンである胴体部分は卵を作り、胎内で成長を促すので人の身体より少し温度が高いのだ。

 困っている様に見えてマイリーン自身は嫌がっていない。

 実際に嫌な行為であれば厳しいお仕置きをするからだ。

 アリアのこの行動自体はマイリーンにとって嬉しいのだ。

 化け物である自分に恐れず触ってくれるのが堪らなく嬉しく、厭わずにいてくれるアリアが好ましい。

 照れるので本人の前では言えないが。


 因みにマイリーンは寝る時にベッドを使わない。

 胴体部分が大きすぎてベッドに入れないのだ。

 なのでベッドの間に布団を敷き、毛布に包まってベッドに寄りかかって寝ている。


「卵を出す時は言ってね」


「はい」


 マイリーンはハンタータームクイーンの習性で何をしていなくても週に一度、卵を数個産み落としてしまう。

 その卵は有性と無性を分けて産み落とす事が可能なのだ。

 無性の卵は餌にする為に作る。

 有性卵で産んでしまうと孵ってしまう可能性があるので無性卵で産む様にマイリーンは気を付けている。

 産み落とした無性卵はギルドに売却している。

 精力剤の材料になる様で需要は高く、買取価格も下手な魔物を狩るより儲かる。

 元気が無くなってきた貴族が買い求めている事が多く需要は減らないらしい。


 買い取りの為にギルドに持って行ったら凄く驚かれたが、どうやらマイリーンの事を知っており、これでお金には困りませんね、と言われる始末。

 卵一つの買い取り価格は銀貨二枚だ。

 大体一週間で多くて六個程なので一月で約二十四個で単純計算で一月銀貨四十八枚の定期収入になるのだ。

 平民の平均月収が銀貨二十枚と考えるかなり余裕のある収入だ。

 それにマイリーンが本気を出せば倍以上の卵を産む事が可能だ。

 但し、卵をたくさん産もうとすると当然、大量の食事は必要になる。


「それにしても私の卵がそんな高く売れるなんて思ってもいませんでした」


「それは私も予想外」


 ハンタータームクイーンが産む卵が高額なのには当然理由がある。

 鳥の卵に比べて鮮度が長く保てない。

 巣を駆除しても卵が持ち帰れる鮮度とは限らないのとほとんどが有性卵で無性卵でないと材料に向かない。

 ハンタータームクイーンの討伐の難易度が高い事。

 これらを合わせると希少性が高くなってしまう。


「売ったお金は全部マイリーンさんが使っていいからね」


 卵を売ったお金は全てマイリーンに渡している。

 これはアリアが決めた事だ。

 普通であれば従えている魔物にお金を預ける事はまず無い。

 だがアリアはマイリーンを絶対に魔物扱いしないと決めている。


「そのお気持ちはありがたいのですが、私自身大手を振って外を出歩けないのであんまり意味が無い様な……」


「マイリーンさん、良いじゃないですか。お金はあって困る物ではありませんし、いざと言う時に必要になるかもしれませんから」


 遠慮がちなマイリーンをヒルデガルドが窘める。

 ずっと穴倉生活が続いた所為かマイリーンは昔に比べて人と一緒である事に抵抗感が生まれていた。

 自分はもう人では無いと言う事が心の奥底に重く深く突き刺さっている。

 何処からか鐘の音が聞こえてアリアが起き上がる。


「この鐘の音は?」


「これは……警戒です!?魔物の襲撃かもしれません!」


 何処の街でもだが街で鳴らす鐘には必ず意味がある。

 早い感覚で連続で鳴らし続けるのは街に危険が迫ってきている警戒の合図だ。


「取り敢えず、どうしますか?」


「魔物襲撃だったら、間違いなくギルドから緊急依頼で召集が掛かると思う」


 街に非常事態が起こった場合、ギルドの権限で強制的に召集し、依頼を受けさせる事が可能だ。

 特にランクの高い冒険者は期待も大きいので緊急時は高確率で声が掛かる。


「マイリーンさんをここに置いていきたくないんだよね」


「私なら戦えますので行かれるならお供します」


 アリアは腕を組んで悩む。

 マイリーンがある程度戦えるとは思っているが問題がある。

 それは機動力だ。

 胴体部分が重く大きい為、素早い動きが無理なのだ。

 ふとアリアは大事な事に気付いた。


「マイリーンさんの武器が無い」


 そう、マイリーンは武器を持っていないのだ。


「それなら大丈夫です。ワイバーンぐらいなら素手で仕留められますので」


 自信ありげに腕を上げる。


「いやー、それはなんと言うか……」


「それなら私がサクッと作りましょうか?」


 武器が無くて不安がるアリアに対しヒルデガルドが自ら武器を作ると提案する。


「あ、そうか。ヒルダさんならそれが出来るよね。でもどんな武器が良いのかな?マイリーンさんって、どんな武器使った事ある?」


「あんまり武器を使った事が無いです。神官時代は後方で治療に専念する事が多かったので……。今の姿になってからはほとんど素手なので」


 神官は戦う職業では無い。

 基本的に後衛で治療や補助のサポートがメインだ。

 更にマイリーンは文官要素が強い神官なので戦闘に関しては訓練で習った程度だ。

 合成獣(キメラ)となってからは生きる為に必死で魔物と戦っていたけなので、戦い方はほぼ素人だ。


「それならメイスとかどうですか?刃の付いた武器は扱いに修練が必要ですが、殴るだけの武器なら比較的扱いやすいと思います」


 ヒルデガルドは極力単純な武器が良いと考えた。

 ワイバーンを素手で倒せると言う事はそれなりに膂力があると見た時にシンプルに殴る武器が良いと思ったのだ。


「そうですね。私も武器を持つなら扱いが簡単な物が良いです。一応、刃の付いた武器もあると助かります」


「それはどうしてですか?」


「いえ、森でスライムに遭遇した時に素手ではどうにもならなかったので」


 スライムはゼリー状で相手を溶かして捕食する魔物だが、基本的に打撃が通じないのだ。

 倒すにはコアと言う核になっている部分を壊す必要があるのだが、打撃だとスライムの軟らかい身体に吸収されてしまうからだ。


「なるほど。体格を考えるとリーチのある物が良いですね。斧とメイスを一本ずつでどうですか?持ってみた感触次第だと思いますが」


「はい。それでお願いします」


 ヒルデガルドは床に布を敷き、ポーチから金属の塊を二種類を取り出す。

 取り出した金属は柔軟性と硬さを兼ね備えた鋼と魔力に対する親和性は精霊銀(ミスリル)に劣るが鋼より強度がある黒精霊銀(ブラックミスリル)だ。

 この二つを混ぜ合わせて合金にする事により、アダマンタイトやオリハルコンには適わないが、かなりの強度を持つ金属になる。


錬成(クリエイト)


 ヒルデガルドは二つの金属の錬成を始めると二つの金属が徐々に一つの塊になっていく。

 錬成の能力で二つの金属を均等に混ぜ合わせているのだ。

 実は単純に物の形を変えたりするより、素材をこの様に混合させる方が難しい。

 特に合金を作る場合は綺麗に均等に混ぜないと強度や硬さ等の性質に大きな影響を与える為、集中力が必要だ。

 融合した金属は艶やかな黒い金属球となり、二つに分かれて地面に転がる。


「ふぅ……」


 ヒルデガルドの錬成の光景をアリアとマイリーンは固唾を呑んで見守る。

 出来上がった塊の一つに集中し錬成を再会する、

 今度は武器にする為だ。

 ヒルデガルドの力により金属が徐々に長く引き伸ばされていき、片方は持ち手なのか少し細め、反対側は太めの形状になっていく。

 太い部分に棘が生え、細い部分には持ち手となる柄の部分を作り、細かい装飾を入れていく。

 本来なら装飾は不要だがそこはヒルデガルドのこだわりで入れている。

 一振りがアリアの身丈もあるメイスが出来上がった。


「マイリーンさん、少し持ってみて貰って良いですか?」


 マイリーンはメイスを手に取り、軽く構えてみる。


「思ったより良い感じだと思います。武器がメイスと言うのは女性としてはちょっと凹みますね……」


 しまった、と言わんばかりにヒルデガルドは口を手で押さえる。

 今しが方、錬成で作ったメイスはかなり大きい武器で人には扱えない重さだ。

 そんな武器を扱う女子が何処にいるだろうか。

 もう一つも斧である。


「じゃあ、槍にとかにしますか?」


「いえ、振り回す武器の方が私には扱いやすいと思いますので斧でお願いします」


 ヒルデガルドはさっきと同じ要領で斧を作り始めた。

 長さは先程と同じぐらいだが先端はかなり大きい。

 先端が球体から徐々に斧の形状になっていく。

 そして刃の部分の錬成に入る。

 刃の錬成は武器を作る上で一番、集中力を要する。

 金属を薄く何層にも重ねて刃の部分に鋭さと強度のバランスを上手く保てる様に慎重に錬成を行う。

 柄の部分は両手で持つ事を考慮した作りにする。

 細かい装飾も忘れない。


 粗方出来た所でヒルデガルドはポーチから少量の精霊銀(ミスリル)の塊を取り出し、刃の部分に薄くコーティングしていく。

 そして黒い柄に銀の両刃の大斧が出来上がった。


「こちらも持ってみて下さい」


 マイリーンが持つと一瞬、刃の部分が輝くを増した。

 これはマイリーンの魔力に精霊銀(ミスリル)が反応した為だ。


「これ、凄い武器な気がしますが……。私には身に余る武器かと」


 この大斧は短時間で作ったとは言え刃の根元部分には花や草の細かい綺麗な装飾が施され、大部分が鋼と黒精霊銀(ブラックミスリル)、刃のコーティングに精霊銀(ミスリル)を使用しているのだ。

 武器屋で購入すれば金貨二十枚以上はするだろう。


「いえいえ、そんな大した物ではありません。本当であれば魔石を埋め込んだり、金細工の装飾を追加したいのですが、時間が足りないですね」


 ヒルデガルドからすれば刃の部分は丁寧にもっと積層を重ねたかったし、魔法を付与した魔石をいくつか嵌め込んだりと詰め込みたい機能を諦めた急造品でしかない。

 仲間が使う武器となればもっと時間を掛けてしっかりとした武器にしたかったのだ。


「ヒルダさん、これ目立ち過ぎない?王宮に飾ってありそうなぐらい豪華なんだけど」


 装飾を凝った所為で見た目が実用より鑑賞用の武器みたいになっているのだ。


「大丈夫ですよ。この装飾は私の趣味です。見た目は以上に頑丈です。本体を鋼と黒精霊銀(ブラックミスリル)の合金、刃は精霊銀(ミスリル)でコーティングしてますので、ちょっと乱暴に扱っても壊れませんよ」


 材料を聞き、マイリーンは顔色が青くなった。

 黒精霊銀(ブラックミスリル)にしても精霊銀(ミスリル)しろ、そう簡単に手軽に買える様な金属では無いのだ。

 冒険者なら憧れの武器とも言える物だから。


「普段は邪魔になると思うので空間収納の付いた鞄に入れておくのが良いですね。時間がある時に改良したいので借りますね」


 マイリーンも空間収納が付与された鞄をヒルデガルドから受け取っていた。

 非常に申し訳なさそうな顔をしながら作ってもらった武器を仕舞う。



アリア「暫く出番が無かったけど漸く戻ってきたよ!」


ヒルダ「と言っても私が武器を悶々と作っていただけですけどね」


ア「ヒルダさんは武器作り歴は長いの?」


ヒ「はい、彼此十年経ちそうですね」


ア「何で武器を作ろうと思ったの?」


ヒ「私の能力が錬成じゃないですか。錬成で出来る事を増やしたかったと言うのと、学院の授業の一環の社会見学に行った先が武器屋の鍛治工房だった事ですね」


ア「何か楽しそう」


ヒ「実際、楽しかったですよ。特に鉄を打って剣を作っている光景は物凄く新鮮でした。学生時代は暇を見つけては工房で鍛治の事を教えてもらってましたから」


ア「神職の人が鍛治とかイメージに合わないなー」


ヒ「普通はそうですね。母が学院に来た時に工房帰りの真っ黒になった私に驚いてましたから」


ア「凄く怒られたでしょ?」


ヒ「ええ、こっぴどく怒られました。結局、私の趣味と言う事で納得してもらいましたから」


ア「そう言えば今、思い出したんだけど、アナスタシア様の部屋に私のリアルな人形が置いてあったんだけど、あれって何処から入手したか知ってる?」


ヒ「……私には分かりません」


ア「何故か私のパンツまで詳細に作り込まれているんだよね」


ヒ「へぇ……そうなんですか(汗」


ア「更にね、それがリアーナさんやハンナも持っていたんだよね」


ヒ「……」


ア「ヒルダさん、私の体をよく触るよね?」


ヒ「アリアちゃんをギュッとすると最高ですから」


ア「それでね。何故かハンナの部屋に水着姿の人形があったんだよね。私の水着姿を見た事あるのはヒルダさんだけだよね?」


ヒ「偶々、他の方に見られただけじゃないでしょうか?(滝汗」


ア「これだけ作れるのはヒルダさんだけだよね?」


ヒ「よ、用事を思い出しましたので、今日はここで……」


ア「さ、ヒルダさん、キリキリ吐こうね」


ヒ「アリアちゃん!!そこは掴んじゃダメです!!」


ア「向こうでゆっくり聞くからね」


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